一章 季節外れのプリムラ【前半】
昼食を取りに食堂に行く。
そこには案の定伊織の姿はなかった。
「伊織クンはねェ〜。やっぱ歩くの辛いからって、鑑クンが昼食届けに行ったよォ」
やはり歩くのは辛かったのか、仕方ないことだ。
まぁまぁ、生きてるんだし大丈夫だよォ〜。
との内沢にそれはちょっと、とドン引きしながらご飯につく。
今日はミートソースのスパゲティだった。
お腹が空いていたのがあっという間に平らげてしまった。鑑の料理が美味しいというのも上乗せ効果だろう。
伊織クンはこの後どうするのォ?と内沢に聞かれる。しかし別に何かしよう、という予定は立てていなかった。
私はこの後暇なんだよねェ。なんか暇つぶしできないかなァ〜。
午後は内沢と話すことにした。
「内沢はなんで才能を隠しているんだ?」
そう、話しかけると内沢は相変わらずニコニコした顔で「この前言った通りだよォ」とだけ言った。
やはり、秘密=ドキドキといった考えは変わらないようだ。
「でもねェ。ヒントは言えるよォ?」
ヒントはねェ、芸術系ではない、かなァ〜?
芸術系では無いらしい。
それでは理数系?体育会系?
どちらなのだろうか。どっちの予想もつかない。
ミステリアス。その単語が一番似合うのは内沢だろう。一体何を考えているのか、何をしているのか全く予想がつかない。
その内面を知ろうと思うのは、やってはいけないことなのではないかと思わせるほどだ。
……宗教系?
それはないか。どこか胡散臭いとは本人にはとても言えない。
「でもねェ〜。こんな状況に巻き込まれるのって正直ごめんだよォ」
今まで話してきた人たちの中でその点については一番、まともだ。
「この、コロシアイ生活に巻き込まれるという事件。企んだのって本当にモノゴンと一郷だけなのかなァ」
「今まで見た感じ、一郷は従ってるだけって感じもするけどな……」
言われてみれば、あの二人だけが企んだと思うのは難しい。一人はただ従っているだけと言った風の者であり、もう一人……一匹は人間ですらない。あんな形の生き物がいるなんて、この世界はファンタジーや夢では無いのだからあり得ない話だ。
誰かの作ったロボットという説が当てはまるのではないか。
じゃあそのロボットを作ったのは誰だ?一郷ならば、自分が校長になり従うよりもモノゴンを従わせる方が理解できる。
「まァ、そこら辺は調べて見ないからにはどうにもならないよねェ〜。」
内沢に言う通りである。何も行動せずに何かを得ることはできない。
何かが起こる前に早く調べて真実を突き止め、脱出の計画をしなければいけない。
「…でも、今のところ皆仲良さそうだし、大丈夫だよな…」
ついそんな言葉が漏れてしまう。不安で……自分以外もそう思っているだろうと肯定の言葉が欲しかった。
「……それはどうかなァ?人ってどう思ってるかなんて、分からないモノだよォ」
しかし、返ってきたそれは冷たいものだった。
相変わらずニコニコしている内沢に、ああ……この人は本当によく分からない、としか思えなかった。