一章 季節外れのプリムラ【前半】
…ガラガラガラ
あまりでかい音を立てないように気をつけて保健室のドアを開ける。
「伊織。どうだ?」
保健室のベッドに横たわる伊織の様子を伺う。
「うん、まだ痛いけど鎮痛剤飲んでるから昨日よりはマシだ。それより見舞いか?来てくれてありがとうな!」
昨日のあんなことがあったというのに相変わらず伊織の口調は明るい。
しかし、笑顔がどことなくぎこちないのは気のせいなのか。
「事故のことは私たちがなんとかするから蒼太くんは休んでてっ!」
「うん、警察官の名にかけて倉庫を安全にしとくよ」
ここで櫻井と桐谷の意図をなんとなく察する。
この二人はやはり職業柄か、今回のことを見過ごせないらしい。
「伊織様申し訳ございません。私というものがおりながら」
「無理なさらずに御休みくださいね。食事などは鑑に運ばせますから」
鑑とローゼンは流石の気遣いだ。超一級の従者と女王である。
「……ありがとう。じゃあ食事はお願いしようかな!」
了解しました。鑑達は何か力になれていいな。オレも何か役に立てることは…。
「鑑、運ぶの大変だろうからオレもやるよ。交代でやろうぜ」
そういうことしかできないが、やらないよりはマシだろう。
「ちょっと今からモノタブ使って調べたいことがあってな。放っておいてほしい」
伊織にそうやんわりと保健室を追い出されてしまった。
しばらく廊下を歩いていると突然櫻井が口を開いた。
「…うん、やっぱり倉庫の調査だよっ!」
櫻井は探偵の勘か何か、事件の可能性もあると思うという話をしてくれた。
よって、全員で調査にはならずとも
少人数でいいから数人で倉庫を調べたいとのことだ。
「俺も賛成!現場検証は必須だよね!」
「私も賛成ですわ!仲間が事故にあったというのに何もしないののは女王の名に恥じますわ!」
「私も参りましょう」
「オ、オレも一緒に行く!」
急いで乗り遅れないように声を上げる。
この場にいる者は全員調査に行くものだとばかり思ったが、一人だけ戸惑う者がいた。
「わ、私はちょっと…。また倒れてくるかもしれないと怖くて…。昨日伊織さんがどんな目にあってしまったかと想像してしまうの。臆病なのは分かってるんだけど…」
百鬼がか細い声で発言する。
芸術性に長けた人だからか、感受性が豊かなんだろう。仕方ないことだ。
行けない人がいても仕方ないよ。と櫻井がフォローすると百鬼はホッとした顔をした。