一章 季節外れのプリムラ【前半】
秘星と別れ、廊下を歩く。
そういえばまだ行ったことがなかったと、少し離れた第二校舎の図書室に戻る。
カリカリカリカリ……
何やら音が聞こえる。
カリカリ…ガリッ…カリカリ…
恐る恐る図書室を覗くと、そこには早業と言われそうな手捌きで何かを書く白石だった。
「えーと、白石?作業中すまん。何しているんだ?」
カリカリカリカリ…カリ…
手が一瞬止まり、顔がこちらを向く。
「……執筆。」
そう言うと、また顔を戻し作業に戻る。
「すごいな、こんな状況下でも執筆活動か。」
「……ここでの、出来事を小説にしようと思って。だから、これが完成するのは卒業するまで」
だから、絶対生き残ってこの作品を完成させる。
そう言う白石の目は燃えている。
先程の秘星といい、白石といい、どんな時もその専門のことに熱心というか気にするものなのか。関心する。
「すごいな。ということはオレも登場するのか?」
「必然的に、そうだね。まぁ、今のところは良いやつポジションだけど」
なっ、オレは最初から最後まで良いやつだ!
焦って反論する。
「ミステリーの評論家が言っていたことだけど、犯人は聞かれたら最初は必ず否定するよ」
「ちょ、オレを疑うのか?」
冗談だよ、と静かに言うのだがどうしても冗談に聞こえない。
とりあえずオレはなにもなく卒業するつもりだ、と付け加える。
それより、と白石が口を開く。
「ここの図書室は、絶版になった資料もなんでも揃っていて良いね。たまにこの学園オリジナルなのかなんなのか分からない不気味なものもあるけど」
白石に言われ、棚を見てみると難しそうな本がずらっと並んでいた。
その中に「一・録記の園学神舟小」と書かれた本があった。
昔のものだろう。とすると題名は「小舟神学園の記録・一」か。
どんなものだろう。開いてみるとそこには先日見た石像の二人の白黒写真が並んでいる。
名前のところは、色褪せてしまって読むことができなかった。次のページも全て色褪せ読むことができなかった。
一ということは続きもあるのだろう。しかし、その続きはこの周辺にはなかった。
その続きをこの大量の本の世界から探し出すには困難だ。
「私は定期的にここに来てるから。もし見つけたら取っておこうか?」
そうしてもらえるとありがたい。
そう約束を取り決めた。
この学園について何か一つでも情報が得られたほうがいいだろう。思わぬところに脱出のヒントはあるものだ。
ふと、時計を見ると昼の12時になろうとしていた。昼ご飯を食べに食堂へ向かう。