一章 季節外れのプリムラ【前半】
夜になったので校庭へ赴く。
そこには綺麗に飾られた花に、真ん中に設置されたステージ。そして灯りの灯った蝋燭が並べられていた。奥にはバーベキューのセットがあり、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「うわっ!すごいな!」
思わず歓声を上げてしまう。
お腹減らしておいてよかった〜。
本当はお腹すかなかっただけなんだけど。
「すごいねっ!殺風景な校庭がここまで変わるなんてっ!」
突然隣に櫻井が来た。
よく見ると眼鏡の奥の目がキラキラと光っている。そんなにバーベキューが楽しみなのか。ステージが楽しみなのか。分からん。
「へへ、俺たちが運んだ甲斐あったよね!」
桐谷に話しかけられる。
そうだな。この舞台作りに自分が関われたことがとても嬉しい。
皆集まったかー!
いったん集合!
伊織の声に皆が反応する。
「始まるみたいじゃん!桐谷真飛、今いっきまーす!」
そう言って超特急で彼は行ってしまった。
早いな。
「櫻井奈々子も、桐谷真飛に続きいってきまーす!」
ご丁寧にビシッと敬礼をした櫻井も、桐谷についていってしまった。
周りを見ても殆どがこの親睦会を楽しみにしているように見える。
「へへん、架束さんと一緒に花を飾りつけましたからね!装飾には自信があります!」
「華道家の儚火さんが言うならきっと素敵だね!楽しみだな!」
「百鬼さんの歌も楽しみにしてますね!」
儚火と百鬼が仲良く会話している一方
秘星は一人でステージを見つめている。
「蝋燭の灯る暗めのステージ……ちょっとなんか独創的だね!!」
何故か嬉しそうだ。
確かにステージには蝋燭以外の明かりがない。
少し不気味と言って仕舞えば不気味なのだ。
呼ばれていたことを思い出し急いで伊織の元へ向かう。
「皆集まったな!…って河西はやっぱり来てないのか。残念だな。」
河西の姿は案の定見えない。もう、途中参加を望むしかない。
「とりあえず親睦会を始めるぜ!まずは百鬼と秘星の歌だ!」
ステージ上に注目する。
そこには百鬼と秘星が立っていた。
可愛いけど、やりすぎない服を着た二人はまるで二人組のアーティストのようだった。
「紗月ー!!!麻央ー!!!可愛いよーー!ファンサしてー!!!ウインクしてー!!!ジャンプしてー!!!」
始まってもいないのに叫ぶオタクに化した四津谷を見ると、こうはなりたくないと実感する。
二人の歌はなんと表したらいいのか、とにかく上手だった。激しくなく聴いてきて心地よいハーモニー。息の合った二人だからこそできる業だ。驚いたのは秘星にだった。百鬼は歌手だから上手でもそうか、と納得できるのだが秘星は…監督で歌も上手。きっと才能があったから努力したんだろう。
次は伊織のリフティング芸だった。
普通のサッカー選手じゃできないようなことをどんどん見せていく。
ただのリフティングではなく、観客を楽しませるものだ。特に感心したのはボールを高く上げ、宙返りしてからまたボールを足で受け取るということだった。人じゃないぞあれは…。
その後は鑑の用意した肉を焼いたものと野菜を食べる。実に火が通っていて美味しい。
「ちゃんと塩でよかった」
そう呟くとどこからか小さく、犠牲が出る前に気づけてよかったです、と聞こえた。