序章 ダチュラの花の咲き始め
声を発した人を見る。
そいつは髪が黒と白で別れており、無表情の男だった。
「申し遅れました。私一郷といいます。実は、外にでかい害獣がおりまして、暴れていて困ったのでいらな…いえ、倉庫にありましたぬいぐるみを与えてなんとか収めていたんですよ」
聞いてもいないのに彼は話し続ける。
「全く、アイツらは外に出てきたものをすぐに喰らおうとする。恐ろしい。買い物に行くのも一手間ですよ。」
ため息をつきながら話す様子は淡々としているながらどこかわざとらしい。
「なあ、お前も生徒の一人なのか?」
誰かがそんなことを言った。
生徒だとしても話していることはまるで…。
「いいえ、学園の関係者です。
少なくとも生徒なんかじゃありませんとも。」
フフっと笑う姿がどうも鼻につく。
それに、先程彼が口にした「ガイジュウ」というのはなんなんだ。
この木々が生い茂る外に何がいるというのだ。
「気になるなら外にでも出ればいいんじゃないでしょうかね。まぁ、学園長は許さないと思いますが。」
“外に出ることを学園長は許さない”
謎がどんどん積み重なっていく。
本当にここが希望ヶ峰学園なのかどうかも実際分かっていない。生徒が全員超高校級の称号を持つからといって、それはただの状況証拠にしかすぎない。
「でも安心してください。学園生活は楽しいはずですよ。何せ私がサポートしますし、外に出たいなんて思う暇もありませんよ」
呆気にとられてか、誰も何も話そうとしない。
ああ、こいつは信用できない人間だ。
今まで話を聞いて簡単に判断することができる。だから、皆何も言えないでいるんだ。
「さてと、そろそろ入学式が始まりますよ。」
そう言い、一郷は去っていった。