短編
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最初は信じられなかった。
何故ヴェーダはあんな女をマイスターに選んだのか。
だが、ヴェーダの意見は絶対。
だから俺は、彼女が大きなミスや間違いを起こした時には、即刻マイスターから下ろす事を決めた。
しかし、彼女は俺の想像を遥かに上回っていた。
有り得ない程の技術力と、ガンダムを操る戦闘力。
どれもマイスターに相応しい力だった。
「ヒカル・エトワール」
「あ、ティエリア…」
レクサスを整備していたヒカルの元に向かい、早急に用件を伝えた。
「次の模擬戦は俺とする事になった。君は全力で俺に向かって来るんだ、死にたくなければ」
吐き捨てるように告げ、俺は彼女の顔を見ずにその場を去った。
いくらマイスターに相応しい力を持っていても、俺はまだ、彼女を認めた訳ではなかった。
ヴァーチェに乗り込み、発進の指示を待っていると、ブリッジにいるスメラギから通信が入った。
「何ですか?スメラギ・李・ノリエガ」
『ティエリア、悪いけど模擬戦相手を変えるわね』
「何故です?ヒカル・エトワールはどうしたんですか?」
『ちょっと出られない理由が出来たの。変わりにキュリオスと相手をお願い』
「…解りました」
渋々了解を入れるとスメラギは通信を切り、ヴァーチェは宇宙に放たれた。
数分後、模擬戦を終えてトレミーに着艦すると、直ぐさまレクサスが配置されているコンテナに向かった。
「ヒカル・エトワール!」
「…ティエリア」
「どういう事だ!?何故模擬戦を放棄した!?」
レクサスを眺めていたヒカルの姿を発見するや否や、直ぐに内容を告げた。
「これは俺達ガンダムマイスターの義務でもあるんだ!それなのに放棄するなど君はマイスターとしての自覚が…」
バタッ!
ティエリアが話している途中に、何か倒れる音が聞こえ、閉じていた目を開けると、目の前にいたヒカルが倒れていた。
「ヒカル・エトワール!」
ティエリアは直ぐに彼女を抱き起こし、何があったのが聞こうとした時、彼女の異変に気が付いた。
「熱い…」
彼女は驚くべき程の熱を持っており、よく見ると顔色や息も荒い。
「ティエリア!ヒカル見掛けなか…ヒカル!!」
コンテナにロックオンが入室し、ティエリアと彼に抱えられてぐったりしていたヒカルに目を見開いた。
「この馬鹿!なんて無茶するんだよ!?」
「ロックオン・ストラトス…貴方は彼女の様子を知っていたのか?」
「ついさっきな、朝から少し様子がおかしいと思っていたが、まさかここまでとは…」
ロックオンはヒカルを抱え直すと、ティエリアに声を掛け、医務室に向かった。
医師によると、過労と睡眠不足により熱が出たのだと言われ、ロックオンはヒカルを部屋まで運び、ベットに寝かせた。
「ヒカルの奴、熱があるのに模擬戦に出ようとしててな、たまたま見掛けた俺がミス・スメラギに話してアレルヤに変わってもらったんだ」
「しかし、彼女は熱の事など…」
「隠し通すつもりだったらしいぜ。刹那に聞いたら、こいつはそういう事は絶対に話さないって言ってたからな」
ティエリアはロックオンから視線を外し、眠っているヒカルを見た。
「過労は極限状態までやっていた訓練。睡眠不足はレクサスの整備の為だ」
「な…っ」
「ヒカルだって解ってるんだよ。確かに自分はガンダムマイスターに選ばれたが俺達とは明らかに力の差が違いすぎる…。だから足手まといにならないように、無理な行動を続けたらしい」
ロックオンはそう言い、部屋を出ようと扉の方に足を進めた。
「コンテナにいたのは、おそらくお前に謝る為だろうな」
「俺に…?」
「急に模擬戦相手を変えてごめんなさい。大方そんな事だろう」
そう告げ、ロックオンは部屋を退出した。
ティエリアはロックオンが出て行った扉を暫く見た後ヒカルに視線を移した。
「…馬鹿が」
小さく呟き、ヒカルの額に濡れたタオルを置いた。
翌日、ヴァーチェ専用のコンテナから機体を眺めていると、ヒカルが慌ただしい様子で入室してきた。
「ティエリア!」
「ヒカル・エトワール…」
ヒカルは白のキャミワンピースにカーディガンを羽織り、少し息を荒くしながらティエリアに寄った。
「昨日はごめんなさい。勝手に訓練放棄しちゃったり謝ろうとしたら逆に倒れちゃったり…」
「全くだ。自分の体調管理も出来ないのに、ガンダムに乗ろうとするとは」
「ごめんなさい…」
俯くヒカルにティエリアは視線を彼女から機体に移し、小さく呟いた。
「君には力がある」
「え…?」
唐突に言われた言葉に、ヒカルは顔を上げてティエリアを見た。
「ガンダムを操る力と高い技術力。確かに俺達とは力の差が違いすぎるが、君には君の力がある」
「ティエリア…」
「それを十分に生かせ
ヒカル」
自分を真っ直ぐ見詰める瞳と、初めて呼び捨てで呼んだ事に、ヒカルは目を見開いた。
「ありがとう…ティエリア」
御礼の言葉を掛けると、ティエリアはまた機体の方を向き、そのままヒカルに告げた。
「まだ本調子ではないのだろう?さっさと部屋に戻って休め」
「うん。治ったら、必ずティエリアと模擬戦するからね」
ニッコリと笑い、ヒカルはゆっくりとコンテナから出て自室に向かった。
そしてティエリアは、ヒカルが出て行った扉を見て、小さく笑った。
この日からヒカルは、ティエリアにフルネームで呼ばれる事はなくなった。
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