短編
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あの時。刹那に名を呼ばれて目覚める前、意識共有の中で彼と対話した。
「―――ヒカル」
名を呼ばれて振り向くと、刹那が立っていた。
「刹那…。ELSは、対話はどうなったの?」
「終わった。ELSの真意を、俺は知った」
「…よかった。じゃあ、トレミーに帰れるのね?」
そう言うと、刹那は顔を俯かせた。
「…刹那?」
「俺はELSと対話した。だが、それだけでは駄目だ」
「え?」
「俺は…いや、俺達はわかり合う必要がある。その為に、俺はELSの母星に行く」
「ELSの、母星…」
「いつ戻れるか解らない。もしかしたら、一生戻れないかもしれない。だから…」
顔を上げ、真っ直ぐヒカルを見た。
「お別れだ、ヒカル…」
ヒカルは目を見開いた。
「お前やソラを置いて行きたくはない。だが、これは俺にしか出来ない事だ。ELSと対話した俺にしか…」
何も言えず、ただ刹那の話を聞いていた。
「だから…俺の事は忘れて、幸せに…」
「刹那」
すると、ヒカルが言葉を遮って名前を呼んだ。
「初めて会った時、どうして私を助けたか解らないって言ってたよね?」
「…ああ」
初めて会った時。自国は紛争で混乱しており、自分の事で手一杯にも関わらず、刹那はヒカルを助けてくれた。
「あの時刹那が助けてくれたから、今の私がいる。CBの皆に会えたのも、ソラを産めた事も、全部刹那のお陰」
最初はやっていけるか不安だった。
でも年月をかけて話し語り、いつしか家族の様な関係になった。
戦争根絶の為、辛い事も悲しい事も沢山あった。
その計画を達成させ、大切な貴方との間に新しい命も産まれた。
そっと刹那に寄り、頬に手を伸ばした。
「だから、今度はELSを救ってあげて」
「ヒカル…」
「私を助けてくれた様に、ELSを助けてあげて」
そのままの体勢で優しく笑った。
「待ってるから」
「っ、」
「刹那が胸を張って帰ってくるまで、私はいつまでも待ってるから」
「ヒカル…」
二人は同時に口付けをし、額を合わせあった。
「いってらっしゃい」
「…いってくる」
辺りが白く光り、最後に見た刹那は笑っていた。
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2364年
宇宙では50年前にかつて敵であった金属花を大地に見立てて新しい宇宙船艦が作られていた。
『ご覧下さい。地球連邦が誇る、最新鋭外宇宙航行艦【スメラギ】の雄姿を!』
艦の周りには昔とは圧倒的に発達したMSが着々と作業を進め、艦の名前はかつてCBの戦術予報士の名前が使われていた。
『数時間後、この船は外宇宙へ向け、長い長い航海に旅立つのです』
船内でも船員達がそれぞれ自分の仕事をしていた。
『乗組員は長い航海に耐えられるよう、全てイノベイターで構成されています』
『全人類の4割がイノベイターとなった今、様々な問題をクリアし、我々はついにこの時を迎えたのです』
その中で指示をする艦長らしき女性は、かつてはELSに襲われ、無事に生還を果たした少女だった。
『私も、専従特派員としてこの船と共に航海に出発いたします。そして、出来る限り情報を皆様にお届けいたします』
リポーターの男性も同じ宇宙服に身を包み、カメラに向けて実況を続けていた。
『それではここで、1200人の乗組員を統括する……』
「―――うん。どこもこの話題ばっかりよ」
広野にひっそりと建つ家。
その家のリビングにある椅子に座っている一人の女性。
テレビから流れる声を聞きながら、女性はある人物と通信電話をしていた。
「それより、もうすぐ出発なのに通信してて大丈夫なの?」
【大丈夫だよ。俺の仕事は航海が始まってからだから】
女性が座る側の棚にはいくつもの写真が置かれていた。
活動が始まる前の全員が並ぶ物や、マイスターだけの写真。
クルー達やハロ達、ヴァスティ親子やアレルヤとマリー。指で銃の構えをするロックオン。
少年時代と青年時代、それぞれの刹那と並ぶ写真や、数少ない家族三人でいる写真。
色々な事を学び笑う少年と青年の写真など様々だった。
通信機を持つ女性はヒカル、相手は【スメラギ】の艦に配属された立派に成長した息子のソラだった。
「何が待ってるか、私も楽しみだわ」
【俺も。外宇宙に行くのは、皆の願いでもあったからな】
既にCBは解体され、唯一残ったソラは別の形で彼等の願いを遂行しようとしている。
「ソラも気を付けてね。いくら慣れてるとはいっても油断は禁物よ」
【解ってるよ。母さんも、体には気を付けろよ】
【ソラ。そろそろ時間だ】
新たな声にソラはそちらを向くと、レティシアが立っていた。
彼は刹那のサポートをするティエリア代わりに、地球圏に残した彼の記憶をコピーしたイノベイド。
ガンダムマイスターとなり、今回ソラと共に【スメラギ】の乗組員となった。
【今行く。じゃあ母さん、また連絡するね】
「ええ、頑張ってね」
息子との通信を終えたヒカルは立ち上がり、黄色い花で埋め尽くされた庭に出た。
そこから宇宙に浮かぶ金属花を見上げ、ヒカルはぽつりと呟いた。
「刹那、ソラは立派に育ったよ。貴方に似て強く優しい人に…」
刹那がいなくなり、ソラを育てられるか不安だった。だがトレミーの皆のサポートもあり、ソラを立派に送り出せるまで成長させた。
「ソラが向かう先に、貴方はいるのかな…」
そう言うと、突然の突風に花が舞い上がり、慌てて髪やスカートを押さえた。
「―――ヒカル」
その時聞こえた声。
この50年間一度も聞く事のなかった。
愛しい、一番聞きたかった声。
その方向に向き、口元を覆った。
「遅くなってすまない。だが、やっと帰って来られた」
懐かしいパイロットスーツ、体は金属に近いものだったが、正しく彼だった。
刹那・F・セイエイ
「刹那…っ」
溢れ出す涙を拭う事を忘れ、彼に抱き付いた。
「おかえりなさい…っ」
「ただいま」
話したい事が沢山ある。
伝えたい事が沢山ある。
だが今は、貴方を感じさせて。
抱き合う二人の遥か後方には、役目を終えたダブルオークアンタが花と一体化した。
─FIN─
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