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夢から覚めた瞬間、目の前に写る天井。窓から見える青空。
起き上がろうとした時、ある事に気が付いた。
「あ…」
服を脱いで目にした上半身に巻かれた包帯。そして、エルダの右腕はなくなっていた。
「そうだ、私…」
大魔王バーンとの戦い、地上を壊させない為に消えたダイ。
エルダはベッドから立ち上がり、窓辺に立った。
ガチャッ
「エルダ?」
部屋の扉を開けて入って来たのはヒュンケル。
彼はエルダが目覚めた事、起き上がっていた事に驚いた。
「もう起きて大丈夫なのか?体は、平気なのか?」
ヒュンケルは心配しながら近寄るが、エルダは背を向けたままだった。
「エルダ?」
「…ヒュンケル」
「何だ?」
「ダイは?」
「…ダイは、まだ見付かっていない。今必死で探している」
「……う……」
「う?」
急に震え出したエルダに、ヒュンケルは怪我が痛むのかと手を乗せて状況を確認しようとした時。
「うぎゃーーーッ!!」
「ッ!?」
エルダは大声を上げた。
「ヒュンケル!此処パプニカだよね!?」
「あ、ああ…」
「ヒュンケル!…は駄目か。ラーハルトかあのヒムは何処!?」
「あいつ等はダイを探しに向かったが…」
「あ~、手合わせがいない~っ」
エルダは先程脱ぎ捨てた服を着直し、部屋を出た。
「待て!お前何処に行く気だ!?」
「気分がむしゃくしゃするの!手合わせがいないなら何処かで暴れてくる」
「あばっ、少しは安静にしろ!何日眠っていたというんだ!?」
「知るか!」
「威張るな!」
怒鳴り合う内に二人は喧嘩口を始めた。
「大体あんたこそ体ろくに動かせないならあんたの方が安静にしてなさいよ!人の事言えないだろ!?」
「お前は5日も眠っていたんだぞ!それなのに起きた途端暴れたい等と、どういう性格をしているんだお前は!」
「私の性格あんたにとやかく言われる筋合いないわよ!あんたこそ『何時も真面目な事考えてます』みたいな顔止めろよ!」
「だったらお前も少しは回りの目を考えろ!いつも心配掛けて迷惑を掛けて!そんなだから怪我が堪えないんだ!」
「怪我が怖くて戦えるか!んなのいつか治るんだ!一々気にしてたらやってらんないわ!」
ヒュンケルと言い争い、エルダは近場の窓辺に立った。
「あ~あ、ヒュンケルといると直ぐ喉乾く」
「お前が叫ぶからだ」
空気を吸い、エルダは窓に足を掛けた。
「エルダ!何処に行く!?」
「被害が出ない所。んじゃね」
エルダはルーラを使い、飛んで行ってしまった。
ドオオン!ズカアアン!
「くっそーーッ!!」
人気のない岩場で、エルダはがむしゃらに呪文を放っていた。
その理由は自分の不甲斐無さ。
自分の実力がもう少しあれば腕を失う事も、ダイが消える事もなかった。
「私は…私は今まで何の為にーッ!!」
ドガッ!
岩を殴って粉々にし、エルダは膝を付いた。
「…っ、ダイ…」
「うわああああっ!!」
ぽつ、ぽつぽつ…
サアー
次第に雨が降り出すが、エルダは動く事なく座ったまま、雨とは違う物を流していた。
.
『エルダ、抱いてあげて。貴方の弟よ』
『わたしの、弟…』
『そうだ。もしディーノに何かあったら、お前が護ってやるんだぞ』
『うん!わたし絶対護るよ!ディーノを!』
産まれたばかりの弟を抱き、両親に約束した言葉。
だがその約束は、最後の最後で守れなかった。
「結局、私は何も出来なかった…」
「それは違う」
自分とは違う声にゆっくりと顔を上げると、そこにはヒュンケルが立っていた。
「ヒュンケル…何で…」
「あれだけ騒げば解る。と言いたい所だが、本当は先生に頼んで連れて来てもらったんだ」
「…アバン先生は?」
「先に帰った」
ヒュンケルの言葉を聞き、再びエルダは俯いた。
「…何しに来たの?」
「お前を連れ戻しにだ」
「私まだ此処にいるから、ヒュンケル先に帰りなよ」
口を閉ざしたエルダに、ヒュンケルは迷わず告げた。
「ダイが消えたのはお前のせいじゃない」
「…!」
「あの時死神が現れなければダイは消えずに済んだ。全ては奴のせいだ」
「…違う」
「?」
「違う、違う違う!」
エルダは大きく首を振り、否定した。
「私のせいだ!私に、私に力が残っていたらダイがいなくなる事もなかった!私があの子を消したんだ!」
「何故そこまで自分のせいにする?ダイがお前の弟だからか?」
「そうよ!」
エルダは立ち上がり、ヒュンケルに叫んだ。
「私はあの子を護ると誓ったのに、何も出来なかった…っ、なのに何故誰も私を責めないんだ!?」
「エルダ…」
「どうしてあの子が消えなきゃならないんだ…どうして、私じゃなく…」
エルダの瞳から、再び涙が溢れた。
「私が…私が消えればよかったんだ!!」
パンッ!!
ヒュンケルはエルダの頬を叩き、言葉を止めさせた。
「もしお前が消えたとしたら、ダイはどうなる?」
「…」
「お前を助けられなかったと、ダイも同じ事を思う事に何故気付かない?」
「ぁ…」
エルダはがくっ、と膝を付いた。
「あの場にいた皆は同じ事を思った筈だ。そして誰が消えたとしても、同じ事を思う筈だ」
呆然とするエルダにヒュンケルも膝を付き、肩に手を置いた。
「信じよう、ダイを」
「…っ」
「あいつは必ず生きている。そして帰ってくる」
「ヒュンケル…」
「ダイは、お前の弟だろう?」
ポタッ
「う…く…っ」
エルダは静かに涙を流し、ヒュンケルはそっと抱き締めた。
「必ず見付かる、信じろ」
「う…んっ…!」
雨の中、涙が止むまで、ヒュンケルはエルダを抱き締め続けた。
.
数分後、エルダの涙は止まり、雨を凌ぐ為洞窟に入り、止むのを待った。
「…ヒュンケル」
「何だ?」
「何でダイの事考えてたって、解ったの?」
膝を抱えて座ったまま、エルダは洞窟の壁に立ち、寄り掛かって外を見るヒュンケルを見上げた。
「お前の優先順位はダイだからな」
「え?」
「ダイがいなくなって、その怒りを晴らそうと、暴れていたのだろう?」
こちらを見て笑う彼に、エルダも小さく笑った。
「当たり」
雨が弱くなった事を確認し、エルダは立ち上がった。
「帰ろうか、パプニカに」
「ああ」
エルダはヒュンケルの肩を掴み、パプニカ向けて飛んだ。
.
「エルダーッ!!」
ゴツンッ!
帰った途端、エルダはレオナからげんこつを受け、側にいたヒュンケルも内心で驚いていた。
「レ、レオナ…なぜ…っ」
「こっちの台詞よ!突然いなくなったと思ったら何してたのよ!?何もなかったから良かったものの!」
「いや、今死にそう…っ」
地に倒れたエルダは、瀕死状態だった。
「とにかく、今のエルダは絶対安静!解ったらさっさと病室に戻る!」
襟元を掴まれ、引きずられていくエルダ。
だが何かに気付いて「あ、」と声を上げた。
「ヒュンケル~」
「ん?」
「ありがとう」
引きずられながら御礼を言うエルダ。
その表情に、ヒュンケルは笑い返した。
ダイが消えた後の話でした。