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一章 季節外れのプリムラ【前半】


ー四津谷サイドー

フンフンフーンと鼻歌交じりで廊下を行く。
蒼太はどんな様子だろうか。落ち込んでるだろうな。そこは明るく励まさなきゃな!
人が辛い目にあっていて、更にコロシアイ生活の真っ只中だというのにどこか浮わついているなと自分でも思う。しかし性格上真面目に考えるとか無理なのだ。

そうしているうちに保健室が見えてくる。
よっしゃ入るぞ!

「そーうたくー…」
ガシャァアンッ

開いていたドアを覗こうとした瞬間、何かが割れる音がする。
蒼太よ…昨日の二の舞を踏んだのか?
いや、昨日の件は蒼汰に非は無いからその表現はおかしいか…。

蒼汰に怪我が無いかが心配だ。急いで保健室へ入る。

「大丈夫!?うわーっ窓が割れてる!デンジャラスって奴ですかー!?」

「……。」

無表情な蒼汰と目が合う。よっぽど参ってるらしい。

「ああ、四津谷か。見舞いならさっき皆が来たけど…」

「いや、大勢で押し掛けたら疲れるよなって思ってさーはい!お土産の饅頭!」

ありがとう。蒼太は笑顔で受け取る。
どこか痛々しい笑顔だ。

「それより、窓割れちゃったみたいだけど大丈夫?なんかあった系っすか?」

真面目に聞く勇気がなかったので、どことなくお茶らけて聞いてみる。
この割れかたは酷い。後でこっそり片付けておこう。

「ああ、立とうと思ったら…フラついて割っちゃってな」

それは大変だな。と声をかける。まだ立つには難しいらしい。松葉杖には未だ慣れないのだろう。足を使う才能を持っていた者がろくに歩けなくなるなんて屈辱だろう。

「んー窓が近くにあるのが悪いな!窓め!とりあえず危ないからガラスは片付けとくな!怪我はない?」

「大丈夫だ。」

どことなく口調も冷たい。とりあえず怪我は無くて安心したが。割ったガラスを片付けながら話しかける。

「蒼太さー、マジで辛いからそんな無理に笑顔作らなくていいと思うぜー?弱音はいたっていいじゃんか!」

思ったことをそのまま口に出す。なんだって作り笑顔でいたら疲れるだろう。特にこんな状況下では。

「ああ、ありがとう。……そうだな。たまには良いよな。」

そう言って俯く蒼汰の顔はやはり暗い。
怪我が治るまでそのオーラのままなのかな。




「足、治らないかもしれないんだ。」
 



そう、衝撃的な言葉から蒼汰はぽつりぽつりと話し出す。
一郷から足が治る可能性は低いと言われたこと。
自分でも薄々気付いていたこと。
サッカー選手として復帰できないだろうこと。
将来の夢は世界一のサッカー選手だったこと。

「はぁ……オレにはサッカーしかないのに…。こんな話をしてごめんな」

こんな状況でもこちらを気遣うのか。
そんなこと謝るな!などと言えれば良かった。
しかし、その悩みは一人の少年にはあまりにも大きすぎる。彼の哀感が漂う姿を目にして何と声をかけたら良いか思いつかなかった。

「でもさー蒼汰って場を盛り上げることできるし人気遣えるし、そういうコミュニケーション的な才能もあるじゃん」

俺ちゃん初対面の人と仲良くなるの苦手だけど、蒼汰は唯一すぐに打ち解けることができたぜ!そう声をかける。
微かに嬉しそうな顔をしたのを確認する。

「だからさー、サッカーはできなくなるのかもしれないけど歩けるだろ!この学園卒業したら一緒にコロッセオ行って〜ヴェネツィアにも〜…」

「はははっ、それ本気だったのか?」

蒼汰が笑う。その笑いは作り笑顔ではなく心からの笑いなんじゃないか、俺にはそう思えた。
そうだといいなと思ったんだ。

「ああ、卒業したら絶対行こうな。他の奴らも連れて行こうぜ!」

そう言う蒼汰の言葉はきっと、本当にそう思っての言葉だろう。

「俺ちゃん夜中も起きてるしいつでも話乗るからさ〜、いつでもモノタブに連絡してこいよなー!」

しばらく会話を楽しんで、それじゃあと席を外す。もう少し話したい気持ちもあったが時間も時間だ。夕飯もあるしな。

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