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お茶の話

ここはどこかの家の今の時間は使われていない暖炉。
すぐ側の木製の椅子にヘスティアはいつもいる。ゼウスの姉。
「ヘスティア」
1人の女性が彼女の前に、風とともに姿を現した。ヘスティアの長い髪がふわっと揺れた。


「ヘルメス……。今はクロノスとご一緒だとか」
「ああ」
「私に色々お話するのはあまり良くなくてよ?」
「別にいいさ、お前がゼウスに言わないことは皆知っている」

ヘルメスは優しく笑い、ヘスティアの向かいにある椅子に座った。

「お前は並々ならぬ優しさと強さを持っているからな」
「そう?」
「ああ。そうだ、今日も土産話を持って来たんだ」
「今日も? ふふっ、あなた、ご自分がどれだけの時をさまよい続けていたかご存知なのかしら」

今度はヘスティアが優しく笑う。

「ああ…… もう戻れないと思った」
「で、今日は何を話してくださるのかしら? 今は日本という国にいらっしゃるらしいわね」
「ああ。今日はお茶の話だ。石田三成という武将が日本にいた」
「ええ。ヘルメス、ポセイドンに見事勝ちましたね。私も嬉しいです」
「お前はそこしか見ていないだろう」

ヘルメスは困ったように笑った。

「心配なんですもの……」
「その気持ちはありがたい。だが、歴史を見るのも面白いぞ」
「ええ、そうでしたね」
「石田三成……いや、佐吉は三杯のお茶で羽柴秀吉に気に入られ、秀吉について行った」
「単なるお茶で後の天下人を動かすことが出来るなんて、凄いですわね」
「この三杯のお茶の話は、1、そもそも存在しない説。2、佐吉が秀吉を気遣い順番に出した説。3、お湯を沸かすのが間に合わず、最初はぬるいお茶になった説がある」
「まぁ、そんなにも説があるのですね。今回の時空はどれだったんです?」
「今回は、秀吉を気遣っていたな」
「と、すると2?」
「3だな」
「あらあら」

ヘスティアはくすっと笑った。

「しかしな、いっぱいいっぱいになりながらも、秀吉に良いお茶を用意しようとしていた」
「結果、とても秀吉にとって良い時間になった」
「そうだ……」
「この時間と似ていますね」
「そうか?」
「ええ!」
「……そろそろ夜が明ける。また何かあれば話に来させてもらう、待っていろ」
「気を付けて」

ヘルメスは椅子から立ち上がり、風となって消えた。家の奥からは、家主がそろそろ起きてきたのか、身支度を整えている音が聞こえてきた。
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