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長い戦いが終わった後、俺はラーハルトと共にダイを捜す旅に出る事にした。
だが、俺はどうしても伝えたい事があって、あいつの元に行った。
テラン王国の森の奥に、小さな小屋が建っていた。
その小屋の側の畑には一人の女性がおり、何か作業をしていた。
「エルダ」
ヒュンケルが女性の名を呼ぶと、彼女は瞬時に振り返り、ヒュンケルを見て笑った。
「ヒュンケル、久しぶり」
その女性はダイの姉であり、自分の妹弟子のエルダだった。
エルダはヒュンケルを小屋の中に招き、彼を椅子に座らせ、自分はお茶を入れた。
「いきなりどうしたの?ラーハルトと旅に出るんじゃなかったの?」
「そのつもりだが…その前にやりたい事があってな」
「ふ~ん」
片手だけの状態ながらも器用に動き回るエルダの姿を見てヒュンケルは少し安心した。
「何も、心配はなさそうだな」
「何が?」
「そんな状態で一人で暮らすと聞いた時は…皆お前を心配していたからな」
そう。エルダは皆がそれぞれ別れる時、一人この場所に住むと言い出し、殆どの者が反対した。
エルダの右腕はもうなく、まだ体も安定していない状況だった。
だが彼女は皆の反対を押し切り、一人此処に住み着いた。
「全く、皆心配性なんだから。大丈夫だって言ってもほぼ毎日のように誰かが来てたんだよ」
「だろうな」
「私ってそんなに危なっかしいか…?」
首を傾げながらヒュンケルにお茶を出し、彼の前に座るエルダの姿に、ヒュンケルは小さく笑った。
「ヒュンケルはどう?体の具合は」
「前よりは良い方だ。まだ戦いは出来ないがな」
「平和な内に休め休め」
呑気に言いながら茶を飲むエルダを見て、ヒュンケルは苦笑いした。
ヒュンケルの体は今までの戦いの影響で戦えなくなり、今は剣を振る事さえ出来ない。
それでもダイを捜す旅に出ると言い出し、同じ目的であるラーハルトに同行を頼んだ。
「私から見ればヒュンケルの方がよっっぽど心配だけど」
「俺は一人ではないからな」
「旅に出るよりさっさと嫁でも貰いなさいよ。アバン先生みたいに」
ピクッ
冗談半分で言った台詞に、ヒュンケルはそっとコップを置いた。
「嫁…か」
「そうそう。マァムとかエイミさんとか。あんたにベタボレがいるじゃないの」
「……」
「あ。それとも、別に好きな人がいるとか?」
いつの間にか話は変わり、エルダがからかい半分で言っていた。
すると、ヒュンケルがボソリと話し出した。
「…いるさ」
「え?」
「俺には…ずっと想っていた人がいる」
「…嘘」
突然の発言に、エルダはヒュンケルに言い寄った。
「誰誰誰!?私も知ってる人!?」
「あ、ああ…」
「へぇ~ヒュンケルに好きな人か~。初耳だな!」
「当たり前だ。誰にも言ってないからな…」
「戦う事しか頭になかったヒュンケルの好きな人…どんな人?」
自分が飲んでいたコップに新たにお茶を入れようと、立ち上がって台所に向かいながらの少し馬鹿にするような言い方。
少しの苛立ちを感じたヒュンケルは、そっとエルダの背後に立った。
「…解らないのか?」
「解る訳ないでしょ?私はヒュンケルじゃないんだから。で、一体誰なん………」
振り返った瞬間、言葉は途切れた。
その理由は
エルダは、ヒュンケルに抱き締められていた。
「ヒュン…ケル…?」
「俺の想い人は。強く、時には弱く…仲間の為なら平気で命を投げ出し、たった一人の弟を捜し続けた…」
「エルダ。お前だ…」
その言葉にエルダは目を見開いた。
その後、ゆっくりと我に返ったように慌て出した。
「あ…え?な…あ、ちょ…ほ、本気…で?」
「当たり前だ」
ヒュンケルはエルダを抱き締める力を強めていると、エルダは無理矢理ヒュンケルから離れた。
「っ…な…い、いつから…?」
「先生の元で修行していた頃だ」
「マ、マァムとか…エイミさん…は?」
「マァムは好きだが妹弟子としてだ。エイミは彼女が付けているだけだ」
「アバン先生の元で修行って…何年前…」
「11年程前だな」
「お前はロリコンか!?」
混乱状態のまま訳の解らない事を言うエルダに飽きたのか、ヒュンケルは彼女を壁まで追い詰め顔を寄せた。
「そんな事はどうでもいい。俺が今知りたいのは答えだ」
「こ…答え?」
「俺はお前が好きだ」
「っ!///」
面と向かって言われた言葉に、エルダは瞬時に赤面した。
「お前はどうなんだ、エルダ」
真剣なヒュンケルの眼差しにエルダはその瞳から逃れようと、必死に言葉を探した。
「わ…私、は…」
俯いた彼女を、ヒュンケルは黙って見ていたが。
「し…」
「し?」
「知らないよっ!!」
意外な答えにヒュンケルは目を丸くした。
「ヒュンケルの事は兄さんみたいにしか感じてなくて、私は今までダイを捜す為しか考えてなくて…、その後は魔王軍と戦う事で頭が一杯で…、終わったら終わったでダイがまたいなくなって…だから…だから…っ」
「急にそんな事言われたって知らないよッ!!」
一気に自分の想いをぶちまけ、ゼェゼェ。と息をするエルダに、思わずヒュンケルは彼女から少し離れた。
「今までそんな事、誰にも言われた事も…な、なかったし…」
「…誰にも?」
「うん。誰にも…」
「…ラーハルトは?」
「何でラーハルトが出て来るの?」
決戦時、魔王軍に操られていた時にラーハルトはエルダに告白した。
だが、その記憶は全く覚えていないようだった。
嬉しいようななんと言うか、哀れラーハルト。
「だから…だからいきなりそんな事言われても…急にヒュンケルをそんな風には…見えない…」
再び俯くエルダに、ヒュンケルも小さくそうか。と呟き、暫くの沈黙が続いた。
「なら、待とう」
「え?」
突然の返答に、エルダは弾かれたように顔を上げた。
「お前が俺をそう見てくれるまで、俺は待つ」
「ヒュンケル…」
「もう行くな」
ヒュンケルは椅子に置いてあったマントを羽織り、扉に手を掛けた。
「また来る。その時まで…元気で」
「ヒュンケルも、気を付けてね」
小さく微笑むエルダにヒュンケルも軽く笑い。
彼女の頬にそっと口付けた。
「エルダもな」
勝ち誇ったように笑って去るヒュンケルを見送った数秒後、エルダはそっと彼が口付けした部分を触った。
そして徐々に顔を赤くし、やがて。
「…っ、…い、 イヤァーーッ!! 」
ドガーーンッ!!
急に暴れ出し、側にあった木を左拳で倒した。
その音を聞き、ヒュンケルは去りながら笑っていた。
エルダが森の奥に住んだ理由。それは周りに危害を加えない為であった。
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