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二章 コランバインのバラード【前半】



食堂に入ると、相変わらずの騒がしい声が聞こえた。

「おっ!空たち帰ってきたぜ!」

そしてその声はオレたちに向いた。

「四津谷くん……だっけ?まさか、朝からずっとここにいたの?」

「あー…朝から食堂以外には行ってないぜ!それよりも……俺ちゃんの名前忘れている感じ何気にショックなんですけど!でも確かに全く話したことなかった!」

四津谷の隣にいる百鬼もきっとそうなんだろう。二人はよく一緒にいるから。
それにしても午前中少しも動かないなんて、呑気なもんだな。

「百鬼……四津谷に付き合わずしたいようにすればいいと思うぞ」

オレはため息をついて、提案をした。百鬼自身はぐーたらでは無いのだし。

「ありがとうございます。でも……四津谷という方が、ここでゆったりすることも勉強だと……」

「そうそう!ここで互いの意見を交換するのも勉強に……って『四津谷という方』……?俺ちゃんのこと忘れたのぉ!?」

それでも……ワイワイとはしゃぐ百鬼を見て不思議に思う。こうしていることが彼女にとっては落ち着くのかもしれない……?

「この生活でどう過ごすかは……個人の自由だもんねっ!」

それもそうか。オレは脱出したくて探索に熱を入れているが、オレと違う考えで行動している人もいるのかもしれない。



「……そうですよね」

少し間が開いて、櫻井の言葉に返事が来た。先ほどまで明るい声だったというのに、今は暗い声になっている―百鬼の声だった。少し下を向いた彼女は、
「ここでどう過ごすのは皆さんの自由なんです。談笑するも、探索するも、何かを調べるのも……人を殺すのも」

「……!」

彼女の表情が一気にこわばったものへと変わる。
体も少し震えており、尋常ではない様子だ。

「どうしたんだよ紗月ぃ!なんかあっちゃった系……?」

四津谷が声をかけると、彼女はハッと我に返ったように顔を上げる。

「ご、ごめんなさい。こうして誰かと話しているときは嫌なことから目を背けていられるのに……何かあるとこの生活でまた殺人が起きてしまうのかと、自分も狙われてしまうのかと怖くなってしまって」

そう話す百鬼の声は今にも消え入りそうなくらいか細い声だった。
オレは呑気だなんて思っていたけどそれは、彼女なりの現実逃避だったのだろう。

「うーん、やっぱり警戒はしておくべきだよな……。な、紗月!美味いモンでも食べようぜ、そこにいる三人もどうせ昼はまだなんだろ?」

「ああ、そうだな。折角だしここにいるみんなでいただこうか」

四津谷の提案に賛成する。
百鬼を落ち着かせるという目的もあったが、より詳しくみんなの考えを聞きたいという目的もあった。昼食は、翌日も食べられるからと鑑の作ってくれたカレーだ。いつも作ってもらって……ありがたいけど申し訳ないな。



いただきます。全員で手を合わせ食べ始める。やはり鑑の作る料理はおいしいな。執事って料理も作るものなのか、それとも鑑個人のスキルなのか?今度聞いてみよう。
そんなことを考えていると、百鬼がポツリと話す。

「先ほどは、失礼しました。最近どうも情緒不安定で……もう自分が何をしたらいいかもわからない」

「仕方ないよ、こんな状況だし……私たちも不安になったりしてるっ!」

櫻井がそう励ますと、白石も百鬼の方に体を向け、
「私も同じ不安を抱いてる……百鬼さんは一人じゃないよ。みんなで力を合わせればきっと、なんとかなるさ」

すかさずオレも、
「十四人も生徒がいるんだ、誰かに相談するのもいいと思うぞ。二人きりが怖いなら四津谷についててもらったりとかさ」
とフォローする。
それに、オレはいつでも相談乗るぞと付け加えた。

希望的観測でしかないけど、ネガティブに考えて何もしないよりはずっとマシだ。二人の言葉にうんうんと頷きながらカレーを口に運ぶ。

「ま、そうだよな!それに『超高校級の幸運』の空がいるんだから問題は無しよりの無しよりの無しっしょ!」

四津谷から突然自分の名を挙げられ、カレーがのどに詰まりかけた。危うく醜態をさらしてしまうところだった。

「た、確かに幸運だけどそんなに大したことないぞ!?期待されてもな……」

オレの才能は『幸運』だが、宝くじで一等が当たったこともないしトラックに轢かれて異世界に飛ばされたこともない。精々毎年正月のおみくじが大吉だったり、体調が悪い日に学校が急遽休みになったり抽選は毎回当たる……その程度だ。

「でもさっ!才能ってことには変わらないし、信じても良いじゃないっ?」

四津谷の発言に櫻井が便乗してくる。更に白石も乗り気らしく、
「ただの幸運じゃないし、それにもし何かあっても大原くんのことは責めないよ」

「は、はぁ……ま、気休め程度でよろしくな」

とんだプレッシャーだな。
前言撤回か?希望的観測もこれはキツいと思うが……。でもオレの存在がみんなの心を明るくしてくれるならいいか。悪いことがあってもオレの責任にはされないようだし。

……

白石が二杯ほどお代わりをして食べ終えたところで、全員でごちそうさまをした。

「あの……今回はすみませんでした。でも、ありがとうございます。少し希望が出てきました。『幸運』の大原さんもいますし、心強いですね」

百鬼はくすくす笑って、こちらを見た。目が合った。
少し元気が出たようでよかった。

「俺ちゃんもいるからなぁ~!」

「探偵という頼もしい職業に就いている私もいるよっ!」

「……一緒にお菓子食べるとかそういうことなら私に任せて」


なんだか結束が固くなった気がする。それに棚から牡丹餅……思わぬところで信頼は得られたかもしれない。
でも安堵と共に気がかりもある。今回分かったこと、百鬼が不安になったように顔には出さないが同じ状態の人がいるんじゃないか。

もう探索は終えたし、白石と別れて午後は数人の話を聞いてみようかな。
もしそういう人がいたら励ましてやりたい。




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