一章 季節外れのプリムラ【前半】
「大丈夫!?」
倉庫のドアを勢いよく開ける。
その惨状は酷いものだった。
倒れた棚などぐちゃぐちゃになった倉庫の中…。
そして何よりも棚の下敷きになっている伊織の姿だった。
「伊織!大丈夫か!?」
「だ…大丈夫なわけない!早く、助けろ!」
悲痛な叫びが頭に響く。
「二人とも、棚を退けるのを手伝ってよ」
桐谷の指示に従い棚をなんとか退ける。
とにかく重い、重い、重い。
こんな棚の下敷きになった彼は…。
不幸中の幸か、彼の下敷きになったのは左下半身だけであった。反射神経が良かった為すぐに少し避けることができたわけだ。…流石に避けきれはしなかったが。
「な、何があったんですか?急いで保健室に連れて行かないと…」
「ぅう…足がっ…オレの足がッ…。何があったなんて今はどうでもいいッ!それよりもオレの足ッ…」
生きていたことに安堵するが、痛みは相当のものだろう。鑑とオレの二人で、伊織を支え保健室へと向かった。
その間も伊織は「足…足が…」と唸り続けた。
サッカー選手として、足に大怪我というのは致命傷であろう。
保健室について、とりあえず寝かせる。
どうにかならないものなのか。
見ただけでも足が骨折していることは分かる。
それに、何故だか刃物が刺さっていたり傷がついている。倒れてきたのが工具棚だからか?
それにしても工具棚に刃物がどうしてあるのだろうか。
鑑が伊織を落ち着かせている傍で考えを巡らす。
ヒョイッ
そんな音と共に現れたのは
教頭の一郷だった。
「これはこれはこれはこれは、随分派手に怪我しましたね。お気の毒です」
本当にそう思っているのか分からない。
しかし今は、渡りに船と利用するしかないだろう。
「教頭先生。伊織様の手当てをしたいのですがこれほどの専門の技術はなく…」
恐る恐る聞く。コロシアイ生活にそんな助けは出さんと一蹴されてしまうかもしれない。
しかし返答は意外にも
「分かりました。後は私が引き受けましょう」
というものだった。
「教頭といえど何かしたら、警察官の俺が黙ってないからね」
効果があるかわからない脅しを一応かける。見張っていればいい話といえばそうなのだが…。
伊織のことが心配だがいつまでもずっとここにいていいわけではない。
伊織自身が当たり前だが相当なショックを受けているらしく、先ほどからブツブツ物を言うばかりで人の話を聞く様子もない。
止むを得ず伊織を一郷に任せ、保健室を後にした。