一章 季節外れのプリムラ【前半】
明石が席を立つのを確認し、そちらへ向かう。
「明石!倉庫一人じゃあ大変だろ!オレも手伝うよ。」
「………いや、いい。」
「今なら俺もいるよ!」
断った瞬間桐谷が声を上げた。
第一印象がめんどくさがりのような彼が進んで
手伝うなんて…。人は案外最初の印象と違うんだな。
「…ほら、今手伝っとけば俺の株が上がるだろ」
ボソッとオレに耳打ちしてきた。なんだそういうことか。全く…。見直したのはなんだったん
だ。
「……仕方ない。じゃあ今から言うからそれに従って。」
諦めたか!明石の指示を聞く。伊織に渡されたリストを見ながらだ。指示までできるなんて流石運動選手の伊織蒼汰だ。
「花火セット十六人分…、バーベキューのセット…などなど。僕が倉庫から出すから二人はそれを校庭に運んで。運び終わったらそのまま解散していい」
「イエッサー!」
桐谷は調子のいい返事をする。
待て待て…バーベキューセットこれ結構重いぞ…。
なんとか二人で必要な物を外へと運ぶ。
明石はその間に倉庫で他の必要な物を探している様子だった。
「あのさー大原。」
突然桐谷が声をかけてくる。
そういえば桐谷と二人で話したことは初めてだ。…二人で話したことがない人なんて、沢山いるけども。
「鑑のさー、用意してる塩あるでしょ。あれこっそり砂糖に変えようと思うんだけどどう?」
「それはオレ達にも被害があるから却下」
こんな状況なのにそんなことを考えているなんてそれでも警察官かっ!思わずツッコミを入れたくなる。警察官が悪戯なんて…。
桐谷とどうでもいいような会話をしながら準備を終えた。校庭の隅では百鬼と秘星が発声練習をしており、また反対側では儚火と架束が花を摘んでいる。
「みんなめっちゃ頑張ってんね!」
「オレ達も十分頑張ったな…。」
お疲れ様、とお互いを励ます。
かなりの重労働だった。
明石の野郎……倉庫をいじるフリしてオレ達に押し付けたんじゃないのか?
「もう終わったから解散しよ!俺鑑のとこ行ってこよっと!」
「何故そんなに鑑に…」
「だって完璧って感じのやつの隙、見てみたくない?」
どこまでも自由奔放な人なんだな。という感想しか浮かばなかった。
さて、まだ時間はある。
何をしようか。