一章 季節外れのプリムラ【前半】
ピンポンパンポーン
「おはよう!朝の7時だよ!夜時間は終了だよー!……ブツッ」
突然のアナウンスに起こされる。
これが例のアナウンスか。
昨日の夜もあったんだっけ。疲れすぎて記憶がない。きっとアナウンスの前に寝てしまったのだ。とりあえず朝ご飯だ。食堂へと向かう。
食堂に着くといたのは伊織と儚火、そしてローゼンと鑑だった。
「あら、空さんおはようございます。よく眠れまして?」
「おっ!おはよう!早起きだな!」
出迎えてくれたのは嬉しいが、この場にあまり人がいないことに驚きを隠せなかった。
「えっと…他のみんなは?」
寝てるんじゃないか?という伊織の声に儚火達もうなずく。
とりあえず待っていてはお腹が空くばかりだ。
ということで一先ずこのメンバーでご飯を食べることにした。
「今日の朝ご飯は軽めにパンとバター、卵のスープです」
「鑑ありがとうな!そしてすまない!ご飯係みたいなのを押し付けてしまって」
確かに、いつの間にかご飯係に任命してしまった気がする。美味しいご飯を食べれて嬉しい気持ちとは裏腹に、頭の中では申し訳なさもいっぱいであった。
「大丈夫ですよ。健康的な食事ができるのならそれで。」
バトラーとしての意識が高いのか本人の性格の問題なのか。そこを負担に思わないでいてくれていることがせめてもの心の救いだ。
鑑の作るご飯はやはり美味しいな。今日のご飯は塩加減もバッチリだ。特に卵スープは、一見普通のものに見えて、程よい卵の甘さとさっぱりしたスープのハーモニーが最高だ。
朝から良い気分になる。
バターをつけたパンも美味しい、卵のスープも美味しい。鑑の作る料理に舌鼓を打つ。
これから毎日、このご飯を食べれたら良いのに。
朝ごはんを堪能していると、突然食堂のドアが開いた。
見ると、明石が食堂に入ってきたみたいだ。
すると真っ先に明石に声をかけたのは伊織だった。
「おー、明石!おはよう!朝ごはんできてるぞ!」
「……。」
相変わらず返事をしない。
「朝の挨拶は基本ですよ!おはようございます!」
「……おはよう」
儚火の言うことは最もだ、と感じたのか明石は渋々挨拶をする。
「気持ちの良い朝には気持ちの良い挨拶!おはよう!」
明石とは反対に伊織は元気よくまた挨拶をした。
明石は反応せず無言で席につく。空いてる席の問題なのだがオレの席の割と近くに座った。
気まずいなぁ…。
「明石!よく眠れたか?」
周りとコミュニケーションを取らない彼を心配してか、伊織は積極的に話しかける。
彼は良い人だとつくづく思う。
「……。」
しかし問いかけも虚しく彼は返事をしなかった。
「なんだ、明石表情が暗いな」
「落ち込むことはないぞ!無事にこの学園から出れる!皆でな!よく言うだろ?信じれば叶うって!な、皆!」
瞬間、明石は少し眉を潜めた。
やはり騒がしいのは苦手か。
しかし、そうだ。皆で信じればきっと、協力すればきっとここから出ることができる。
伊織には気持ち的に助けられてばかりだ。
「……そうかもな」
「お前にとっては」
明石が初めて返事をしたことに感動する。
「な!そうだよな!」
そのあと明石が小さく何かを言った気がしたが聞こえなかった。