本編
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自らエルダの剣に突き刺さりながらも、彼女を抱きしめたラーハルト。
エルダはその行動に僅かに動揺した。
「…此処で…」
ゆっくりと、ラーハルトは話し出した。
「ここでお前に殺される事も、覚悟はしていた。だが、それでも俺は諦めきれなかった…っ」
エルダを抱き締める力を強めた。
「お前は生きなければいけないんだ。ソアラ様や…バラン様の為にも…そして、ディーノ様の為にも…!」
父、母、そして弟の名前にエルダの手はピクッと反応した。
「俺もお前に生きていて欲しい…お前自身の為にも、俺自身の為にも…!」
エルダの剣を握っていた手が落ちた。
「…だ。…俺はお前が、好きだ…!」
突然の告白、その言葉に、エルダの目が見開かれた。
大好きな父と母。勇者として日々修行し、立派になっていく弟のダイ。
無愛想だが頼れるヒュンケル、怒ると怖いが優しいマァム、お調子者だが勇気もあるポップ。
死んでしまったけど、今も心にいるアバン先生、最後まで案じてくれたラーハルト。
私の、大切な人達。
「エルダ…元に、元のお前に戻ってくれ…っ」
ラーハルトは抱きしめる力を強める。
が、エルダは彼を突き飛ばし、その反動で剣を引き抜いた。
そして再び剣を構え、ラーハルトの首目掛けて振り下ろした。
ガシャンッ
その音に顔を上げると、エルダは剣を離し、動揺した目でラーハルトを見ていた。
「ラーハ…ルト…?」
戸惑いがちに聞こえた声に他の者達もエルダを直視すると、彼女はゆっくりと辺りを見回した。
「私…一体、何を…」
「エルダ…様」
ラーハルトはエルダに声を掛けながら手を延ばし、エルダも答えるように手を延ばした。
「ラーハルト…!」
手が触れ合う瞬間。
ドスッ!
「…え?」
嫌な音、そして胸に感じた異様な感覚に視線を下げると、エルダの胸元には指が一本突き刺さっていた。
ゆっくりと後ろを振り返ると、ミストバーンがエルダに手を向けていた。
「…あ…っ」
〔消えろ、役立たずが…〕
ドドドドッ!
続けざまに残り4本の指をエルダに突き刺し、引き抜かれたと同時にエルダは血を吐き、前に倒れた。
「エルダッ!!」
倒れる寸前にラーハルトはエルダを支え、彼女の傷口を見た。
「エルダ!しっかりしろ!エルダッ!!」
〔…フッ〕
ミストバーンは今度はラーハルト向けて指を延ばすが、それはヒムのオリハルコンの体に砕かれた。
〔き…貴様…っ〕
「相手なら俺がしてやるぜ…ミストバーンさんよ」
待ち構えていたようにヒムは言い放ち、ミストバーンに向かって行った。
その隙にラーハルトはポップ達の方にエルダを運び、回復呪文を頼んだ。
ポップは直ぐさま彼女に回復呪文を掛けるが、暗黒闘気の影響でエルダの傷は簡単には塞がなかった。
「エルダ…!」
ラーハルトもマァムに傷を回復してもらい、苦しそうに息を繰り返すエルダの手を握った。
「エルダ…っ」
「…ラ…ハ…ルト…」
呟くような小さな声に俯いていた顔を上げると、エルダが僅かに目を開けていた。
「エルダ!」
「…ラーハ…わた…」
「エルダ喋んな!まだ傷は塞がってねえんだ!」
回復を続けていたポップが少し怒鳴り気味に言うが、エルダは構わずに話を続けた。
「…ポッ…プ…君…マァ…ム…ご…めんね…」
「エルダ喋らないで!話なら回復が終わった後にいくらでも聞くから!!」
マァムもエルダの側に寄り、回復を急がせようと自分も呪文を唱えた。
「皆の…声…聞こえて…たのに…体…言うこ…効かな…て…」
「もういい!もういいから黙ってろよ!!」
「…いた…かった…よね…ごめ…んね…」
涙を流すマァムの頬に手を延ばして涙を拭い、一度笑ってエルダは気を失った。
「エルダ!エルダっ!」
「大丈夫だ、気を失っただけだ…」
エルダが目を閉じた事にマァムは慌てるが、ポップの言葉に安堵した時、戦いの最中だったヒムがミストバーンを倒した直後だった。
倒れたミストバーンにヒュンケルは正体を知りたいが為に衣を取れと言うが、それは突然慌て出したクロコダインに止められた。
地上から大魔宮に上がる時クロコダインはロン・ベルクからミストバーンの闇の衣を取るな、と告げられた。
ミストバーンには隠された力がある。それを解放する前に奴を倒せと。
正体を暴くか、止めを刺すかと迷っていると、上の階の方から大きな振動が聞こえ、ミストバーンに止めを刺そうとした時、奴はいつの間にか起き上がっていた。
「こ、こいつ…不死身か…?」
「ヒム!早く止めをっ!」
「おうよ!」
ヒュンケルに即され、ヒムは拳をミストバーンに向けるが、その拳はミストバーンの首の飾りを割り、光りが放たれた。
〔お許しを…バーン様。この姿を曝してしまった事をお許しを…〕
ついにミストバーンの素顔が明らかになった。
彼の素顔は細面な青年の顔で、とても恐ろしいようには見えなかった。
だがミストバーンが手を前に出した瞬間、ポップ達は掌圧で壁に叩き付けられた。
負けじとヒムやラーハルトが飛び出し、攻撃を繰り返すが、全く効いていなかった。
倒れた二人を見ながらミストバーンは語り出した。
自分こそが魔界最強の男なのだと。
バーンは魔法力においては並ぶ者はいない。だが肉体の強さはミストバーンの方が上だと。
〔私はバーン様より強い…!私が魔王軍最強なのだ!!〕
.
真の姿になったミストバーンは圧倒的な力で攻めるヒムやラーハルトを薙ぎ払った。
そして最後の手段をポップのメドローアに賭け、マァムの老師であるビーストが時間を稼ぐべくミストバーンに向かった。
メドローアを作り、ミストバーンに向けて放つ瞬間、戦っていた老師の限界が来てしまい、彼を盾にした。
だが迷う事なくポップはメドローアを放ち、放ったと同時にルーラで老師を救出した。
交わせようのない呪文に誰しもが勝利を確信した。
が、ミストバーンは呪文の軌道を変え、避ける事の出来ないポップと老師は呪文に掻き消された。
絶望的な事にマァムは泣き崩れ、他の皆も死を覚悟したが、ヒュンケルは不思議な事を言い出した。
「ミストバーン…お前が本物の大魔王バーンだっ!!」
ヒュンケルの言葉に皆は少しの疑いを持つが、ミストバーンは以外な言葉を口にした。
〔…やはりお前だったかヒュンケル、最初にその真実に気付くのは…〕
「最初にミストバーンが素顔を見せた時から、俺はその気配が誰かによく似ていると思った…それは他でもない大魔王バーンだったのだ…」
ヒュンケルは謎解きを開始するが、それを全て言い終わる前にミストバーンは皆を消そうとした。
が。
「…そりゃあないよ、折角そこまで言ったんだ。最後まで言わせてあげたまえよ」
現れたのはアバンと戦っている筈の死神、キルバーンがいた。
死神の出現にアバンが死んだ事を告げられ、マァムはもう何も聞きたくなく耳を塞いだ。
死神とミストバーンは互いの立場や役割を話していたが、急にミストバーンは死神に向かって攻撃し出した。
「いやあ…失敗失敗、互いの呼び名とは初歩的なミスをかましちゃいましたねえ」
死神の、いや、死神に化けた人物は、アバンだった。
アバンは死んだのは死神の方だと伝え、ヒュンケルが話していた謎解きの続きを話し出した。
大魔王バーンは己の若き肉体に生命活動を停止させる呪文を掛け、バーンはミストバーンに肉体を隠し、守り抜く事を命じた。
〔私はバーン様の真のお姿を覆いつくす黒い霧…!即ちミストバーンだ!!〕
その時、上の階の方からバーンの声が聞こえ、ミストバーンは肉体をバーンに戻す為に消えた。
.
消えたミストバーンの言葉に皆は叶わない事を考えていると、別の場所からミストバーンの声が聞こえた。
その方向を振り向くと、そこには黒い幽霊のような姿のミストバーンがいた。
〔アバンの言う通り…私は暗黒闘気の集合体…言わば幽霊とガス生命体の中間のような存在…そして今誰より暗黒闘気を受けたこいつには〕
ミストが黒い右手を上げてアバン達に見せるようにすると、右手には先刻の戦いで気絶したエルダの姿があった。
「エルダっ!!」
〔暗黒闘気の影響を受けた今のこいつの体は、まさにうってつけという事だ〕
ミストはエルダの体を乗っ取り始め、それに堪えられなくなったマァムはエルダに取り付いているミスト向かって拳を振るった。
「エルダから離れなさいよっ!!」
マァムの拳が当たる瞬間。
パシッ
「え…?」
ガンッ
エルダはマァムの拳を受け止め、彼女を殴り飛ばし、壁に激突したマァムを見た後にアバン達を見た。
エルダの額には、先程のバーンの肉体にあった物と同じ、黒い霧が表されていた。
ドンッ
〔…流石は竜の騎士。あれほどの傷が有りながらここまで使いやすいとは〕
ミストはエルダの体で魔法を放ち、力の様子を確かめていた。
「あれほど傷付けた揚句…体をも支配するとは…!本気を出す前に今すぐエルダの体から出ていけ!!」
〔笑わせるなラーハルト。貴様は先程エルダに本気相当の力で挑んでいたが、結局は勝てなかったようだが…?〕
「く…っ」
槍を握り締めながら構えるが、ミストはラーハルトを見て笑った。
〔信じられないのなら信じさせよう。傷を負った体でも、私が使えば…ここまでになるっ!!〕
ミストはエルダの体でラーハルトに殴り掛かり、加勢に回ったアバンにラーハルトを投げ飛ばし、向かって来たヒムの片腕を壊し、起き上がろうとしたアバンの顔を踏み付けた。
〔舐めた事を考えるからこうなるのだ。こやつは元々魔族に近い、その力を私が全力で使うと…こうなるのだ〕
倒れたアバン、ラーハルトやヒムの姿にクロコダインやヒュンケルは何も言えずにいたが、背後から立ち上がったラーハルトが槍を振るった。
「貴様…許さんッ!」
〔フッ…やっと本気になったか…〕
「これ以上暴れる前に…片を付けてやるぜッ!!」
やる気満々の二人にミストは構えるが、すかさずクロコダインが止めに入った。
「やめろヒム!お前の拳では、エルダの体も粉々になってしまう!!」
「当たり前だろ!そういう技なんだからよ!」
「確かにエルダは救いたいが…ミストだけを器用に倒す技など有りはしないのだからなっ!」
残った手で技を構えるヒムと、悔しそうに槍を構えるラーハルト。だがヒュンケルは方法があると言い、アバンを指差して頷いた。
「俺なら…やる!この体がまともに動くなら俺自身の手でやっている…!エルダもアバンの使徒の一人!その光の力を…勇者が伝えし技を誰よりも信じている筈だ!」
「俺なら…光に賭ける!」
ヒュンケルに即されてアバンはラーハルトから槍を借り、エルダに向けて構えた。
その構えにミストも身構えたが、アバンが放つ前に照準から逃げるが、アバンは慌てる事なく技を放った。
「虚空閃!!」
アバンが放った技はエルダの胸部分にあるバーン印のネックレスを壊し、壁に激突し倒れたエルダを見て驚いた。
倒れたエルダには既にミストの姿はなく、辺りを見回していると、今度はヒュンケルがミストに取り付かれた。
ヒュンケルを救おうとアバンはもう一度虚空閃を放つが、それはヒュンケルから放たれた暗黒闘気に弾かれた。
〔これが私がヒュンケルを選んだ理由、最初からエルダの体などどうでも良かった…例え全身が傷付いていようとも関係ない。私には痛みなど伝わらないからな!〕
「エルダに続いてヒュンケルの体までボロボロに使い切ろうというのかっ…!この悪魔め!」
〔…いや、この体が最後だ〕
ミストの発言に、クロコダインは驚いた。
〔この体こそは私がバーン様に肉体をお返しした時、自らのメインボディとして使用する為のもの…それは10数年も前から決まっていた事なのだ…!〕
ミストの闘気とヒュンケルの闘気が混じり合い、それはバーンの体と合体していた時に匹敵した。
だがエルダの時の様に乗っ取られた形跡は見られず、膝を付いたヒュンケルの体からは何故か煙が上がっていた。
「ヒュンケル!ミストは…!?」
「…死んだ、俺の中で…」
ヒュンケルの言葉に皆は愕然とし、よろめきながらも立ち上がる彼にアバンは手を差し出した。
「…先生…貴方にとって、俺はなんですか?」
ヒュンケルの言葉にアバンは一瞬?を浮かべたが、すぐに彼に答えを返した。
「…決まってるでしょう。…誇りです…!」
差し出した手を握り返すヒュンケル。
彼の闇の師弟の長き宿命の日々が終わった。
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