戦国BASARA
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奥州へ続く道を、馬に乗った一人の男子が進んでいた。派手な格好に大刀を背負い、小猿を連れた男。
前田慶次事、“前田の風来坊”。
「もうすぐ奥州だぞ、夢吉」
「キキッ」
「最近暑くなってきたからな~、涼むには丁度いいや」
慶次は肩に乗る小猿の夢吉に話し掛けながら、奥州の領地に入って行った。
その頃、奥州では戦から戻った伊達軍兵達が、剣の手入れをしたり休息をとるなど穏やかな時を過ごしていた。
だが、それとは対象に、大将である政宗は何故か。
暴れていた。
「ギャーッ!筆頭!!」
「何してるんですか!?落ち着いて下せぇ!」
「おめぇ等人集めろ!筆頭をお止めするんだ!」
「ギャーギャーとうるせぇッ!誰でもいいから片っ端から掛かってきやがれッ!!」
刀を持って暴れる政宗を兵達は止めようと体を抑えるが、政宗はそれを払い飛ばして兵達はバタバタと倒れた。
「…何の騒ぎですか?」
「あっ、姐さん!」
騒ぎを聞き付けて現れた紫苑に、兵達はわっ!と集まって来た。
「姐さん!助けて下せぇ!」
「今回の敵の大将が腰抜けな野郎で、筆頭思う存分やれなくて苛立ってるんすよ!」
「お願いします姐さん!筆頭を止めて下さい!」
「…おい、テメェ等」
「「「「ひぃッ!!」」」」
必死に助けを求める兵達にどす黒い声が掛かり、兵達は紫苑の後ろに隠れた。
「女に助けを求めるたあ、随分と腰抜けになったもんだな…アア゛!?」
「「「「ひいぃぃッ!!」」」」
政宗の不機嫌な雰囲気と鋭い左目に、兵達は震え上がった。
「まあまあ政宗様、とりあえず落ち着いて下さい」
「Ah?だったらテメェが代わりに相手をするか?紫苑」
以外な一言に、紫苑は思わず目を丸くした。
「構いませんが…」
「な!?姐さん!」
「何言ってるんすか!?」
「姐さんが相手したら一たまりもないっすよ!」
「そうっすよ!姐さんが怪我しますぜ!」
必死に止めに入る兵達の言葉を流し、紫苑は政宗にニッコリと笑って。
「政宗様が私の代わりに薬を調合して頂けますか?」
「…小十郎呼んで来い」
「承知致しました」
短く命じた事に紫苑は一礼して鍛練場を放れ、その無駄のない行動に兵達は口をポカンとしながら見ていた。
紫苑が鍛練場を出て暫くするとまた騒がしい音が聞こえ、紫苑は笑いながら小十郎を探しに向かった。
その頃、小十郎は。
「何の用だ?前田慶次」
門前で腕組みしながら、小十郎は目の前にいる慶次を睨んでいた。
「そんな怖い顔すんなよ竜の右目、ただ涼みに来ただけなんだ「帰れ」
慶次の言葉を最後まで聞かず、小十郎はスッパリと断った。
「そんな寂しい事言うなって、数日だけでいいから居させてくれよ、な?」
頑なに粘る慶次に小十郎はもう一度帰れと言いかけた時、背後から名を呼ばれて振り返った。
「紫苑」
「こちらにいらっしゃいましたか、政宗様が…あら、お客様ですか?」
「客じゃねぇ、こいつは「お!綺麗な姉ちゃんがいるじゃねーか!」お、おい!」
紫苑の出現に、慶次は小十郎の横を摺り抜け、紫苑の手を取った。
「俺は前田慶次、こいつは夢吉、よろしくな、綺麗な姉ちゃん」
「前田様…ですか、私は紫苑と申します。どうぞよしなに」
「んな硬っ苦しいのは無しだぜ!それより、伊達にこんな別嬪さんがいるとは、何で黙ってたんだよ竜の右目!」
そう言って慶次が振り返った瞬間、小十郎は二人の間に入って紫苑を自分の背後にやった。
「テメェがそうやってちょっかい出すのが目に見えてるからだ」
鋭い目付きで睨む小十郎に慶次は苦笑いし、紫苑は黙って会話を聞いていた。
「ところで紫苑、用は何だ?」
「はい、政宗様がお待ちです」
「政宗様が?」
「皆さんが言うには戦で暴れたりなくてその鬱憤を今晴らしていますが…」
「全くあの方は…解った、直ぐに行「なあ、竜の右目!」…前田慶次、テメェまだいやがったのか」
紫苑との会話に乱入して来た慶次に、小十郎は苛立ちを見せた。
「なんなら、俺が独眼竜の相手をしようか?」
「何?」
「俺は戦は嫌いだが喧嘩は大好きなんでね、て事で紫苑ちゃん、独眼竜の所まで案内してくんねーか?」
「え、あの…小十郎様」
急に話を振られて焦った紫苑は小十郎に問い掛けると、小十郎は深い溜め息を付いた。
「…状況を見てから判断する。一緒に来い」
「お、ありがてぇー!」
「キキィッ!」
小十郎の了承を得た慶次も加わり、紫苑は二人を政宗の元に案内した。
「こちらです」
鍛練場に着き、中に入ると、殆どの兵が倒れており、紫苑と小十郎は呆れ、慶次は「あちゃー」と言いながら頬を掻いた。
「遅ぇぞ紫苑、何やって…」
鍛練場で唯一立っていた政宗が戸に目を向け、慶次がいる事に小十郎を見た。
「小十郎、何でお祭り男が此処にいる?」
「城に泊めろと押しかけて来たのですが、政宗様のお相手をしたいと申したので連れて参りました」
「Ha!上等じゃねーか、相手になれ、お祭り男」
「あ、いや、俺やっぱり遠慮して…」
そう言って逃げようとする慶次を、紫苑が止めた。
「前田様」
「え?」
「男ならば、一度申した事はきちんと果たすべきです」
紫苑は慶次の背を押して政宗の前に立たせ、小十郎と共に倒れた兵達を外に出した。
「では政宗様、ご存分に」
「夢吉君は私が預かっておきますので。失礼致しました」
二人は頭を下げて退出し、政宗は慶次に刀を向けた。
「覚悟はいいか?色男」
「仕方ねーな。ま、一丁やりますか」
意地悪そうに笑った政宗に慶次も大刀を構え、二人は刃を交え始めた。
「全く、政宗様も仕方のないお方だ」
小十郎と紫苑は、政宗に倒された兵達を介抱した後、共に夕餉の支度をしながら話していた。
「でも、前田様がいらしてくれて助かりましたね」
「成り行きだがな、だが、また暫く畑には行けそうにねぇな」
畑の事を思って残念そうにする小十郎を見ながら紫苑は笑い、肩に乗る夢吉を見た。
「夢吉君、貴方の御主人様は面白い方なのね」
「キィ!」
夢吉に話し掛けながら、紫苑は米を少し夢吉に分け与えた。
そして夕餉の席では、気分が晴れた政宗と、飯をたらふく食べる慶次の姿が見られた。
.
慶次が奥州に滞在して数日、政宗や小十郎は直ぐにでも追い出したかったが、連日激しい雨が降り続き、仕方なく滞在させていた。
「今日も凄い雨だな~、夢吉」
「キィ」
縁側に座り、慶次と夢吉は降り続く雨をただ呆然と眺めていた。
すると、急に夢吉が何かに気付いたように駆け出した。
「おい、夢吉!…ん?」
夢吉が走った先を見ると、お盆を持った紫苑が立っていた。
「こんにちは、夢吉君」
「キキッ」
挨拶をした紫苑の肩に夢吉は乗り、紫苑は慶次の隣に腰掛けた。
「前田様、宜しかったら私とお茶をご一緒しませんか?」
「おっ、するする!紫苑ちゃんとならいつでも大歓迎だぜ!」
慶次の言葉に紫苑はお盆に乗せていたお茶とお団子を慶次に渡した。
「それにしても、凄い雨ですね」
「まあな。でも、俺は感謝してるぜ、お陰で紫苑ちゃんとお茶出来るし」
「キ!」
団子を頬張りながら笑う慶次に、紫苑は膝に移った夢吉に団子を分け与えた。
「前田様は、奥州を発った後にはどちらに参りますの?」
「そうだな~、そろそろ帰んねぇとまつ姉ちゃんが五月蝿いからな、一旦帰るかな」
「まつ姉ちゃん…お姉様ですか?」
「いや、俺の叔父の嫁さん。まあ俺にとっては姉ちゃんと代わんねぇけどな」
まつの事を考えて笑う慶次に、紫苑は優しい眼差しを送った。
「前田様は、ご家族の方を大切に思っているのですね」
「まあな~、そういう紫苑ちゃんはどうなんだ?」
「え?」
「紫苑ちゃんの家族は、奥州に住んでるのか?」
聞いた途端、紫苑は膝にいた夢吉を見た後、大雨の空を見上げた。
「私の家族は、戦で亡くなりました」
「あ…ごめんな、嫌な事思い出させて…」
「いいえ、今の時代、珍しい事ではありませんから。それに、私には別の家族がいましたから」
空から視線を落とし、夢吉を撫でた。
「政宗様や小十郎様、伊達軍の皆様が、私の家族ですから」
小さく笑った紫苑はとても綺麗で、慶次は思わず見とれた。
「前田様は大切にしてあげて下さいね、ご家族の方を」
「お、おう!」
向けられた笑顔に慶次はそっぽを向いて茶を飲んだ。
すると
「おい、風来坊」
「ブッ!」
背後から別の声が聞こえ、驚きながら振り向くと、不機嫌な政宗が立っていた。
「あら、政宗様」
「よ、よお。独眼竜」
「テメェ、何呑気に紫苑とTeatimeしてんだよ」
「てー?だってよ、こんな大雨の日にやる事なんてないだろ?」
「Ah?」
政宗は鋭い左目で慶次を見下ろし。
ゲシッ
「「あ」」
慶次を蹴り落とした。
「いって!何すんだよ独眼竜!?」
「暇ならさっさと帰れ。こっちはお前に構ってる程暇じゃねぇんだ。紫苑!」
「はい。失礼しますね、前田様、夢吉君」
紫苑の名を呼んで政宗は去り、紫苑は夢吉を下ろし、慶次に礼をして後を追った。
「全く、素直じゃないね~、独眼竜も」
「キィ」
.
ドカドカと歩き続ける政宗の後ろを、紫苑は何も言わずに付いていた。
だが政宗が急に止まり、同時に紫苑も止まった。
「紫苑」
「はい」
「あの野郎に何を話した?」
「対した事ではありません。ただ、前田様に家族の事を聞かれたので、戦で亡くなったとお伝えしただけです」
「…戦、か」
「ええ。あれは、戦でしょう」
それ以上は何も言わず、その場には雨の音だけが響き渡った。
「紫苑」
「はい」
「近々、また戦に出る。…お前も同行しろ」
二度目に呼ばれた後の言葉に、紫苑は目を見開いた。
「“軍医”として、俺達に着いて来い」
振り返った政宗の強い眼差しに、紫苑はゆっくりと笑って告げた。
「承知致しました。政宗様」
翌日、長く続いた雨が漸く上がり、慶次は馬上から紫苑を見下ろした。
「見送りありがとな、紫苑ちゃん」
「いいえ、道中お気を付けて。夢吉君も元気でね」
「キキッ」
「今度来た時には、また一緒に茶ぁ飲もうな!」
馬を走らせながら慶次と夢吉は紫苑に手を振り、紫苑は慶次が見えなくなるまで見送った。
「前田慶次は帰ったか?」
「あ、小十郎様」
背後から現れた小十郎は紫苑の隣に立ち、慶次が走り去った道を見た。
「やっと帰ったか」
「雨も漸く上がりましたし、丁度よかったですね」
「ああ…。行くぞ、政宗様がお呼びだ」
「政宗様が?」
先を歩く小十郎に問い掛けると、小十郎は振り返って「ああ」と言い、続けた。
「次の戦についての、軍議だ」
.