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お茶の話

「とは言ってもなぁ」
波の音がポセイドンの声をかき消した。
ポセイドンは時々、貝殻や小石を海に投げながら浜辺を歩いている。
その姿は海で遊んでいる子供のよう。
再び日本に来たものの、今回はゼウスの力も借りられず現世にいる。
「私は時空を移動できる術を持っていない。仲間を見付けるといったって皆、私より弱いではないか」

ヴウゥンー

「うむ、移動完璧ぃ。ポセ様のとこに到着ー」
ポツリポツリと独り言を漏らすポセイドンの前に一人の長髪美少年が現れた。
「何だお前は」
「ピンチはチャンスですよ」
美少年はいきなりポセイドンの手を両手で握った。
「ぼくはカイロス。チャンスの神です。今回はあなたにビッグなチャンスを与えにきました」
「チャンス? 私はゼウスをも超える力がほしいのだが」
カイロスは握った手を放して、貝殻を拾いはじめた。
「いいですかぁ~、一人の力には限界があります。ぼくはもう拾うことが出来ません。しかしぼくはまだ貝殻がほしい」
カイロスの両手に集まった貝殻ををポセイドンに見せながら言う。
「お前のために貝殻を拾えというのか」
「はい♪」

パァンーー

「ふざけるな」
「え……」
ポセイドンはカイロスの手をはたいた。
貝殻はバラバラと宙を舞い、砂浜に落ちた。
「私は力のある者がほしい。女々しい体つきのお前に何が出来る」
ポセイドンは三叉槍をカイロスに向けた。
「そのちゃらちゃらした格好も目障りだ。金輪際私の前に姿を見せるな」
「あーぁ、いいのかなぁ」
「何」
「ぼく、時空間移動できるんだけど」
ポセイドンははっとし、悔しげに三叉槍を下ろした。
「くっ……」
「ポセ様とアンピトリテ様がいい感じになった時も、もしかしたらぼくが居てたりして」
カイロスは「ふふっ」と笑みをこぼした。
「なんちゃって、冗だ……」
「その……からを……して……れないか……」
ポセイドンはうつ向きながら言うが、カイロスは聞こえないふりをした。
「え、何ですか?」
「くっ……ち、力を貸してほしい! 時空の移動だけでいい! それに見合った褒美も与える!」
今度は顔を真っ赤にして言った。ポセイドンは息切れを起こした。
「いいですよ。ただ、褒美は」
「イルカか?!」
「はは、そんなわけないじゃないですか! 褒美は……そうですね、ちゃんとした衣装を着て欲しいというとこですね」
カイロスはなめるようにポセイドンの全身を見て、ひとつひとつ指摘して言った。
「ま、王冠がなければ、ただの一般人にしか見えませんね。顔は綺麗なのに」
ポセイドンは震えながら我慢している。海の天気が荒れ始め、どす黒い雲はパリパリと稲妻みたいなものを放っている。
「ポセ様は戦闘狂で有名ですからね。昔は服を毎回ズタボロにしながら戦ってたと聞きました。それで今の服装なんですねー! 破れる所なさそーう」
カイロスが言葉を言い終わった時、空が光り轟音が鳴り響いた。
「おい」
「何ですか?」
面白いこと好きのカイロスはにこっと笑う。ポセイドンは自分を殺せないはずだと認識した。こんな条件、のまれるはずがないとも思っていて、タダ働きの覚悟はしていた。
「だったらお前が毎回、その衣装とやらを準備しろ。私はそれを着て破ることなく戦ってやる」
「え! 本当ですかぁ?」
「文句があるのか」
遠くの海に稲妻が落ちた。
「お前は確かゼウスの末子だったか、ゼウス側ではないのか?」
「……ぼくは人間の主観的な時間なんで、時空が歪んだら困るんです。多分、時空歪んだらクロノスの次に……あるいは……」
カイロスの言葉は波と風の音に所々かき消された。
「そんなこと私は知りもしないが、もしそうなれば私とアンピトリテが結ばれなかったということも起こるのだろう。私の戦歴も消えるものがあるかも知れないのだろう」
「はい、もしかしたら。その可能性はあります」
海の空は再び晴れ、爽やかな風が吹いた。
「そうか……それなら手を組んでも良いが、足手まといにはなるなよ」
「はい、ありがとうございます♪」
ポセイドンとカイロスは時空の裂け目に吸い込まれて行った。
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