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一章 季節外れのプリムラ【前半】


「おっ!来た来た!」

食堂に入ってまず聞こえたのは、伊織の明るい声だった。

「キミすごいな!ここの食堂ちょっと分かりづらかったろ!えーっとなんだっけこのだいなんたらかん…」


「第二校舎の一階の入ってすぐの食堂。それくらい覚えたらどうなんですか?」


相変わらず河西の言葉は手厳しい。
しかし言っていることもあながち間違っていない。この食堂はそこまで分かりづらくはない。

「とりあえず、全員揃ったからいただきますといかないかい?」

「麻央にさんせー!さっさと食おうぜ!」

「弥音くん言葉遣い汚いよ…」

三人組の声に釣られてか他の人達も
食卓についた。

「すごいなー!この料理!誰が作ったの?」

「……とても豪華」

確かに出された料理は一般家庭で出されるようなものではない。トマトソースのスパゲティに鯛のカルパッチョ。そしてガーリックで焼かれたフランスパンにエスカルゴ。

「イ、イタリアン料理にフランス料理…」

見ただけでよだれが垂れそうな見た目である。
正直このような食べ物が我々学生に似合うというのか。

「この料理なら私が調理いたしました。」

「魅磨の作る料理は絶品ですのよ。私の好みも完全に把握していますわ」

女王様のローゼンのお墨付きだ。見た目だけでなく味もよっぽど美味しいのだろう。
つい先ほどまで憂鬱な気持ちであったのに。
人間は欲に忠実なのか、もう早く食べたいというプラスの思考になっていた。

「みんな席ついたかー!」

「「つきましたー!」」

「それじゃあ色々あって大変だと思うけど!鑑の美味い飯食って今日は元気出そうぜ!」

「「いただきまーす!」」

伊織が音頭を取り一斉に皆がご飯を頬張りだす。

「「……。」」

「な、何これ塩っ辛いよォ!?」

始めにそう言ったのは内沢だった。

「本当だ…。すごいしょっぱいです。お水お水…」

「やぁ大将!もうちょっと塩加減抑えてくれたりしないかい?」

儚火も秘星も水をひっきりなしに飲んでいる。
ついではすぐ無くなる水…。
ついでくれている出口も大変だな。
それより、本当に塩っ辛いのだろうか。
カルパッチョを一口食べるとあまりの塩っ辛さに驚愕した。

「塩加減は適当ですよ。シェリアお嬢様のお好みに合わせました」

「流石魅磨!とても美味しいわ!」

呆然。呆然とするしかない。
全部ローゼンの好みに…。

「でも魅磨。確かに私は塩っ辛いものが好きだけど他のも普通に好きよ。皆様もいらっしゃるんだから次からは普通でいいわ」

その言葉に一安心する。
ああ、これから毎日塩地獄に陥れられなくて済むんだ。
塩辛くても美味しい料理を食べ、お腹を膨らませる。
先ほどまで最悪の気分だったが、今はとても最高の気分になっていた。

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