戦国BASARA
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「筆頭!筆頭!!」
「たたた、大変です筆頭!」
早朝、良直と左馬助が血相を変えて政宗の元へと駆け、それに気付いた政宗も部屋から出て来た。
「どうした?豊臣のスパイ野郎でも見つかったのか?」
「て、敵襲っす!」
「南部、津軽、相馬が三方から一時に!」
「は?」
それを聞き政宗は微かに目を瞠りすぐに表情を険しくした。
「Shit!もう来やがったのか。小十郎にも知らせをやったな?」
「片倉様には、今文七郎が…」
「筆頭ーー!!」
左馬助が言い終わる前に叫び声が聞こえ、三人が目を向ければ孫兵衛と文七郎が駆け寄って来た。
「か、片倉様が!!」
「「!」」
その様子に何かあった事は明白。孫兵衛は勢い余って滑り転げ、文七郎はその隣に膝を付いた。
「裏のお鈴ちゃんとじいさんが俺んちへ駆け込んできて、片倉様がやられたって!」
「「えぇ!?」」
「丘の畑に、これが…」
文七朗は畑で見つけた小十郎の刀を見せた。それに左馬助と良直が声を上げる。
「そりゃあ片倉様の…」
「黒竜じゃねぇか!」
政宗は小十郎の刀を手に取り、その刃には「梵天威天翔独眼竜」と刻まれている。それを見て顔を顰めた。
「夜更けに、集団で襲われたようです。汚い手を使って片倉様を何処かへ、裏切り者も解りました」
「…賊の首魁は誰だ。名乗りやがったのか?」
「豊臣の…」
「竹中半兵衛らしいと…」
その名に良直と佐馬助は驚き、政宗は黙った。
「大坂へ斥候を出せ。奥州を統べ直したらすぐに取り返す」
「はい!」
文七朗は直ぐ様斥候を出すため走り出し、政宗は休まず次の指示を出した。
「もたもたしてんじゃねぇ」
「!」
「陣触れだッ!!」
「「「は、はい!」」」
「お待ち下さい!」
三人も走り出そうとしたがそれはある声に止められ、政宗の声のする方を向いた。
そこに立っていたのは紫苑だった。
「紫苑…」
紫苑は黙ったまま政宗が持つ小十郎の刀を見詰めた後、真っ直ぐに彼を見た。
「政宗様、直ぐに出陣の用意を」
「んな事は解ってる。だが先に陣触れを「出陣の用意が済んでも…」
「政宗様達は此処で待機をお願い致します」
予想外の一言に、政宗の瞳に僅かな怒りが見えた。
「どういう意味だ紫苑、俺に戦うなと言いたいのか?」
「三方からの同時敵襲…果たしてその中に豊臣の兵が紛れているでしょうか?」
「何?」
「南部、津軽、相馬。三方が陽動を起こして戦力を削ぎ、残っていた豊臣が我等を叩く。…私の考えはそれです」
「じ、じゃあ俺等はどうすりゃいいんすか!?」
「そうですよ!俺等には他に頼る国なんて!」
動揺する良直達に目を向け、次に政宗を見た。
「政宗様、私に行かせて下さい」
「「「ね、姐さん!?」」」
「…ふざけてんのか?」
「恐らく数刻後、新たな増援が現れる筈。政宗様はそちらをお願い致します」
「俺に、下がれって言うのか!?」
「政宗様ッ!!」
普段怒鳴る事のない紫苑の声に、政宗は口を止めた。
「貴方は奥州筆頭、私達の主です。その貴方が破られれば、この国はどうなります?」
「…っ」
「小十郎様より自分に何かあった時は後を頼むと言われましたが、政宗様の背中を護れるのは小十郎様のみ」
拳を強く握り、後ろに隠していた自分の刀を前に突き出した。
「私の役目は、貴方の進む道を開く事!」
揺るがない、真っ直ぐな瞳を向けられ、政宗は観念した。
.
武装した紫苑は普段は身に付けない兜を脇に持ち、縁側を早々と歩いていた。
そんな彼女の元に、一人の兵が駆け寄って来た。
「紫苑様!」
「状況は?」
「指示通り兵は分散させて待機させております、目標を捕捉次第迎撃せよとも」
「恐らく背後にはもう一軍いる筈よ、成るべく体力を温存するよう伝達を」
「解りました」
持っていた兜を被り、用意していた馬に乗ると即座に走り出し、ある丘の上で馬を止めた。
そこから下を見渡すと、伊達軍とは違う兵達が紫苑を見上げていた。
刀を抜き天に向ける姿に、兵達の雄叫びが響いた。
『オオオォ!!』
豊臣の潜伏侵略を受け、奥州伊達領へ三方から攻め入った南部、津軽、相馬の各軍に対し、伊達政宗の代わりを勤めた紫苑が自軍の兵を均等に分割しこれに応戦した。
戦況は紫苑の有利であったが、その形勢を一変させる軍勢が会津より進行を開始していた。
「紫苑様!斥候の報せが来て、芦名の軍勢が迫っていると!」
「やはり潜んで、芦名に向かえる者は?」
「何処も手一杯で、こちらからは…」
「では、芦名は伊達に任せましょう。ここを護れば我々の勝ち!もう一押しです!」
紫苑の掛け声に士気が上がり、政宗達の心配をしつつも目の前の敵に刀を振るった。
.
その頃、政宗が先頭に立ち摺上原へと軍を率いてやってきた。そしてそれを迎えるように前方から竹中半兵衛を先頭の芦名の軍勢が迫る。お互い睨み合うように止まった。
「竹中半兵衛。追いかける手間が省けたぜ」
「まさか、兵を分散させず待機させて、彼女に任せるとは思ってもいなかったよ。政宗君」
「何…?」
政宗の背後の兵達見て半兵衛は残念そうに告げた。
「片倉君なら…南部、津軽、そして相馬には最低限の兵のみを当てて拮抗させるか…ギリギリまで引き付けてから策を講じていた筈だ。別働隊に攻めやすくさせる為の揺動ではないかと警戒してね」
「…」
「君の側にいたあの女性が、それに勘づくとは思ってもいなかった。彼女も片倉君と共に来て頂くべきだったよ」
半兵衛は刀を前に振り、それを合図に芦名の軍勢が突撃し、政宗は馬を走らせた。
「Be right there!」
そう叫び空高く馬ごと飛んだ政宗は半兵衛向かって飛び上がる。すると半兵衛も刀を鞭に変形させ政宗へと攻撃したかそれを逆に政宗は刀に巻き付け半兵衛を引っ張り出した。
半兵衛が巻き起こした砂埃の中から飛び上がり攻撃しようとするが他の兵が半兵衛を取り巻くが、それをも吹き飛ばした。
ガキンッ
だが次の瞬間、半兵衛の鞭が政宗の兜の弦月に当たり金属音が響いた。
咄嗟に振り向こうとしたが遅く、半兵衛が振り上げた刀が背中を直撃する。鎧によって怪我はなかったが、その背中を見て誰もが絶句した。
政宗の背中の紋章が切り裂かれていた。
「いつもなら片倉君が守ってくれるはずのその背中、容易く裂ける」
「テメェ…!」
「彼には熱い処遇を約束するよ。だから君は安心して、この摺上原に散ってくれたまえ」
「上等だ。借りはこの場で返させてもらうッ!!」
そこでキレた政宗は一気に六爪を抜いて半兵衛へと襲い掛かる。少し甘く見ていたのか半兵衛の顔から余裕がなくなった。
だが予想外に多い軍勢に伊達が押されている事に気付き、目眩ましをして馬に飛び乗った。
「Damn it!」
「うわぁあ!!」
追いかけようとした政宗だったが自らの兵の叫び声を聞きその足を止めた。振り替えれば押されていく兵達、伊達の軍旗が次々と倒れていった。
「…てんでCoolじゃねェな。へっ、右目を奪われちまった途端このザマたぁ…我ながら反吐が出やがる」
歯を食い縛り言った政宗へと恐る恐る近づいていた兵が一斉に襲い掛かる。その途端政宗の兜が空高く舞った。
「うあぁあ!!」
今度は襲い掛かっていた兵が全て宙を舞った。そしてもう一度政宗も刀を構える。
「Come on!It's not over yet!!」
大軍勢の兵達向けて、政宗は一人立ち向かって行った。
.
「ハァ…ハァ…」
刀を地に刺して体勢を保つ紫苑、辺りをゆっくりと見渡す。
三方の兵達を撃退し、傷を負いながらも歩き出し、近くの兵を起こしながら他の生きている兵達に指示を出した。
「紫苑、様…」
「この先に、休息出来る場所があった筈…そこで負傷者の手当てを…」
「は、はい…」
動けぬ者に手を貸し、又痛む傷を堪えて歩き出す兵達に紫苑は一人残って辺りを見回し、残党が残っていないか確認していた。
その時、馬の走ってくる音が聞こえ、そちらの方向を向き、相手を睨み付けた。
「やあ、紫苑君」
「竹中、半兵衛…」
睨み付けた先にいたのは少数の兵を率いた竹中半兵衛だった。
「まさか生き残る事が出来るとは予想外だよ。流石、あの牙の娘だけあるね」
「…」
「先の【竜の牙】…いや、檜垣(ひがき)城主の娘
檜垣紫苑」
ギュッ
刀を強く握り締めながら、紫苑は俯き続けた。
「僕なら君の力を有効に使う事が出来る。政宗君の元にいるより、僕の元に来るのが賢明な判断だと思わないかい?」
俯く紫苑に答えを聞き出そうと迫る半兵衛、だが、異様な威圧感に言葉を止めた。
「…何故知っている」
「え?」
「檜垣の事を、何故知っている」
「ああ、その事か。あの国の城主の力は知っている、そんな力を持った国を知らない筈はないだろう。彼は最北端最強の武将なんだから」
半兵衛は一歩ずつ前に出て紫苑に近付いた。
「彼がどう散ったかは知らないが、君まで伊達に下る必要はないだろう。僕は君の力が欲しい、是非我が軍に」
ザンッ!
言葉を遮るように刀を降り、地に一筋の斬撃を作った。
「―――ろ…」
「何?」
「今すぐ私の前から…消えろっ!!」
更に強い斬撃を放ち、半兵衛と豊臣の兵を攻撃した。
それに兵達は怯み、半兵衛も馬に飛び乗った。
「今日の所はここで引いておくよ。僕の言った言葉、考えておいておくれ」
そう残し去る豊臣軍、姿が見えなくなると、紫苑は膝を付いた。
「…っ…く…っ」
声を抑え、紫苑は悲しみを堪えた。
「紫苑様!」
数人の兵が膝を付いた紫苑に気付き、駆け寄った。
「紫苑様、お怪我は!?」
「大丈夫…皆は?」
「動ける者は負傷者の手当てをしております、紫苑様も早く手当てを」
「…伊達軍は、政宗様は無事ですか?」
紫苑を立たせ、用意していた馬に乗せながら側にいた兵は報告した。
「芦名の軍は予想以上の数でしたが、何とか無事の様です。ただ、あちらも負傷者が…」
「…動ける者は伊達軍の救助に向かいます」
「紫苑様!先にご自分の手当てを!」
「これは命令です!」
命令という言葉に兵達は口を止め、紫苑は少数の兵達と摺上張に向かった。
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