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二章 コランバインのバラード【前半】



「国枝?誰だろう、聞いたことないなぁ」

オレは櫻井の言葉に頷いた。当然だがオレたち生徒の中に国枝という人はいない、モノゴンたちの名前ということもなさそうだ。

「白石は確か、パソコンを調べてたな。そこで見つけたのか?」

オレが見つけたときのことを聞くと、白石はスラスラと話し出した。

「私が調べていたパソコンの、最後の奴だったかな。パスワードが分からなくて、詳しくは見れなかったんだけどさ……」

他のパソコンは何の情報も無い代わりに暗証番号も無かった。それに比べて最後の一台は簡単には入れなかったらしい。ただ、どういうわけか突然それの画面にバグが起き一瞬パソコンのホームを見ることができたと白石は言う。

「その時にいくつかのファイルが目に入ったんだ……。どのファイルの名称にもその国枝って入っていたから注目しちゃったんだと思う。それらを閲覧しようとしたけどすぐ画面が戻ってしまって」

そのバグは偶然なのか何なのか……。
それは置いておき、一つ分かるのはその「国枝」はよっぽど重要な存在ということだ。開かずの部屋にパスワードのかかったパソコン。このコロシアイに関わる、オレたちに知られたらまずいような情報なのか?

「うーん、とりあえず後で他の人にも聞いてみようかっ!何か見つけているかもしれないしねっ!」

心なしか櫻井の声が弾んでいるように思う。次の目的ができて喜んでいるのだろうか。

「あ、校内図は私がちゃんと持っているから、安心してねっ!」

今から問おうとしていたことを、先に櫻井が答える。

「今のは探偵の技なのか?流石だな」

地図のことなど、考えてはいたがまだ口には出していなかった……何故分かったんだ?
少し苦笑してそう伝えると、彼女はニヤッと口角を上げた。


「実は読心術も使えちゃったりしてねっ?」

その言葉にオレが内心焦ったのは、言うまでもない。
それが本当ならプライバシーの侵害もいい所だ。




これで、今行ける範囲のところは全部調べ終えた。体育館の扉も鍵は外されており、楽に出入りができることが分かった。今回の探索で不思議に思うことが増えた一方、直接脱出に繋がるものは見つけられなかった。まぁこんなものか、諦めずにいればいずれ何か見つかるはずだ。それに先ほど見つけたキーワードを、うまく使えばモノゴンたちの弱みを握ることもできそうだ。そう意気込んでみる。

そんな時に何故かさっきの自分の行動を思い出した。
少し不安になるようなことが起きるとつい、直接関係ない負の感情が出てきてしまう。


(途中で、校内図を任せるなんてことをオレはしたけど……そんなことをしなくてもこの二人が信用に足る人だと分かっただろう)


試すような真似をしておいて、それがする必要のなかったことだとわかると自分は何をしているんだろう……憂鬱になる。
一呼吸をして冷静になる。
それでももう次に移らないといけない。まずは、伝えるべきことがあった。

「さっきは、オレのこと友達多いって庇ってくれてありがとう」

二人があの時オレの為に一郷に怒ってくれた。そして友達だと言ってくれた。その二つの事実がオレに信頼を与えてくれる。

「当然のことをしただけだけだよっ!私は空くんのこと友達だと思ってるし、舞琴さんのことも勿論っ!」

櫻井が言うには、オレにはたくさん友達がいるらしい。内沢、桐谷、他にも色々な人と仲良くできていることは凄いとのことだ。彼女の考えではそれはもう友達と呼べるみたいだ。

「正直、ここにいる人たち個性強いしこんな状況だし……中々仲良くできない」
白石は今の時点でまともに話せる人は桐谷、櫻井にローゼンしかいないようだ。そこにオレも追加されそうというのは、かなり嬉しい。

「うん、特別深く仲が良い人がいなくても、大人数と仲良くなれるっていうのは空くんの美点だよっ!」

「ああ、そうだといいんだが……。ありがとう」

なんだか照れくさくて、少しはにかむ。
そしたら櫻井が、
「私と舞琴さんは確かに、今まで空くんとあまり話してなかった。でも今日一緒に行動してアナタのことが分かったし、私たちと同じく脱出を目指す仲間だって再認識できたよっ!」

そうか、不安だったのはオレだけじゃなかったんだ。
同じ目的を持つ仲間がいてそれに安心したのは、櫻井も白石も同じだったのだ。

「一緒に頑張ろうよ、もう二人いなくなってしまったけど……それなら今いるみんなでここを出て、二人の弔いもしたいね」

白石の言う通り、そうなったらいいのに。いや、オレたちがそうしなきゃダメなんだ―。


とぼとぼと、食堂に三人で向かう。お昼を食べていないから、何か腹ごしらえをしたい。足取りは重い……それでもオレたちはきっと晴れやかな顔になったと思う。自分たちの行く先が前よりもよく見えるようになったから。



「そういえば、二人はここに来てまだ日も浅いのに……随分仲がいいんだな」

食堂に着く直前に、純粋な疑問を二人に投げかける。

「うーん、櫻井さんが扱ってきた事件の話を色々教えてくれて。私も小説のネタになるから聞かせてもらっていたんだよ」

「そうしているうちに……次第にお互いのこと話をして仲良くなった感じだよっ!ここに来たばかりの時は、不安だったから……舞琴さんに随分と構ってもらっちゃったかも」

「へえ、そういう関係っていいよな。安心できる友人ってさ」

彼女たちは信頼しあっているように見える。そんなところを尊敬すると共に少しうらやましくも思った。オレは全員とそつなく話すことができる……そんな自信はあるが、重要なことを相談できる相手は一人としていない。

「すぐそこなのに、足を止めてしまってごめんな」

そう言うと、二人は優しく笑って食堂へと足を向けた。




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