一章 季節外れのプリムラ【前半】
他愛もない世間話と共に食事が進む。
大勢で食べるとこんなに楽しいのか。
「ちょっと醤油とってー」
「自分で取ったら?」
そんな騒音もこんなに愉快に感じるなんて思いもしなかった。
このままこんな日常が過ぎればいいのに。
「コロシアイ生活。」
突然また物騒な単語が聞こえた。
その瞬間みんなの箸が止まり一時的にしじまが訪れる。言った当人が席を立つ。
「どうするつもりなんですか。このまま平和にしていてもきっとモノゴンは何かしてきますよ」
河西の発言だった。
言っていることは理解できるし正しいのだが
その現実から目を背けたいのと、その現実に引きずり戻した彼女への少しの怒りですぐに返事ができなかった。
「……対策とかしないんですかって話ですよ。こればかりは私だけ対策してもダメなんです。アンタ達も協力してくれないと…」
怒っているのにどこか悲しそうな顔をする彼女を見ると、先程の自分の怒りを恥ずかしく感じた。
現実から目を背けてはいけない。
「……返事も無しですか。もういいです。どうなったって知りません。」
そう言って彼女はまた席につき、俯きながら猛スピードで夕飯を食べている。
「そっか、そうだよな…。何も対策しないで文句言うのはご法度だよな!」
いきなり伊織の声が響いた。
「そんな暗い顔しないで、みんなで親睦会でもやろう!仲良くなれば殺そうなんて思わないだろ!」
「それ名案だねェ!」
「それならダチュラの花でも摘んで飾ります!」
「俺の描いたイラストでいいならそれも飾る」
「オレも賛成だ!」
大勢が賛成をする。楽しいことをすれば、共に良い思い出を作ればコロシアイなんて起きないに決まっている。
「伊織って単純な考えをする方なんですね。羨ましいです」
しかしそう思わない人も一人いるらしい。
「河西も参加しようぜ」
「校庭で花火もしようぜ、オレの超絶リフティングも見せるし!」
そう話しかけても彼女の顔は暗くなるばかりだった。
「そんなんじゃ、根本的な解決にも、対策にもなりませんよ」