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二章 コランバインのバラード【前半】


「……」

無言になる。相手が何を言ってくるか分からないし迂闊に何も言えない。そんなオレたちの様子を見て、何を勘違いしたのか一郷はニッコリ笑って、
「歓喜余って声も出せない……そんな感じでしょうか?分かりますよ、最近顔を合わせていませんでしたし。私のことがそれほど恋しかったのですねえ」

なんてポジティブな奴だ。こちらとしては一生会えなくて良い。それについこの前こいつに嫌な思いをさせられたばかりだ。

「久しぶり、そう言うほど会わなかったわけではないと?そう思っているのでしょうか、今」

誰も何も言わないままであるから、一郷は調子に乗って話し出す。

「さっきから何を言っているのだ?オレたちがお前に会いたいだなんて考えると、本当に思っているのか?」

何をしに来たんだ、と一郷を睨む。しかし彼の駄弁は止まらない。

「おお、それは『なんでわかったんだ!』という感嘆の表情ですね。でも、教えてあげたくても企業秘密というところでして」

話が通じない。会話ができない奴ほど厄介なものはない。ここはもう調べるのをあきらめた方が良い。得体のしれない生き物を相手にしているほどオレたちも暇ではないのだ。

「どうしたんですか?大原さん、以前よりやけに攻撃的ですね。それでは友人の一人もできませんよ」

本当に癪に障る物言いしかできない奴だ。ここまで酷いとは思いもしなかった。モノゴンと違い、人間なのだから上手くいけば懐柔することができるかもしれない—そんな考えも少しあったが、それが無駄なことだと今分かった。


「空くんは友達たくさんいるよっ!アナタの目の前に、二人もいるっ!」

これまでだんまりを決めていた櫻井が突然大声を出した。

それに続き白石も、
「予想が外れて残念だったね、それに私たち以外にもいるし」
と声を張った。

一郷に対抗するためとはいえ、自分のことを友達と言ってくれるのは素直に嬉しい。

「櫻井に白石、ありがとう。でもこいつの言うことはもう無視しよう」

そう言って一郷の横を通り過ぎ、二棟目の倉庫の扉の取っ手を握る。
横に引いて中に入ろうと試みるも、開かない。
錆びているのか?無理やりこじ開けようと、そう思って力を込めてみたが動かない。



「そういえば私、とある用事でここに来たんですよね」

一郷はマシンガントークをやめ、オレの隣に立った。
そして小さなスプレーのような機械を取り出す。

「ここだけ開かないって、気になりますよねぇ。私も前から気になっていたんです」

一郷も知らない場所。いったい何があるのか。モノゴンは腹心である彼にも教えられないことがあるのか。

「学園長には止められているのですが、人ってダメって言われると押し切りたくなりますよね」

そう言ってその機械をその扉にかざす。吹き出し口から白い煙がそこにかかる。
すると、扉からビビッという音がした。

「で、電流?こんな扉に?」

オレの声に、櫻井が、
「ここの扉だけ他の扉とは違うのかぁ……体育館の倉庫ごときに、こんなに警備を厚くするなんて、モノゴンが止めるだけの理由はありそうだよ」

「多分、開くには特別なものが必要だったんでしょうね。なにか……その、専用のアプリだとかで」

あくまでも予想なのですが、と一郷は付け足す。

「ああ、これはあらゆる電気製品を一時的にぶっ壊してくれる優れものなんですよ。まあ、あなたに譲る気はありませんが!」

そのような代物があれば、この先役立つだろう。ただ楽には手に入れそうにないことは明らかだ。

「せっかくですから、あなた方もどうぞ。なにか探し物でもあるのでしょう」

促され、倉庫へ入る。

古くて汚らしい体育館とは打って変わって、近代的な部屋だ。SF物に出てくる指令室のような内装だ。辺りにはモニターやパソコンが置かれている。

「すごいな」

思わず感嘆の声が出る。

白石は黙々とパソコンを見つめており、櫻井は近くの戸棚を探っている。
少しすると櫻井が、大きな声で、
「あ、校内図だっ!」
とこちらに二枚の紙を見せてきた。

そこには「1F 体育館」、「2F プール」と書かれていた。

「でもこの地図、今までと違ってあまり書き込みがないね。それに、これを書いた人が残したとしたら……どうやってここに入ったの?」

後ろから覗いていた白石が疑問をつぶやく。
この部屋は不思議な空間だ。今のところは何もわからない。

それを見た一郷はにやにやと笑い、
「聞いた話なのですが、以前この部屋に大きな虫が入ってしまったことがあったらしくて……だから警備をこうも厳重にしているだとか。私の力には適わなかったみたいですけどね」

「その、虫とやらはどうなったんだ?」

「さあ、詳しくは……」

一郷の言う「虫」が本当の虫を指しているわけじゃないとは分かる。それがこの地図を描いている人のことなら……。
とりあえずこの部屋の探索をしなければと、モニターの近くへ行く。
プロジェクタースクリーンほどの大きさだ。ここは何の部屋なんだ。大人数が座れるものがあることもなく、上映会をするでもない環境だ。目的の分からない部屋は、ぞっとさせるものがある。


「探し物は見つかったみたいですし、そろそろ退散されては?」

まだ調べるところはたくさん残っているのに。

「そういえば、私がここに来たことはモノゴンには内緒ですよ?お礼として、モノタブにマップを追加するよう進言しておきますから……」

「そんな横暴な!」



有無も言わされず追い出されてしまった。
後ろでドアが閉まる音がする。

「くそ!開かない!」

力を入れても開かない。あの機械の効能は本当に少しの間だけだったみたいだ。

「はぁ……校内図以外は大した収穫無しか」
櫻井がため息交じりに呟く。でもあの部屋を見つけたこと自体が収穫だとオレは思う。

「収穫はあったよ」

白石が、櫻井を励ますように告げる。そういえば、白石は何台かパソコンを調べていた。何か発見したのか。


「収穫って、何があったの?」

櫻井の問いに、白石は静かに答える。

「国枝……国枝って名前があった」


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