二章 コランバインのバラード【前半】
一階は体育館だった。二階に比べておかしな様子はなく、ごく一般的なものだった。バスケットボールの試合も十分にできる広さだ。
「さっきのプールもどきに対して、ここはただの体育館だな」
オレが小声でそう呟くと、白石が答えるように、
「うん、でもそれが逆に謎だよ。こういうのって、施設全体が変だったりしそうなのにさ」
と言った。
体育教員用の部屋などは無いが、倉庫も二棟あり設備はちゃんとしている。先ほどのプールを見ていたから、予想と違い面食らってしまった。
「とりあえず、倉庫の中を見てみようよっ!流石にこんなだだっ広いホールには何もないと思うし」
確かに、辺りを見回しても気になるものはない。床に何か書いてある……なんてこともないだろうし、そんなことをしていたら日が暮れる。
櫻井に急かされ、一棟目の倉庫を調べることにした。鉄の扉は少し錆びついていて、スムーズに開いてくれない。踏ん張るようにそれを引っ張ると、ギリギリと音を立てて、人が一人通れるくらいにはなった。オレが先頭に、一人ずつそこに入っていく。
「うーん、これじゃあ大きなものは出し入れができないね。みんなでマット運動しようにもできないねっ!」
「……櫻井さん。授業とかがあるわけじゃないから、大丈夫だと思うよ」
と、白石は倉庫の中のマットに近づいて手を置き、
「……!埃だらけ。まあ当然と言えば当然だけど……」
と言った。
どれどれ……オレも確認してみよう。そう思ってマットのそばに行くと、マットの折りたたんだ隙間から何かがはみ出ていることに気づいた。紙のようなので、破れないようにそっと引き抜く。
しわくちゃなそれは、一枚の地図のようだった。手書きのもので、ところどころにメモが書いてある。上に「第二校舎 2F」と書いてあった。昨日、秘星の見せてくれたあの地図に類似している。これには名前が書かれていないが、これも例の人の書いたものなのか。
「なぜこんなところに……って感じだよねっ!とりあえず今日の夕飯の時に報告しようっ!」
一先ずは、他の人に見せるべき。櫻井はそう考えたのだろうか。
……。
「ああ、でもオレが持ってるのは少し心許ないな。その時まで探偵である櫻井に頼むよ」
「えっ!まあ確かに私は探偵だし、証拠品などの扱いには慣れてるけど……」
半ば強制的に櫻井へそれを渡す。櫻井はそれを苦笑いして受け取った。
「よしっ!頼まれたってことできちんとこれを届けよう!」
まだクラスメイト達のことはよく分かっていない。どんな人でどんな行動をするのかも完全に把握できていない。それには白石と櫻井も含まれている。だからこそ、一緒に行動をして情報を得る。そして仲良くなって信頼してもらう。学園を調べながら親交を深めることは大変だが、できないことはない。
一枚の地図を任せるだけだが、それが結びつきを強めることへの道になるかもしれない。
「あ、忘れてたらきっと舞琴さんが教えてくれるしっ!」
「……櫻井さんが忘れることなんてなさそうだけど」
そうして地図の件は二人に一任して、マット以外のものも調べることにした。
ボールを入れる箱と、バレーボールに使うネットとポール。そして得点版がある。
そこには気になるものはなさそうだった。
「隣の倉庫に行くか」
三人で、この倉庫を出る。
しかし、出ると人影が見えた。倉庫の前に佇んでいる。
「おや、櫻井さんに白石さんに大原さんじゃないですか。お久しぶりですね」
そこには顔も見たくない奴、一郷が立っていた。