本編
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自分の妹弟弟子を傷付けられてヒュンケルは怒り、また同様に自慢の牙を折られたボラホーンも怒りを増していた。
「き、貴様…!よくも自慢の牙を…粉みじんにしてくれる!!」
ボラホーンの拳がヒュンケルに放たれるが、彼は片手でそれを防ぎ、ボラホーンに蹴りを入れた。
「ぐ…っ」
「…どうした?俺を粉みじんにするんじゃなかったのか?」
「…フッ、そいつはこれからよ!!」
ボラホーンは口から凍りの息を吐き、ヒュンケルに向かって己の武器を投げた。
ガシッ
ヒュンケルは鎧を体に纏い吹雪と武器を防ぎ、怯んだボラホーンを必殺技のブラッディースクライドで倒しラーハルトを見た。
「残りは貴様か」
「少しはやるようだな、人間で此処まで出来る奴がいるとは思わなかったぞ、…だが」
ラーハルトは自分の槍をヒュンケルに見せ、彼と同じように鎧化した。
「悪いが、俺は此処で死ぬ訳にはいかない」
そう言ってラーハルトは、少し離れた場所に倒れているエルダを見た。
その様子をヒュンケルは黙って見ていたが、エルダを見るラーハルトの眼差しが少し違うのに気付いた。
「バラン様の為にも、そして、エルダ様の為にも!!」
ラーハルトはヒュンケルに槍を向けた。
ラーハルトは圧倒的に強かった。ヒュンケルの攻撃は全て防がれ、対には彼の鎧は粉々に砕かれた。
(な…なんというヤツだ…!この俺が…まるで歯が立たんとは…!!)
倒れるヒュンケル。その時視界に入ったエルダの姿に、彼女に手を伸ばした。
(く…エルダ…っ)
ラーハルトは倒れたヒュンケルを見ながら離れた場所にいるエルダを見ると、彼女の元に歩こうとした。
だがヒュンケルの指が動き、歩みを止めた。
「…死にきれんと見えるな、だが止めは刺さぬ。もがき苦しんでゆっくり死ね。俺はディーノ様を奪い返す為に一刻も早くエルダ様とバラン様の元に向かわねばならんでな」
「ウッ…クッ…」
痛みを堪えながら、ヒュンケルはゆっくりと起き上がった。
「例えバランがダイやエルダの肉親であろうとも…渡す訳にはいかん…!ダイは…今や地上の人間全ての希望なのだ…!!」
「希望だと?…くだらん。人間共にそんなものを抱く権利などないわ」
「なにッ…!?」
「冥土の土産に教えてやるバラン様が何故あれほどまでに人間を憎むかを…!」
憎しみを抱くように話し出すラーハルトにヒュンケルは黙って聞いた。
「バラン様がこの世でただ一人愛した女性、すなわち、エルダ様とディーノ様の母上は…」
「人間に殺されたんだッ!!」
ヒュンケルは己の耳を疑った。
「馬鹿な、二人の母親を殺したのが…人間だと!?二人の母親とは何者なんだ…?やはり竜の騎士なのか!?」
「…本来竜の騎士とはこの世にただ一人しか生まれぬだが、バラン様の代で例外が起こった…!」
.
15年前、魔王ハドラーが世界を席巻している時、バラン様は魔界でより強大な敵と戦っていた。
その戦いで瀕死の重傷を負いながらもバラン様は竜の騎士が力を回復するという泉に向かった。
その泉で待っていたのがバラン様が愛した女性、アルキード王国王女のソアラ様と、娘のエルダ様だった。
戦いが終わったバラン様は城へと招き入れられ、エルダ様に竜の力を教えたりもしていた。
だが家臣の一人が王にバラン様が人間ではない事を忠告し、王は城からバラン様を追放してしまった。
雨の中、バランを待ち伏せしていたのはソアラとエルダだった。
「ソアラ、エルダ…」
黙ってバランを見るソアラと、彼女の手を握りながらバランを見るエルダ。
「所詮私は人間といるべきではなかったようだ。…さよなら、お前達と過ごせた毎日は楽しかった…」
「…バラン!」
ソアラはエルダから手を離し、バランに寄り添った。
「お願い、私とエルダ…いえ、子供達を置いて行かないで…」
「子供達…、まさか、もう一人子供を!?」
コクン
「なんと…!血塗られた戦鬼のような竜の騎士が…二人も子供を授かったというのか…!?」
バラン様達はテランの森深く逃げ延び、そしてそこでディーノ様が生まれたのだ。
だが人間共はそんな安息の日々をも許さなかった。
“魔物に王女を取られたとあっては国の名折れ”と怒った国王は居場所を突き止め、大軍をもって取り囲んだ。
バラン様は意を決して降伏し、ソアラ様から引き離されたディーノ様は異国の地に送られ、エルダ様は兵士達に捕えられた。
その数日後、バラン様の公開処刑の日が来た。
兵士に抑えられながら捕われの父の姿を見て涙を流すエルダ。
そして魔法使い達が魔法を放った途端、誰かが飛び出して来てバランを庇った。
バランを庇ったのは、ソアラだった。
「ソアラーーッ!!」
その光景に兵士の手が緩みその隙にエルダも父母の元に駆け寄った。
「…あ…あなた…エルダ…」
「母さん!母さんっ!!」
「馬鹿な!私はお前達の為に死ぬつもりだったんだぞ!!」
「父上たちが…これ以上ひどい事をするのを…見ていられなかったの…でも…人間を恨まないで…皆臆病なだけなのよ…」
「よせっ!もう喋るな!!」
「お願い…ディーノを捜して…三人で…平和に…」
ソアラの手がゆっくりと地に落ちた。
「ソアラーーッ!!」
涙を流し続けるエルダ。彼女の目には、息絶えた母の姿しか映っていなかった。
「皆…皆…っ」
「死んじゃえーー!!」
バランとエルダの竜の紋章が同時に輝き、アルキード王国はこの世から消えた。
.
バラン様はソアラ様の亡きがらを埋葬し、エルダ様が待っている元アルキードに戻った。
だが、エルダ様の姿は何処にもなかった。
「バラン様は世界中を捜したが二人は見つからなかった。その失意のどん底の時にバーン様がお声を駆けられたのだ『まず滅ぼすべきは人間ではないか』とな」
「…そ…その話は本当なのか…?」
「むろんだ。バラン様が俺だけに打ち明けてくれた、悲しい過去だ」
だが、ヒュンケルはその話を聞いてゆっくりと立ち上がった。
「貴様…まだ!?」
「ラーハルト、お前は強い…はっきり言ってもう俺には立っているだけの力も残っていない…!だが、今の話を聞いたらこのまま倒れている訳にはいかなくなった…!!」
「ダイとエルダ…バランの為にもな!!」
.
再びラーハルトと対決したヒュンケル。だがヒュンケルは直ぐに追い込まれた。だが彼は自分の命を囮にしてグランドクルスを放ち、ラーハルトに勝った。
だが惜しくも生きていたボラホーンがポップを人質に取り、ヒュンケルの命を奪おうとした。
だが、それはラーハルトの手によって阻止された。
ラーハルトを仰向けに寝かせ、何故ヒュンケルを助けのかと、何故そこまで人間を憎むのか聞いた。
「俺も、ディーノ様やエルダ様と同じ混血児なのさ…ただし、人間と魔族のな…」
魔族の父は早く亡くなり、ラーハルトが魔族の血を引いているという理由だけで彼や人間の母は迫害され始めた。
「やがて母も病気で…俺の悲しみを解ってくれたのがバラン様…俺とまともに接してくれたのはエルダ様だった…」
ラーハルトは己の魔槍をヒュンケルに託し、最後にエルダの顔を見せてくれと頼んだ。
未だに気絶しているエルダをラーハルト傍に運び、彼は最後の力を振り絞って起き上がった。
「…エルダ」
彼女の頬に手を添えると、エルダの瞳がうっすらと開いた。
「ラー…ハルト…?」
その瞬間、ラーハルトは力一杯エルダを抱き締めた。
「最後に…お前に会えて…よかった…」
「…え?」
「エルダ…どうか…幸せ…に…」
エルダの背中を握っていたラーハルトの手が落ちた。
「いやあああーー!!」
.