一章 季節外れのプリムラ【前半】
ピンポンパンポーン
「おはよう!朝の7時だよ!夜時間は終了だよー!……ブツッ」
また不快な声に起こされる。
もう7時か…。
10時から寝て、9時間も睡眠を取れたはずなのに体は休まった気がしない。
今日はもう、部屋に篭ってしまおうか。
しかし、伊織のことも心配だ。
重い体を起こし、食堂へ向かう。
「はぁ……おはよう」
小さな声で挨拶したのに、聞こえたのか全員がこちらに目を向けた。
驚くことに今日の朝は伊織以外全員食堂に集まっていた。河西もいることに少し驚きを隠せない。見たところ河西は偶然といったところだろう。
「おはよう。ご飯できてるよっ!」
櫻井に促され、食卓につく。
全員が席についている状況だ。
「私の意見としては……事故だと思う」
「私も白石さんに賛成です!」
白石と儚火が話し出す。
事故の現場である倉庫へ行くと、棚が倒れていた。そこはオレも見ているから分かる。
棚の後ろにあった二体の石像が古く、それが倒れてドミノ形式に棚も倒れた。そして偶然花火を取りに来ていた伊織が下敷きになったんじゃないか、というのが二人の意見だった。
「でも、そのことより今は伊織さんのケアの方を優先したほうがいいと思う…」
百鬼が恐る恐る口を開いた。
確かに、事故かどうかなんかより伊織の今が不安だ。
「で、でも内沢さんと秘星さんがこれは事件だって言うんですよ!」
「だって、今まで色んな舞台も監督してきてるけど…。誰の手も加えられずにものが倒れるなんてなかったからね」
秘星の言うことも分かる。様々な現場を監督してきた身としては不自然に思うところがあるのかもしれない。
「でもそれってさァ〜事故ってことにして、コロシアイが始まったかもって事実から逃げたいんじゃないのォ?」
「なっそれは……」
内沢の言葉に全員が口をつぐんでしまう。
口にはしないだけで、内心コロシアイ生活がやっぱり始まってしまったのではなかろうかと皆思っているのだ。
しかし今まで河西以外はほぼコロシアイ関係のことについて触れてこなかった。
まるでその話をすることを「禁忌」としているかのように。
「……なんの対策もしなかったからです。今回は幸い死亡事故は起きませんでしたけど」
静かな食堂に河西の凛とした声が響く。
何か対策をしていたら、この事故か事件は起きなかったというのか?
「事件か事故かは現場に行けば分かるんじゃないですか。事件性が高いのなら何か犯人の残したものがあるかもしれませんし」
「で、でもまだ片付いてないですし危ないから…」
「事件なら犯人がいるかもしれないしって、ねェ?」
「そういうことじゃ……」
真偽を確かめるには現場を調べるしかないのだが、昨日の今日で心の整理がついていないのか自ら行こうと言う人はいなかった。
「証拠を集める勇気がないのなら、根拠のない話はするべきではないですよね」
フンッと河西が意地悪く笑う。
余計場の空気が悪くなる。
「とりあえずその話も重要だけどオレは伊織の様子見てくるよ」
保健室へ足を運ぶことにした。
正直、こんな空気の中にいるのは苦痛だった。
「私も行きます!」
結局伊織のお見舞いにはオレとローゼン、鑑、百鬼と桐谷、櫻井が行くことになった。
突然全員で行くのは驚かしてしまうだろう。