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藁をゆっくりと運ぶ馬車。その積まれている藁に、一人の女性が寝転がっていた。
彼女はたた呆然と、空を見上げていた。
「怒ってるかな、今頃」
彼女の呟きは二、三日程前に遡った。
「レオナ」
久々に訪れた王宮で、友人の姿を見付けて声を掛けた。
「エルダ!どうしたの急に」
「突然ごめんね、近くまで来たから寄ったの」
「珍しいわね、貴方が出歩くなんて」
久々に見た友人、エルダはアハハ、と笑い、レオナは改めて彼女の姿を見た。
「にしても、出歩くのにその格好は不似合いじゃない?」
エルダの格好は旅に出るような姿で、彼女は左手でマントに触れた。
「ああ、今から旅に出るから」
「…………は?」
「なんか最近暇だったから、ちょっと旅してくるね」
「え?ちょっと、エルダ何言って」
「じゃあねレオナ、元気でね~」
以外な爆弾発言を残し、エルダは傍の窓からルーラを使って飛び去ってしまった。
「ちょっ、エルダー!!」
「…ま、いっか」
一人納得し、エルダは雲一つない青空を見上げた。
.
乗せて貰った馬車の主人に礼を言い、目の前に見える街に入った。
賑わいを見せる市場と人々を見ながら通り過ぎていると、一人の少年が騒いでいるのに気付いた。
「誰でもいいから助けてくれよ!」
「ん?」
少年は数人の大人に向かって怒鳴っていた。
「このままじゃ誰も次の街には行けない!俺の親父も死んじまう!」
「だが、俺達が行っても何の役にも立たないだろう…」
「ああ、親父さんには諦めるよう伝えておけ」
「俺が言ったって聞かないんだ!頼む!誰が親父を説得してくれよ!」
「…悪いな、レン」
大人達は少年から放れて行き、少年は悔しそうに手を握り締め、走り出した。
「……」
「いらっしゃい!姉ちゃん何か買って行くかい?」
目の前にいた店の主人がエルダに声を掛け、目に入った林檎を頂いた。
「さっきのあの子、何かあったんですか?」
「ああ、レンか。あいつはこの先の小屋で父親と暮らしているんだが…」
『次の街に続く山道にモンスターが住み着いちまって、レンの親父が退治しようとしたんだが、これまた強いモンスターの集団でね』
店の主人に聞いた山道を、エルダは林檎をかじりながら進んで行った。
『レンは親父を説得したんだが聞かなくて、他の大人達は何度か止めに行ったんだが…』
シャリ。
「効果は無し。親父さんは諦めなかった…か」
山道は細い道、普通の人間では直ぐに足場を取られてしまう。
「…おまけに」
グルルル…
背後や岩場を見ると、四匹のサーベルウルフがエルダを囲んでいた。
「これだけの数なら、手こずるのは当たり前か」
グアアッ!
一匹のサーベルウルフが飛び掛かり、エルダは避けて別の飛び掛かるウルフ達にギラを放った。
残りの一匹を蹴り飛ばして全員が集まった所でヒャダルコを放ち、足を止めた。
「さてと、どうしようか…」
「おい、あんた!」
ウルフ達をどうしようか迷っていると声を掛けられ、背後を見ると先程街で見掛けた少年がいた。
「君、さっきの…」
「こっちだ、早く!」
そう言って走り出し、まだ身動きの取れないウルフ達を見、少年の後を追った。
.
「あんたスゲーな!」
少年の家に招かれた途端、目を輝かされた。
「あんな沢山のサーベルウルフをあっという間に動けなくしちまうなんて!俺あんなの初めて見た!」
「沢山って、たった四匹…」
「あ、俺はレン。あんたは?」
「…エルダ」
「エルダさん、あんたの腕を見込んで頼みがある!」
レンは椅子から立ち、頭を下げた。
「頼む!この山道に住み着くあいつらを、退治してくれ!」
頭を下げたレンに、エルダは出されたお茶を一飲みして溜め息を付いた。
「やだ」
「え…何で!?」
「やだよ。何で私がそんな事しなきゃならないんだ?」
レンがあまり予想していなかった返事を返し、レンは一時固まった。
「だって!街の連中は手も足も出ないし、俺なんて何の役にも立たないし…」
「気に入らない」
「え?」
エルダはレンの目を真っ直ぐ見て睨んだ。
「何もしてないのに何故決め付けるの?街の人から聞いた。貴方のお父さんは一人で戦ったって」
「うん。でも親父も怪我をして、止めても聞かないんだ…」
「自分で何もしようとしない奴の言葉を聞いても、無駄だろう」
エルダは立ち上がり、扉に向かった。
「倒すのが無理なら、サーベルウルフ達がいなくなってくれる事を祈りな」
「そ、そんな!待ってくれよ!」
レンは止めようとエルダのマントを掴んだ時。
「……レン」
小さな声に振り向くと、杖を付いた男性がレンを呼んでいた。
「親父!」
レンは直ぐに父親を椅子に座らせ、父親の足を見たエルダは驚いた。
父親の足は義足。だかその作りは素晴らしかった。
「レン、余り無理を言わせるな」
「でも親父…」
「すみません旅のお方。この子にはよく言い聞かせますので、どうか許して頂きたい…」
「…失礼ですが、貴方のその足」
「ああ、魔王軍の襲撃の時にやられてしまって、やむを得ず…」
「親父はこんなになってまで戦ってるんだ!なのにあんたは見捨てる気かよ!?」
「レン!」
父を庇う子。
その姿に亡き父バランと、弟ダイを思い出した。
「…解った。レン、貴方の頼み受けましょう」
「え…ほ、ホントに!?」
「ただし」
エルダはそう言い、レンの父親を指差した。
「貴方の義足を作った技師を、紹介して欲しい」
二人は驚き、エルダは指差ししたまま笑った。
.
「……………は?」
義手を造って貰う為に山に住み着くモンスターを倒し、技師を訪ねる為エルダは親子の家に戻った。
息子のレンは余りの早さに驚き、それを聞き流して父親のガイに技師の話を訪ね、唖然とした。
「この足は、私が造った物です」
「じゃあ、貴方技師なんですか?」
「ああ、だが余りの苦痛に耐えた者は少ない。…私もこの足になってある程度経つが、未だに痛みを感じる」
椅子に座り、膝を擦る父親に息子のレンは表情を歪めた。
「エルダさん、技師を必要としているという事は、貴方は…」
「…魔王軍と戦い、右腕を無くしました」
マントに隠されている右腕部分を、左手で握った。
「私に、新しい腕を頂けませんか?」
「…何の為に?」
ガイの意外な返答にエルダは驚いた。
「もう魔王軍はいない、モンスター達を颯爽に倒した貴方は今のままでも十分強い。それでも、右腕が必要なのかね?」
「親父…」
ガイの真剣な物言いに、レンは静かに聞き入っていた。
「仲間を護る為…」
「仲間?」
「確かに魔王軍はもういない。でも、私には戦いの道しかないんです」
握ったままの右側に視線を落とした。
「私に、新しい腕を下さい」
強い眼差しを向けるエルダ。その瞳にガイは笑った。
「解りました、貴方に新しい腕を差し上げましょう」
その答えにレンは嬉しそうにエルダを見上げ、エルダも軽く笑い返した。
「では、エルダさん。貴方に持ってきて欲しい物があります」
ガイは手近にあったメモに何かを書き、エルダに渡した。
「これは?」
「義手を造る為の材料です。生憎今材料が無くて…材料を持ってきてくれれば、お代は結構です」
メモを見ながら親子の家を出て、エルダは宛もなく歩き出した。
「さてと、何から探そうかな~…」
ブツブツと呟きながら歩くエルダ。その時、彼女の背後に人影が現れ。
ビュッ!
ガキンッ!
その人影はエルダに攻撃したが、直ぐに剣で防いだ。
「誰?いきなり斬り掛かってく「エルダ」
斬り掛かって来た布人物に名を呼ばれ、その声に聞き覚えがあった。
「その声…ラーハルト?」
武器を離し、顔を見せた人物はラーハルトだった。
「………何してんの?」
「それはこっちの台詞だ」
ベシッ
後ろから頭を叩かれ振り向くと、ヒュンケルが立っていた。
「いきなり何するのさ?」
ヒ「姫から聞いたぞ、何故突然旅に出た?」
「気分よ気分、やっぱりじっとしてるのは性に合わないわ。…つか何で二人が此処にいるの?」
ラ「近くの街でモンスターの被害があると聞いて来たのだが…まさかエルダがいるとはな」
ヒ「お前こそ此処で何を?」
「私はこれから材料集め」
「「材料?」」
二人に聞かれ、エルダは答えた。
「結構腕の良さそうな技師見付けてね、腕造って貰う代わり材料集め」
僅かに歩きながら説明し、離れた所で振り返った。
「って事で」
トベルーラ!
呪文で上空に逃げ、二人を見下ろした。
「悪いけど私まだ帰らないから、まあまた会ったら会ったでね~」
ラ「なっ、エルダ!」
ヒ「お前!少しは自分の体を心配しろ!そんな体で一人で旅など」
「人の事より自分の心配しろ馬鹿ヒュンケル」
ヒュンケル、ラーハルトの止める声も虚しく、エルダはルーラを使って飛び去った。
「逃げた…」
「ヒュンケル、どうする?」
「一先ず知らせに戻ろう。あいつは大丈夫だろう」
「だといいがな…」
二人はエルダが飛び去った方向を見ながら話し合った。
こうして、エルダの材料探しの旅が始まった。
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