一章 季節外れのプリムラ【前半】
ご飯を終えてそろそろ自室に戻ろうと思う。
この学園内を探索する気持ちにはとてもなれない。しかし、伊織の一言で戻ることもできなくなった。
「皆ごめん。今日の親睦会のことで話したいことがあるから他の人達が集まるまで待っててくれないか?」
一体みんなが集まるまでどれくらい時間がかかるのだろう。
集まるまで隣にいた儚火と話して待つことにした。
「儚火って、何か好きなものとかあるのか?」
「と、突然ですね!?そうですね、生花専門ですけど、普通に生花に使わない花も大好きですよ!」
ものすごくこの生活とは関係ない世間話のようなものだが、この状況で現実を見る話よりこういうものの方がいい。
「だから花に詳しいんだな。オレ、ダチュラって花全然知らなかったよ」
「ダチュラには愛嬌って花言葉があるんです。偽りの魅力、だとか怖いのもありますけどね…。あはは」
花言葉なんてすごいロマンチックだな。
しかし偽りの魅力、愛嬌。そんな花言葉の花だけがどうして校庭に咲いていたのだろう。
「それで、花に関した可愛い歌があって!それも好きですね!」
「へぇ!沖縄のあの『花は流れて〜』て奴とか?」
花全般が好きなんだなということがわかって
微笑ましい。儚火と話していると時間があっという間に過ぎていく。
「いえ、それも良い曲なんですけど、『赤い花 白い花』っていう曲があって」
「全然知らないなぁ…」
題名を聞いたことがない。曲を聴けば分かるかもしれないが何しろオレはそこまで音楽に精通した人間ではない。
「いーよな!その曲。特に歌詞がよくってさぁ!栗花落分かってるゥ!」
「良いよね!赤い花つんで〜って!」
「実にいい曲だね!華道家ちゃんが目をつけるのも分かるよ」
突然後ろから三人の声が聞こえた。
入り口の方をずっと見ていたのに…入ってきた姿は見えなかったぞ。
「わわっ!分かりますか!というかどこから入ってきたんですか!?」
「その驚きっぷり!面白いね。私達はそこのドアから入ってきたよ。気づかなかったのかい」
そう言われて初めて裏口の存在に気づく。
死角だ…。音も聞こえなかったぞ。
「というか空達が話に夢中になってただけじゃねーの?周り見てみろよ。ほとんど集まってるぜ!」
周りを見てみると河西以外全員集まっていた。