中編
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ロックオンの告白が失敗してから早くも数週間が過ぎた。
何度も諦めずにリエに言い寄っているが、リエは必要最低限以外はロックオンと話す所か、目も合わせなかった。
そして今、ロックオンは地上に下りていたアレルヤと共に昼食を食べていた。
「解らねぇ、女は押したら落ちるもんだろ!?」
「ロックオン…」
「なのに何でリエは落ちねぇんだ?俺の何処が悪い!?」
「ロックオン、落ち着いて…」
珍しく暴走しそうなロックオンを止め、食事を再開した。
「誰か忘れられない人がいるんじゃないのかな?」
「それだ!」
ロックオンは持っていたスプーンをアレルヤに突き出した。
「え?」
「あいつの話からして、恋人がいた事は確かだ。が、そいつは何かの事情で死んだ」
「よく知ってるね…」
「あいつが言ってた言葉を並べると、そういう結論が出たんだよ」
「ふ~ん」
アレルヤより先に食事を終えたロックオンはスプーンを置き、怪しそうに笑った
「フフフフ…、恋人だか何だか知らないが…、このロックオン・ストラトスに狙い撃てなかった物はないんだよ!!」
立ち上がって言い放つなりロックオンは食堂を出て行った。
「リエも大変だな…」
「全くよ」
「ッ!?」
突然聞こえたリエの声にアレルヤは驚き、扉の方を見ると、そこにはリエが立っていた。
「リエ!いつの間に…」
「今しがた。ロックオンは私に気付かずコンテナに向かったわ」
「それじゃあすぐ戻って来るんじゃ…」
「大丈夫」
リエは中に入り、食事を持ってアレルヤの前の席に着きながら答えた。
「足止めを頼んだから」
「おいハロ!此処を開けろ!!」
ロックオンはコンテナ内でハロに向かって怒鳴っていた。
〔イヤダ。イヤダ。ハロタノマレタ。リエニタノマレタ。ロックオンヲダスナ。イワレタ〕
「お前、俺とリエのどっちの味方だよ!?」
〔イウコトキカナイトバラス。リエコワイ。ダカラハロシタガウ〕
「俺だってお前を壊せるんだぞ~?」
〔ロックオン、コワセテモナオセナイ。コワシテオコラレルノハロックオン〕
「ぐ…っ」
ハロは扉に鍵を掛け、リエが戻るまでロックオンを足止めしろと命令されていた。
「だから暫くロックオンはあそこから出られない」
「凄いね、リエ」
食事をゆっくりと食すリエの発言に、アレルヤは心中でロックオンにドンマイ。と呟いた。
「ああでもしないとあいつは直ぐに私の邪魔をするから」
「そんなに?」
「ええ。隙あらば迫って来るから」
ロックオンの事を思い出して嫌そうな顔をするリエにアレルヤはロックオンが言っていた事を質問した。
「ねぇ、リエ」
「何?」
「リエに恋人がいたって…本当?」
ピタ。
リエのスプーンを持っている手が止まった。
「…どうして?」
「あ、いや、ロックオンがそういう事言ってたから、もしかしたらいたのかな~って…」
顔を俯かせて黙るリエに、アレルヤはあたふたとした。
カチャ。
「恋人じゃ、ないわ…」
「え?」
ポツリと呟いたリエに、アレルヤは耳を疑った。
「あの人は恋人なんかじゃない。あの人は私の…」
アレルヤは僅かに喉を鳴らし、後に続く言葉を聞こうとした。
が。
「リエッ!!」
そこに、息を切らしたロックオンが現れた。
「ロ、ロックオン!?」
「お前~、俺を閉じ込めるとは、いい度胸…」
バシャッ!
「…リエ?」
リエは側にあった水を、ロックオンにぶっかけた。
「…だから嫌いなんだよ。お前が」
リエはそう言って立ち上がり、食堂を出て行った。
彼女の行動に暫く呆然としていたが、すぐにロックオンはアレルヤに言い寄った。
「アレルヤ!リエ何か言ってたか!?何て言ってたんだッ!?」
「聞いたけど、肝心な所はロックオンのせいで聞けなかったよ…」
「何!?くっそ~!早まったか…!」
一人後悔するロックオン。そんな彼にアレルヤは苦笑いしながら、先程のリエの状況を思い出していた。
『あの人は、私の…』
リエの想う謎の人物が、より深まった。
.
久しぶりにスメラギ達、トレミーのクルーが地上に下り、他のメンバーも、王留美の別荘で休息を取っていた。
「あ、リエー!」
街に出掛けようとしたリエを高い声が呼び止め、後ろを振り返ると、クリスティナと彼女に手を引かれるフェルトがこちらに走り寄って来た。
「クリスティナ。フェルト」
「ねぇ、あたし達これから買い物に行くけど、リエも行かない?」
「ハロ…」
クリスティナは行く気満々そうだが、フェルトは嫌そうな顔をしていた。
「私は別に用があるから、遠慮する」
「そうなの?じゃあフェルト、二人で行こ!」
「ハロといたい…」
「いいからいいから、じゃあリエ、行ってきますー!」
抗議を付けるフェルトを軽く聞き流し、クリスティナはフェルトの手を引いて出掛けて行った。
「さてと、私も行くか…」
一度時計を見た後、ゆっくりと歩き出し、ただ目的地に着く事だけを考えていると、横の道路に一台の車が止まった。
不思議に思っていると、暫くして窓が開き、中にいた人物を見て顔を引き攣らせた。
「ようお嬢さん、乗ってくかい?」
中にいたのは、ロックオンだった。
スタスタスタスタスタ。
「ちょっ、ちょちょちょちょちょい待てッ!!」
ロックオンを無視して早歩きするリエに、ロックオンは慌てて車で追い掛けた。
「逃げる事ないだろ?折角送ってやるって言ってんだから」
「結構です」
「そんな事言いなさんなって。さ、どうぞお姫様」
ロックオンは助手席の扉を開けてエスコートしたがリエは動じる事なく素通りした。
「おいリエッ!!」
数歩進んだ所でリエはやっと止まり、ロックオンの方を向く。
が…。
ゴゴゴゴゴゴゴ…。
明らかに怒り顔だった。
「折角の休暇。私は一人になりたいんだ…!これ以上邪魔をするなら、変質者として通報するわよ…!」
「変質者って、仮にも俺は仲間だぞ!?」
「仲間だろうと変質者は変質者だ」
「うっ…」
ジロリと睨んだ後に背中を向けたリエに、ロックオンは慌てて引き止めようとした。
「リエ!」
「折角の休暇を潰すな!」
怒鳴り付け、リエは歩き去り、諦めたロックオンは頭を掻いた。
「全く、強情だな」
リエの後ろ姿を見つめた後車に乗り込み、彼女とは反対報告に車を走らせた。
諦めたロックオンの車を一度見た後、リエはある場所に向かった。
.
一通り車を走らせた後、ロックオンは喫茶店に入り、ゆったりとコーヒーを飲んでいた。
「告白も失敗、誘いも断れた。他にどんな手があるってんだよ~…」
溜め息を付きながらコーヒーを啜ると、席を挟んだ反対側の方から見知った声を聞いた。
「まだ軍人を辞めていなかったのね」
「まぁな。お前は今何をしているんだ?エイデン」
(この声…リエか?でも、エイデンって…)
ロックオンは動き出そうとせず、会話に耳を傾けた。
「色々と…ね」
「戻って来る気はないのか?」
「……」
「…早いもんだよな。あいつが死んで、もう五年も絶つのか」
「…えぇ」
相手の男はカップを置き、目の前の女性を見た。
「あの事を、お前はあいつに話したのか?」
「いいえ、気付いたのは、あの人が亡くなった後だから」
「じゃあもう…」
「えぇ…気付いた時には遅かったわ」
「エイデン…」
「悪いけど、先に失礼するわ」
そう言って女性は立ち、ロックオンはちらりと女性を見た。
「っ!?」
その女性は、リエだった。
「私はもう、軍に戻る気はないわ。久しぶりに会えてよかった…ありがとう」
「ああ、元気でな」
リエは軽く笑って店を出て行き、ロックオンはコーヒーを飲み干した後、後を追うように店を出た。
.
王留美の別荘へと戻る途中また横の道路に車が止まりロックオンが顔を出した。
「乗れよ」
「……」
「無理にじゃねぇ。お前の好きなようにしろ」
珍しく深追いしないロックオンに、僅かに目を見開き考えた後、リエは助手席に乗り込んだ。
海沿いの道を走る車を運転するロックオンと、呆然と海を眺めるリエ。
その途中、ロックオンはぽつりと呟き出した。
「俺はこれから独り言を言うが、黙って聞き流してくれ」
「…どうして?」
「言ったろ?独り言だって」
そして、彼は語り出した。
自分の両親と妹をテロで亡くした事。
そのテロの組織を廃除すべく、ソレスタルビーイングに入った事。
全て守秘義務である事を、ロックオンはリエに語った。
語り終わり、暫く二人は黙ったままだったが、今度はリエがゆっくりと話し出した。
「…ある女の子がいました」
「え?」
「女の子は軍人になりたくて、親の反対を押し切って軍に入ろうとしました」
相変わらず海を眺めるリエに、ロックオンは何も言わずに聞いた。
「すると女の子の親は彼女を勘当する、家から追い出すと脅しました。女の子はそれを受け入れ軍に入り、着々と地位を上げていきました」
リエの脳裏には、当時の思い出が蘇っていた。
「ある日女の子はある男の子と出会いました。女の子と男の子は直ぐに意気投合し、名コンビと言える程のチームでした」
敬礼し、握手を交わした二人。
「女の子は男の子から大切な物を貰い、これからもずっと一緒にいようと誓いました。でも、暫くして、二人はある地域に派遣されました」
思い出す。巻き上がる砂。鳴り響く地響き。
歳ほどにも行かぬ少年兵。
「二人はこの地を生き残り必ず誓いを果たそうと約束しました。でも」
「女の子は、大切な物を二つ無くしました」
いつの間にか街の風景が変わったが、リエは構わず外を見続けた。
「女の子の誓いは守られず、大切な物を無くした彼女は軍を辞めました」
「着いたぜ…」
王留美の別荘に戻り、ロックオンは車を止め、リエを見た。
「ロックオン、貴方はどう思う?」
「え?」
「大切な物を無くした女の子は、幸せになれると思う?」
そう言って車を下りて中に入るリエを、ロックオンも下りて問い掛けた。
「その女の子の!…無くした物は、戻る事はないのか?」
リエの背中に叫ぶロックオン。そして暫くした後、リエは振り返った。
「永久にないわ」
彼女の表情は、今にも泣きそうな顔だった。
それだけ告げ、リエは別荘内に入り、ロックオンは何も言えない悔しさに俯いた
.
怠い
スメラギ達の休暇の最中、近々大きなミッションが行われると聞いたリエは、一人離島に戻り、ガンダムの整備を行っていた。
だが、作業途中に何やら頭が朦朧とし、体も怠いと感じ、何となく熱を計ってみると、案の定風邪を引いていた。
しかしまだ整備は終わっていないし、寝込む程でもない。
リエは早く作業を終わらせようと手を進めた。
リエが一人離島に戻った事を聞いたロックオンは、エージェントに離島まで送ってもらい、彼女がいるコンテナに向かった。
彼女とは前の休暇の時、車で話して以来一度も会っていない。
リエは宛がわれた部屋に篭り、ロックオンも出掛けていたせいもあったが。
「リエー?」
コンテナに到着し、辺りを見回してリエを探す。だが姿はない。
「リエー?いないのかー?」
奥の方に進みながら辺りをキョロキョロしていると、何やら工具が散らばっている所があった。
不思議に思ってそちらの方に歩み寄ると、誰かの手が見えた。
「っ、リエ…!?」
駆け出して倒れている人物を見ると、それはリエだった。
「おいリエ!しっかりしろッ!!」
抱き上げて大声を上げながら揺らすと、リエはゆっくりと目を覚まし、ロックオンを見た。
「ロック…オン…?」
「お前、どうしたんだ一体?」
「…ぇ…」
「え、じゃねえ!どうして倒れてたんだ!?」
「…怠かった…だけ…」
「…は?」
「ただの、熱…整備だけでも、終わらせて…ホッとして…ダウンした…」
倒れた理由を聞いた途端、ロックオンはハア~、と溜め息を付き、急にリエをおぶった。
「…何?」
「何じゃねぇよ。病人は大人しく寝てればいいんだよ」
ロックオンはリエをおぶったまま、コンテナを出た。
「お前頑張り過ぎだぞ。少しは休もうとか考えろよ」
「私以外に…整備士がいないからだ…」
「おやっさんを呼べばいいだろ?そう息を詰めなさんな」
「…煩い…」
「病人に言われても説得力ねぇぞ。いいから寝ろ。部屋に運んどいてやるから」
「……」
「リエ?」
返事のない事に首を動かしてリエを見ると、彼女は既に寝息を立てていた。
「全く、勝手気ままな奴だ」
なるべくリエを起こさないように移動し、彼女の部屋に入り、ベッドに横にした
「にしても…」
初めて入るリエの部屋。
目に付く物といえば、机に置かれた端末と、下に置かれている色々な種類の工具
流石整備士というだけはあった。
「なんか、想像してた部屋とは限りなく遠いな」
余り想像はしていなかったが、ロックオンはここまで工具があるとは思わなかった。
「さてと、薬やら何やら取りに行きますか」
立ち上がり、部屋を出ようとしたロックオンに、僅かな声が聞こえた。
「…ッ…、…」
「リエ?」
寝言のような呻き声に側に寄ると、リエは僅かな涙を流していた。
何を言っているのか耳を口元に寄せると、以外な事を口にした。
「私の…―――…」
「ッ、」
その言葉にロックオンはさっとリエから離れ、逃げるように部屋を出た。
部屋を出て少し歩いた所で足を止め、ロックオンは壁に寄り掛かった。
「…マジかよ」
目元に手を当てて苦笑いするロックオン。
そのままずるずると床に座り、うなだれた。
「ヤベェな…俺、自信無くしてきた…」
「まさかリエが…――してたなんてな…」
ロックオンの呟きは誰にも聞こえる事なく、勿論、リエにも聞かれる事はなかった。
.