ぬら孫
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目先にいる母の元に名を呼びながら走っていると振り返ってくれた。
だが
ズシャッ
刀が母の体を貫き、母は倒れた。
倒れた母から刀を持つ人物を見上げた。
そこに立つのは、今自分の目の前にいる男だった。
.
妖怪であろう狼を斬った後、夜の姿になったリクオは自分を見て微動だにしないサヤを見下ろした。
「おい、大丈夫か?」
「…ぁ、あ…っ」
声を掛けても返答しない所が何処か動揺を始め、様子が変な事に気付いた時だった。
「…ーーーっ!」
サヤが突然リクオに襲い掛かり、がむしゃらに殴り掛かってくる腕を掴み、動きを止めた。
「おい、何のマネだ?」
「…妖怪、殺した…っ」
自分を見ている様で見ていないサヤの瞳に、リクオは腕を離すと首の後ろを打ち、気絶させた。
「リクオ様ー!やっと見付けましたよ、一体どちらに…」
リクオを探していた氷麗が到着し、リクオと気絶しているサヤを見て動揺した。
「どっ!どどどどどうしたんですかリクオ様!朝倉さんに何が!?」
「取り敢えず、こいつの家まで行くぞ」
リクオはサヤを背負い、氷麗に猫達を頼んでサヤの家に向かった。
森から抜けると丁度サヤの祖母が立っており、リクオと彼に背負われている孫娘を見た。
「お主が若頭か」
「聞きたい事があるが、まずはこいつを寝かせねぇとな」
それに祖母も頷き、彼等を家の中に案内した。
.
サヤを父親に任せ、祖母は本堂でこれまでの経緯を聞いた。
「ますば、孫を助けてくれてありがとう」
「それは構わねぇが、何であいつは俺に襲い掛かって来たんだ?妖怪を見るのは初めてじゃねぇんだろ?」
「……」
「それに、俺に【殺した】と言ってやがった。何の事だ?」
その言葉に祖母は手を強く握り、少しずつ語り出した。
「…サヤの母、わしの娘は…妖怪に殺されたんじゃ」
その言葉にリクオと氷麗は息を飲んだ。
.
「お主らも知っての通りこの地はぬら組が納める地。人間が巻き込まれるなどほぼ無かった。じゃが、あの日…」
娘はサヤと裏の森に散歩に向かった。だが一向に帰ってくる気配がなく探しに行くと。
血を流して倒れている娘と、それを呆然と見るサヤの姿を見付けた。
「娘に何があったのかわしは知らん、だがサヤは変わり果てた娘を見ながら何度も呟いていた。『妖怪、殺した、お母さん』とな」
「そんな…」
「わしは直ぐにぬら組に向かい全てを話した、じゃが誰も知らずに迷宮入り。サヤはそれから変わってしまった」
必要最低限の事だけしか話さず、笑わず、何事にも無関心になり、大好きだった母の事を話さなくなった。
「わしが知っているのは、それだけじゃ」
全てを聞き、リクオも氷麗も口を閉ざした。
すると
バタバタッ、 バン!
「お義母さん、大変です!」
サヤの父が慌てて本堂に入って来た。
「どうしたんじゃ?」
「サヤが、サヤがいないんです!」
父親の言葉に祖母は立ち上がり、本堂の奥の部屋に掛け行った。
「…、サヤっ」
そこに置かれてあるご神刀が無くなっていた。
.
ザッ、ザッ、
虚ろな目をしたまま森に入るサヤ、その手にはご神刀が握られていた。
「…ニャー」
二十匹目
(猫達は何かを話し合い、主人の後を追った。)
.
妖怪はお母さんを殺した後、あたしを見て笑った。あたしも殺すかと思ったけど妖怪はそのまま消え、あたしは何も出来ずにお母さんを見下ろした。
森深くまで来たサヤは一際目立つ大木の前に立ち、持っていたご神刀を掲げた。
刀からは黒いモヤが出ており、それはサヤを包み込んだ。
刀を振り上げ大木を切ろうとした。
ニャー
「っ、」
猫の鳴き声に振り向くと、足元には飼い猫の一匹がいた。
.
「すいませんお義母さん!少し部屋を離れて戻ったら、サヤの姿がなくて…」
「ご神刀もない、どうやらサヤが持ち出した様じゃな」
「急いで探さなければ!あ、でも朝倉さんは一体何処に…」
ニャー
「ん?」
動揺する中、本堂にサヤの猫が一匹入り込み、リクオの着物を加えてグイグイと引っ張った。
「お前、まさか…」
ニャー
猫は着物を離して外に向かい、一度リクオを見た後外に出て行った。
「あ、リクオ様!?」
部屋を出て行くリクオを氷麗が追い掛け、外では待っていた猫がリクオを見るや再び走り出した。
「若、あの子まさか朝倉さんの居場所を…」
「恐らくそうだろうな」
ある程度進んだ先にはもう一匹猫がおり、二匹は揃って走り出した。
ドスンッ
大きな音に一度足を止めたが速度を上げた猫達の先には辺りの木が切られ、大木の前に佇むサヤがいた。
「これは…」
ニャー ニャー!
猫達の慌てる声の先には、三匹目の猫が傷付き倒れていた。
「酷い…」
「氷麗、そいつらを頼む」
「は、はい!」
氷麗は傷付いた猫を抱え、他の猫達と下がり、リクオはサヤの持つ黒いモヤが出ている刀を見た。
「てめぇ、付喪神か?」
『違うな、これは依代。私の本体はこの大木の中だ』
サヤの口から出た彼女のではない声、その声の主は語り出した。
『私はこの地が欲しかった。だが奴にその夢を断たれ、奴の姿に変えてその信頼を奪おうとした。だが』
サヤが大きく刀を振り、大木を切った。
『私は一人の巫女にこの身を大木に封印され、封印を破る為に一部を刀に移し機会を待った』
切られた大木から煙が上がり、サヤにまとわるモヤが煙の中に入って行った。
フラッ
「朝倉さん!」
氷麗は倒れたサヤに駆け寄った。
『感謝するぞ娘よ、やはりあの時殺さず生かしておいて良かったわ』
大木から出て来たのはリクオの父、鯉伴にそっくりな妖怪だった。
「親父!?」
「じゃあ、さっき言ってた方は鯉伴様の事!?」
『ほう、貴様らこやつの関係者か。ならば話は早い、私の悲願、今こそ!』
妖怪は黒いモヤで形作った刀でリクオに切り掛かり、リクオはそれを受け止めた。
「…一つ聞く」
『ほう、何だ?』
「あいつの、サヤの母親を殺したのはお前か?」
『…ああ、私の邪魔をした忌々しい巫女。力尽きる寸前に私を封印などしおって、安心しろ。貴様を始末してあの娘も直ぐに巫女の元に送ってやる』
「…そうかよ」
ザシュッ
リクオは一瞬にして妖怪を切った。
『な…っ』
「長い事封印されていたせいか?テメェの動きは亀以下だ」
『が…あ、 ああああ!! 』
妖怪は断末魔を残して消え、リクオは気絶しているサヤを見下ろした。
「親を失う悲しみ。…痛い程分かるぜ」
小さく呟くリクオ、それに答える様にサヤの目から涙が溢れた。
二十一匹目
(終わった)
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