短編
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【その名、ELS】
待機室に集まるロックオンとアレルヤ、マリーは謎の機体のパイロットの正体を確める為、じっとその人物を見ていた。
ヘルメットを取った人物は、自分達が思っていた人物、ティエリア・アーデだった。
「ティエリア」
「どうして…」
「イノベイドである僕は、意識データを生体端末に移す事が出来る。しかし、再会を喜んでいる暇はないようだ」
そう言ってティエリアは、椅子に座る刹那を見た。
「刹那、なぜELS(エルス)を攻撃しなかった?」
「ELS?」
「連邦政府が異生体を、ELSと呼称している。刹那、ELSを攻撃しなかった理由を言え」
「……解らない」
数秒の沈黙の後に、刹那は小さく答えた。
「解らないって、お前」
「やはり、イノベイターとしての直感がそうさせたようだな」
解っていた様な口振りに、刹那はティエリアを見上げた。
「ヴェーダの情報を駆使しても、ELSの行動目的を図れずにいる。だが、君は彼らから何かを感じ、無意識に反応した。つまり…ELSには意思があるという事だ」
刹那の表情が固まり、言葉に詰まる。何も話さない彼に黙っていると扉が開き、ヒカルが入室して来た。
「刹那、皆!」
「ヒカル…」
皆を見回して怪我がない事を確認して安堵し、ヒカルはティエリアを見た。
「ティエリア…」
「その様子だと、君とソラも感じたようだな」
その発言にロックオン達は驚き、ヒカルはソラを抱く力を強めた。
「前に感じた時はただ何かを叫んでいる様にしか感じなかった。でもさっきのは違う…」
不安気なヒカルに、ソラは静かに泣き出した。
「ソラはあの異生体が怖いって、さっき脳量子派で伝えながら怯えてて…」
不安を隠しきれないヒカルにマリーは側に寄って慰め、ティエリアはヘルメットを置いて別の物を持ち上げた。
「ヒカル」
「え?」
ティエリアが持っていたのは、ソラが入る位の小さなカプセルだった。
「脳量子派遮断カプセルだ。この中にソラを」
「ティエリア…」
「完全に異生体…ELSからの影響は防げないだろうが、入れておいた方がいいだろう」
渡されたカプセル。それをじっと見ていると、ソラの小さな手がヒカルの頬に伸ばされた。
「ありがとう、ティエリア…」
ソラと顔を寄せ合い、静かに泣くヒカルの頭を撫でるティエリア。その光景を見ながら、刹那は自分がどうするべきか考えていた。
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「異生体、ELSの来訪…」
ブリッジに集まったクルー達。その内容はティエリアからもたらされたELSの情報と今後の対応についてだ。
「これが、イオリアの爺さんが言ってた来るべき対話ってやつか」
「計画にあった来るべき対話は人類が宇宙に進出してからの事だ。数世紀先だと思っていた事が、よもや今起ころうとは…」
「そんな…人類側の準備は殆ど出来ていないというのに…」
「現実に起こっちまったんだ、戦うしかねぇだろ」
アレルヤの意見にロックオンが声を出し、ラッセもそれに同意した。
「俺もその意見に賛成だ。現にこっちは被害を受けてる」
「その考えは迂闊すぎます」
「そうだよ。ELSが僕らの事を解ってないから起きた事かもしれない」
反論するアレルヤとマリー、スメラギはやり取りを聞きながら考え込み、フェルトは沈黙を続ける刹那に問い掛けた。
「刹那はどう思う?」
その声に、全員が刹那を見た。
「刹那は、どう思う…」
「…解らない」
もう一度聞き出すフェルトに、刹那は小さく答えた。
「本当に解らないんだ」
ブーツの音を小さく響かせ、「すまない」とだけ言い残し、刹那はブリッジを出て行った。
「彼は何かを感じている」
「解っているわ」
「ヴェーダの情報にあった、ダブルオークアンタの状況は?」
「イアン達が急ピッチで建造中よ」
「刹那が望んだその機体が、切り札になるかもしれない」
「っ、まさかELSと…」
「貴方だって、考えていた筈だ」
「刹那に、頼りすぎよ…」
自分達が感じ取れない何かを刹那は感じている。だが今の彼には家族が、ヒカルとソラがいる。
スメラギはソラを抱いているヒカルに目を向けた。
「とにかく、皆は今の内に休んでおいて。ヒカル」
「あ、はい」
「貴方には話があるから残ってちょうだい」
スメラギは他のマイスターとマリーに休むよう言い、残ったヒカルに真剣な表情を向けた。
「何の話か、予想は付いているでしょう?」
「…ソラの事、ですよね」
「ええ…恐らくこの先厳しい戦いが待ってる、そんな所にソラを置いておくのは危険よ」
ヒカルは無意識に、ソラを抱く力を強めた。
「イアン達が合流した時、ソラをラボに預けなさい」
「スメラギさん!」
ヒカルの横に立ち、話を聞いていたフェルトは声を上げるが、スメラギは引かなかった。
「これはソラの為なのよ、この子を危険な目に合わせたくないでしょう?」
「でも、ヒカルと離れるなんて…」
「フェルト」
粘り続くフェルトの肩に、ヒカルの手が乗った。
「ありがとう、もういいよ」
「ヒカル…」
「何となく解ってたから、それにソラもELSに何かを感じて怖がってる。此処よりラボの方が安全だよ」
「もって事は…、ヒカルも?」
「うん…。さっきティエリアが脳量子波遮断カプセルをくれたの。それにソラを入れればELSを感じないから」
腕の中で安心して眠るソラ、ヒカルは頭を撫でながらフェルトに笑い返した。
「一生会えない訳じゃないんだもん、大丈夫よ」
「ヒカル…」
部屋にソラを置いてくるとブリッジを出ようと足を進めた。
その時
キイイイィィィ!!
「ッ!」
「うわあああんっ!!」
突如頭に響いた叫びにヒカルは膝を付き、ソラは泣き出した。
「ヒカル!ソラ!」
崩れ落ちるヒカルをスメラギは支え、泣き叫ぶソラをミレイナが抱えた。
「どうしたの!?」
「な、に…これ…っ」
「ヒカル…っ」
違和感に耐えるヒカルの姿を見ていると、モニターから警報が流れた。
フェルトは座席に座ってコンソールに指を走らせ警報の正体を映し出した。
木星に空いた巨大な穴に近くの小惑星が吸い込まれ、その穴から放出された雲から現れたELSの大軍。
その映像に皆は言葉を失った。
「ELSの!」
慌てた様子で入って来た刹那は一度ヒカルを見た後、再び用件を伝えた。
「ELSの地球圏到達までの時間を出してくれ!」
「刹那…」
「早く!」
急がされたフェルトはコンソールを素早く打ち、画面に出た数字に息を飲んだ。
「地球圏到達まで、95日!」
「たった3ヶ月…これが来るべき対話に与えられた時間なの…」
「行こう!」
ヒカルを起き上がらせながら言う刹那に、皆の意見がまとまった。
「そうだな、ここでこうしていても何も始まらねぇ」
「ああ!」
トレミーは木星向けて航行を開始した。
あの後、ヒカルはソラを抱え直し、刹那に支えられて部屋に戻った。
ソラを脳量遮断カプセルに入れ、ベッドに腰掛けたまま何かを考えていた。
「ヒカル?」
それに気付いた刹那は横に座った。
「どうした?まだ何か」
「…刹那」
一度顔を見た後、手を強く握った。
「前に、私がパソコンの情報を見せたくなくて隠した事があったよね」
「…ああ」
立ち上がってデスクにあるパソコンを開き、それを刹那に見せた。
「―――っ、お前」
「…ごめんなさい」
再び手を握りながら続けた。
「分かってる、反対されるって。でも、もうじっとしてはいられないの」
ベッドに置いたカプセルの中で眠るソラを見た。
「ソラを、皆を護りたいの」
揺るぎない瞳を見せるヒカルに、刹那はそっと肩に手を乗せた。
「もういい」
引き寄せて抱き締めながら続けた。
「もう、何も言うな」
強く抱き締められ、ヒカルの目からは涙が零れた。
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