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はじまりのセカイ

優しい世界が欲しい。私はただ、笑って毎日を過ごしたいだけ。もう一度チャンスをーー

「地に堕ちろ、クロノス」
ゼウスはクロノスに向かい、とどめのケラノウスを一発放った。


「風早ー、これ50枚コピー」
「はい」
「風早さん!この書類私苦手でさー、やっといてくんない? お願い!」
「はーい(残業確定だな)」
「風早、この書類を庶務課に届けてくれ」
「分かりました」
「瑠々子ー、今月キツくて……お昼おごって」
「えーまた? ……わかった(こっちもキツいよ)」
「風早ー、明日休みだけど振替出勤な。研修だから」
……チュンチュン、チュンチュン
「ん、朝……え?!」
目覚まし時計をみた。
「うわっ! アラームかけわすれた!」
急いでビジネススーツを着て、冷蔵庫から牛乳を取り出しコップにつぎグイッと飲み干し、玄関のドアを開けた。
「あ、忘れ物! 定期定期ー!」
風早瑠々子、年齢秘密の新社会人。寝坊してただでさえギリギリなのに、忘れ物をして部屋に取りに戻りギリギリさに拍車がかかる。
「こんな所にも時空のほころびが……」
「あ! ちょっと何なんですか、私の部屋ですよここ」
玄関で風早とクロノスの目が合う。風早の声は震えていた。
「警察呼びますよ」
風早はスマホをポケットから取り出す。
「ヘルメス?」
「え?」
「お前はヘルメスだな。私はクロノス。助けて欲しい」
クロノスは風早の両肩を掴む。金の長い髪がさらっと流れ落ち、ガラス玉のような青い瞳が風早を見つめた。悪い人ではないように感じられる。
「へる……くろ? ううん! 違う。け、警察呼びます」
「お願いだ……歴史が歪められると私は」
「え、ちょっと」
明らかにこの世界の人物ではない服装と神々しさ、クロノスと名乗り、風早をヘルメスと呼ぶその人は、玄関で倒れてしまった。
「うー、どうすればいいの」
クロノスは疲れているのか、寝息を立てて眠っていた。


「う……」
クロノスは布団で寝ていた。
「気がついた? クロノス」
「え」
クロノスは体を起こし、声の発する方を見た。
「ヘルメス……」
「私は風早瑠々子。ヘルメスじゃない」
風早は台所からお茶を持ってきて、クロノスに手渡した。
「魂が酷似している。やはりお前にとっては見ず知らずの私を助けるあたり、かなりのお人好しと私は思う……急に現れた私にこうして布団とお茶まで用意してくれた。ヘルメスにそっくりだ」
お茶を両手に持ち、それをすすりながらまじまじと風早を見た。
「何なんですか!?」
「私か? 私はクロノス。時間の神だ」
「名前はさっき聞きました! 全く、神なんているわけないでしょ、それ飲んで元気になったなら帰ってください」
クロノスはムッとした顔で風早を見た。
「だとしたら、ヘルメス。お前の存在理由は何なんだ」
「知らないよ! あー、今月2回目だよ」
うなだれる風早を不思議そうに見るクロノス。
「何かあったのか」
「欠勤ですー、あなたのせいで仕事を休みましたー」
「そうか、それはすまなかった……」
頭を下げるクロノスに風早は調子を狂わされた。
自分の頭をくしゃくしゃにする。
「あーもう勝手にしてよ! どっちにしろ時間は戻らないから」
「いや、戻せるが」
「でしょーね!! ……は?」
クロノスは立ち上がって、手を天井にかざした。
天井から、細工が施された何ともアニメチックな大鎌が出てきた。
「え、え、ちょっと待って!」
「安心しろ、傷付けはしない」
風早は腰を抜かしてしまい、立ち上がれないでいる。クロノスは大鎌を構えた。
「……っ!」
「ヘルメス……お願いだ、魂だけでも私に応えてくれないか」


もう私には頼れる者がいないんだーー

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