本編
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実の父、バランによって引き裂かれたダイとエルダ。
バランはエルダを連れ、ベンガーナ王国の南端、アルゴ岬にある湖に辿り着いた。
エルダを地面に寝かせ、体力を回復する間、未だに気を失っている彼女を見た。
「エルダ…、目覚めた時には、昔のお前に…」
優しくエルダの頭を撫でるバラン、その表情はとても優しそうだった。
.
「…っ」
痛む頭に目を開け、ゆっくりと起き上がると、そこは思い出の湖。
エルダはまだ呆然とする中湖を覗き、そこに写る自分を見た。
「私…何で此処にいるんだろ…?」
考えるが頭が上手く回らず暫く呆然としていると、背後から声を駆けられた。
「エルダ」
呼ばれた自分の名に振り返り、呼んだ人物を見ると、それは自分の父だった。
「父…さん?」
「ようやく目が覚めたか」
「私…何をしていたの?何で、此処にいるの…?」
少しもバランに警戒しないエルダ。そんな彼女を見て、バランは少し笑いを零した。
バランは竜の紋章の共鳴で全エネルギーを集中し、思念波へと変えてダイとエルダの頭脳に送り込んだ。
結果、ダイは全ての記憶、エルダはアバンと旅を過ごした記憶を消去された。
その為ダイは何も覚えておらず、エルダは父やその他小数の者しか覚えていない。
呆然とバランを見続けるエルダに微笑み、バランは彼女の前にしゃがみ込んだ。
「お前はずっと眠っていたのだ」
「眠って…?」
「ソアラを亡くしたショックだ。お前は11年も眠っていたのだぞ」
“ソアラ”
その名前に、エルダの顔が少しずつ変化した。
「母…さんっ」
涙を零し俯くエルダに、バランは彼女の頭を撫で、顔を見た。
「エルダ、私はこれからディーノを迎えに行く。お前も共に来い」
「ディーノ…、見つかったの!?」
「ああ、今は人間達の元にいる」
「人間…、母さんを殺した人間の元に…っ」
人間という言葉に、エルダの表情は怒りに満ちていき、立ち上がるバランを見た。
「行くぞエルダ、ディーノを取り返しに」
「はい!」
前を歩くバランの後を、エルダは着いて行った。
バランの後を着いて暫く歩いていると、前方に三人の魔族がおり、エルダは思わずバランを見るが、彼は何も言わずに前を見据えていた。
「バラン様、その娘は?」
「私の娘だ」
図体の大きい魔族にそう答えると三人は驚き、その中の一人だけ、違う意味でエルダを見続けていた。
その視線に気付いたのか、エルダはそちらに寄ると、彼を直視した。
「…ラーハルト?」
不意に浮かんだ彼の名前、その言葉に彼、ラーハルトは目を見開き、エルダに頭を下げた。
「お久しぶりです、エルダ様」
「…うん」
小さく笑いながら言うエルダ。バランはそんな娘の様子にラーハルトを見た。
「ラーハルト、エルダの事はお前に任せる」
「はっ!承知致しました!」
ラーハルトはバランに頭を下げ、自分の竜にエルダを乗せようとした。
「…」
「エルダ様?」
エルダは竜を見ながら呆然とし、怯える事なくゆっくりとその竜を撫で始めた。
「お願いね」
移動の事を頼むと、竜はエルダの頬を舐めて擦り寄り、ラーハルトは彼女の手を取って竜に乗せた。
そして、バランの合図でテランに向かった。
テランに向かう途中、バラン達の行く手を阻む者が現れた。
「待てよてめえら…、ここから先は遠さねえ…!!」
岩山の上に現れたのは、ポップだった。
彼はバラン達を睨み付け、その中に紛れているエルダを見た。
それに一瞬拳を握り、後ろ手で杖を構えると身構えた。
ビュンッ
一瞬何が起こったのか分からなかった。
だがエルダが気が付いた時、自分を抱えていたのはラーハルトではなく、ポップだった。
「こいつは返してもらうぜ!」
バランに向かって勝ち誇ったように叫び、ポップは続けてバラン達を攻撃した。
「ベタンッ!!」
放たれた重圧呪文に竜達は段々と潰れていった。
「へへ…っ、エルダ、大丈夫だったか?」
抱えているエルダを見て、無事を確認しようとした時、ポップの表情が変わった。
エルダは、ポップの顔を見て怯えていた。
「エルダ…?」
「…い…や」
「え?」
「離してっ!!」
エルダはポップから離れようと暴れ出し、ポップは彼女を離さないようにしていたが、後ろから来た衝撃に彼女を離してしまった。
「エルダ!」
吹き飛ばされたポップはエルダの方を心配したが、彼女が地面に激突する事はなかった。
ガシッ
ポップに潰された竜達の下からラーハルトが抜け出し、寸前の所でエルダを受け止めた。
「ラ、ラーハルト…」
「エルダ様、お怪我はありませんか?」
ラーハルトの言葉にエルダは頭を縦に振り、涙を溜めて彼に抱き着いた。
「…た、こわ…かっ…た…っ」
「大丈夫です、もう大丈夫ですよ」
抱き着いたエルダを抱き返して慰めるラーハルト。
ガンダルディーの竜に叩き落とされた衝撃を堪えながら、ポップはエルダに叫んだ。
「…んだよ、どういう事だよエルダ!説明しろ!何で俺を」
「無駄だ」
叫ぶポップの言葉をバランは遮り、話し出した。
「エルダの記憶はディーノ同様消去した。今のエルダにお前達の記憶は残っていない」
「そんな…デタラメ言ってんじゃねえ!」
「エルダの行動が何よりの証拠だ」
その言葉に再びエルダを見るポップ。
エルダは未だにラーハルトに抱き着いており、ポップの視線に気付くとビクッと怯えた。
「バラン様、この場は我々にお任せを、すぐさま後を追いますゆえ」
「うむ、エルダを頼んだぞ」
バランはルーラでこの場を飛び去り、ラーハルトはエルダを下がらせた。
「エルダ様はこの場を動かぬように、あの人間を始末してまいります」
「ラーハルト…」
竜騎衆三人はポップを容赦なく倒し、倒れる彼を見ながらエルダは頭を抑えていた。
先程から頭が痛い。
少し力を抜けば体が勝手に彼の元に向かってしまう。
理由は分からない。
だが体が唸っていた。
彼を助けて、彼を殺さないで。
「何で…っ、何…でよ…!」
ポップはガンダルディーの竜に捕らえられ、今にもやられそうな勢いだった。
「何でよーー!!」
エルダの叫びは、やられそうになったポップが放ったベギラマに掻き消され、誰も聞く事はなかった。
愛竜を倒されたガンダルディーは狂ったようにポップをいたぶり、彼に止めを刺そうとした瞬間。
「駄目!!」
エルダがポップを庇う様に前に立ち、ガンダルディーの攻撃を受けた。
ズバッ!
「エルダっ!」
攻撃を正面から受けたエルダは倒れ、受け止めたポップを見た。
「…よかっ、た」
無意識に出た言葉と彼が無事な事に安心し、エルダは気絶した。
「チッ、邪魔しやがって。この娘本当にバラン様のガキか?人間を庇うなんてバカな事しやがって」
「ガンダルディー、失礼だぞ」
「今のは仕方ないだろう、急に飛び出して来たのだからな」
竜綺衆はエルダの行動を仕方ないと片付け、ガンダルディーは再びポップの首元に剣を付けた。
だがポップはエルダを支えたまま動けなかった。
「待たせたな小僧、今度こそ、楽にしてやるぜー!」
エルダは先程の攻撃で気絶、自分はもうボロボロ。今度こそ駄目だと目を強く潰った瞬間。
ドガッ
ガンダルディーの背が誰かに攻撃され、ポップは誰かに支えられた。
「大丈夫かポップ?」
「…ケッ!よりによって一番助けられたくねえ野郎に助けられちまったぜ…」
「そいつは悪い事をしたな…」
ポップを支えたのは、ヒュンケルだった。
倒れかけたポップを支えたのはヒュンケル。ポップはよろめきながら膝立ち、彼に礼を言った。
「ポップ、随分と実力に見合わぬ無茶をしたな。お前一人で敵を食い止めようとは…」
「や…やりたくてやったんじゃねーや…。ダイとエルダの記憶が…消されちまったんだよ、親父のバランによ…!!」
「…なら何故エルダは気絶しているんだ?しかも怪我をして…」
ポップの腕の中にいるエルダを見て、ヒュンケルは眉を少し動かした。
「俺が知りてえよ…、エルダは、俺の事は忘れて、覚えてない筈なのに俺を庇って…こんな傷…っ。バランはダイの所に行かれちまったし…!」
エルダを抱き締め、少し涙を流すポップ。そんな彼を見ながらヒュンケルは頭の中でこれまでのいきさつを整理した。
「そうか…、ならばこんな雑魚共に構っている暇はないな」
「なっ…なんだとおっ!?」
愚弄されたガンダルディーは怒り、剣をヒュンケルに向けた。
「なめやがって!てめえもそのガキと同じようにメッタメタに切り刻んでやるぜェ!!」
睨み付けるガンダルディーに、ヒュンケルはポップを見た。
「ポップ、こいつは貴様にくれてやる。やられた恨みを存分に晴らすんだな」
「て…っ、てめえ!本当に俺をなめてるのか!?そんなガキが俺と戦える訳ねぇだろうがッ!!てめえが戦えよッ!!」
「貴様は絶対にこいつに勝てん。もし万が一勝てたら俺が相手をしてやろう」
ヒュンケルの言葉に怒りが爆発したガンダルディーは飛び上がり、ポップを攻撃しようと構えた。
ポップはエルダをヒュンケルに預け、よろめきながらガンダルディーに向かった。
トベルーラで空中に飛び、ガンダルディーより上に上がると、ポップは次の構えを取った。
「こざかしい!空中で俺とやり合おうなどとはッ!!」
ガンダルディーが翼を開いた瞬間、片方の翼がちぎれた。
「なっ…、なにぃ!?」
「言った筈だ、貴様は勝てんと…。ブラッディースクライドを受けた以上ただではすまん」
翼が取れて動揺するガンダルディーを、ポップは見逃さなかった。
「残りの魔法力…全部てめえにくれてやらあッ!!」
イオ!!
ポップの放った呪文をもろに受け、ガンダルディーは倒されてしまった。
地上に堕ちたポップは荒い息を吐きながらヒュンケルの背中を見た。
「や…やったぜ…だけどよ…もう魔法力が空っぽだぁ…」
「お前にしてはよくやった…心配せずに、後はゆっくり休んでいろ」
一向にポップの方を見ずにヒュンケルは話す。
「へへっ…心配なんざしてねぇよ…お前は性格は悪いけど…強さだけはピカ一だからな…エルダを、頼むわ…」
ポップはそう言い残して気を失い、ヒュンケルは彼の傍にエルダを寝かせた。
本当に良くやったぞ、ポップ。
心の中で呟いて彼を見ていると、倒れたガンダルディーを見てボラホーンが何か叫んでいた。
「おのれ!よくもガンダルディーを…!ただでは済まさんざ!!」
「…ただでは済まさんだと?」
ボラホーンを睨み付け剣を向けると、ボラホーンの牙を剣圧で折った。
「うがあああーっ!!」
「ボラホーン!!」
ボラホーンを心配しつつヒュンケルを見ると、ラーハルトは彼が放っている凄まじい闘気に気が付いた。
「…それはこっちの台詞だ。貴様等がどこの馬の骨かは知らんが…、俺の弟弟子と妹弟子をいたぶってくれた礼はそんな程度では済まさんからな!」
ヒュンケルの瞳は、怒りを帯びていた。
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