戦国BASARA
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種子島を受け、傷を負い、熱に魘される政宗。紫苑は流れる汗を拭い、看病を続けていた。
そんな政宗を心配しつつ、庭で刀を振る小十郎の心配もしていた。
「…政宗様」
鍛練をしながら長篠での戦いの事を考えていた。
「この小十郎、お諌めする事もお護りする事も相成らず。その思いを常に重んじる事は…」
呟きながら刀を振るい、目の前の木の葉を散らし、側にある石の置物を斬った事にハッ、とした。
「まだ若い貴方様を、死に逸らせるだけなのかもしれませぬ…」
声を上げて刀を振る小十郎の元に、幸村が寄って来た。
「片倉殿」
「今しがた西の方から妙な物音が聞こえたようだが…」
「それなら、配下の忍隊が確かめに向かっている頃合いにござる」
「そうか」
幸村に向き直り、刀を納めた。
「心中お察し致す」
幸村の声に、うっすらと目を開けた。
「某とて、もしも目の前で親方様を…相手は無数の飛び道具。伊達殿の負傷、片倉殿に責めはないと存じまする。むしろ、伊達殿は我等の代わりに種子島を受けられたようなもの。織田の鉄砲隊は徳川を支援する手筈であったとの事にござれば」
「そんなもんは敵の腹一つでどうとでも変わる。戦場の常だ…ただ」
「?」
「あの明智って野郎、戦を遊んでやがるように見えた…」
小十郎の脳裏に、狂ったように戦う光秀が浮かんだ。
「どの道周り全てをぶっ潰すつもりだとしても、織田にとって今この時期に味方の浅井を葬り、徳川を欺く事が得策だったとは思えねぇ」
「それは確かに…」
「野郎、魔王の子飼でありながらその実異端なのかも知れねぇ」
「明智、光秀…」
「真田の旦那!」
「!佐助」
光秀の名を呟いた時、偵察に向かった佐助が傷付いた伊達兵を一人連れて戻って来た。
「その者は…」
「文七!」
「片倉…様…」
兵、文七郎の状態に小十郎は駆け寄った。
「おい、何があった!?」
「小十郎様?どうし…文七郎!」
外の騒ぎに気付いた紫苑も顔を出し、弱った文七郎を見て駆け寄った。
「片倉様…姐さん…良直、達が…」
文七郎達は政宗の様子を見に行った後、小十郎に言われた通り仕事をしようと武田兵から無理矢理物見を変わり。
見張りの最中、爆弾を持った忍が現れ、それを投げ出され爆発された。
.
「俺様が駆け付けた時には、この兄さん一人が倒れてた」
「他の者達は」
「連れ去られたらしい。こいつが、その場に…」
文七郎を紫苑に任せ、佐助は懐から出した文を幸村に渡した。
「…っ、片倉殿!」
文を一通り見た幸村は、その文を小十郎に渡した。
「攫った者達と引き換えに、武田の楯無鎧。伊達の竜の刀を揃えて差し出せと申しております。しかも刻限は明朝」
「…松永弾正久秀……っ!?」
小十郎も目を通し、文の最後にあった文字に目を見開いた。
【差出人を、竜の牙とする】
「竜の牙だと…」
「!?」
その言葉に、紫苑もハッ、と顔を上げた。
「片倉殿、竜の牙とは…」
「竜の牙…聞いた事あるな」
小十郎に問い掛けた幸村だが、話し出した佐助にそちらを向いた。
「最北端に腕っぷしの強い武将がいて、その強さに『竜の牙』って呼ばれるようになった奴がいたって。て言ってももう十年くらい前の話だから今どうしてるかは…」
「猿飛様。それより、その松永という男は…」
「ああ。戦国の梟雄と言われながら天下取りに名乗りを上げず、今は庵に混もって骨董品集めに清を出してるっていう…」
紫苑に話を逸らされながらも松永に付いて話す佐助に、小十郎は幸村を見た。
「真田、楯無鎧とは何だ?」
「武田の家宝にござる」
「大事を成さんと致す時、親方様はその鎧と御旗の前に重臣達を集め、武田の創意を決される。そこで立てられた誓いは、決して覆る事はない。あの鎧は、我等の揺るぎなき意志を支えるよすら、文字通りの宝にござる」
その時、魘されていた政宗が目覚め、背後の鎧を睨んだ。
「いかなる武具を持ってしても、貫く事が出来ぬ鎧と言われておる故、転じて深手を負った者の治癒を願う時、鎧の間に床を述べる事が有り申す。故に此度は伊達殿を」
小十郎と幸村は、政宗のいる室を見た。
「あれがそうか、松永久秀…伊達の刀と武田の鎧を、庵の床にでも飾ろうって腹か」
「某、親方様に報せてまいる」
「その必要はねぇ」
「なんと…!?」
予期せぬ返答に、幸村は驚いた。
「こいつはうちの不始末だ、これ以上武田に迷惑を掛ける訳にはいかねぇ。甲斐の虎に報せた所で、どの道家宝の鎧を持ち出す訳にはいくまい」
「か、片倉様…」
「まだ動いたら駄目よ」
痛む体を堪えながら立ち上がる文七郎を、紫苑は支えた。
「政宗様の耳にも入れるんじゃねぇ。あいつらは、長篠で撃ち死にした。そう思うんだ、いいな」
「そんな…」
「紫苑もいいな」
「しかし…」
「刀も、鎧も、やる訳にはいかねぇ。…それに、今竜の牙はいねぇんだ」
小十郎の返答に、紫苑は僅かに俯いた。
「片倉殿!」
「旦那!正しい判断だ」
「舐めた真似されてスルーしようってのか小十郎」
その声に全員が振り返ると、武装した政宗が立っていた。
「筆頭!」
「伊達殿!」
「ま、政宗様!!」
寝ている筈の政宗の姿に、紫苑は慌てた。
「真田幸村、俺の馬は何処だ?」
「政宗様!」
「なりません!その御体で起き上がっては!」
「ふっ、Not to worry」
叫び心配する小十郎と紫苑を軽く勇め、皆の中をすり抜け前に出た。
「人質に取られた連中を取り戻せばいいだけの話だろ、俺が行って助け出す。その松永って野郎は何処にいる?」
「なりませぬ!」
「…伊達軍は誰一人掛けちゃならねぇ。You see?」
「行かせる訳には参りませぬ!」
行く事を止めぬ政宗に、小十郎は刀に手を付け、皆が動揺した。
「か、片倉様…」
「小十郎、俺に刀を向ける気か?」
「家臣は大事。しかしながら一番の大事は政宗様の御身」
「…だったら着いて来い、いつものように俺の背中を護れ」
引く気のない政宗に、小十郎は刀を僅かに抜いた。
「か、片倉殿!」
バッ!
止めようと幸村が名を呼んだ時、横にいた紫苑の手が前に出され、塞がれた。
「紫苑殿…」
紫苑は幸村を見ずに、小十郎と政宗を見ていた。
「何も恐れず、いつ如何なる時もただ前だけを見て進んでいただく。そしてその背中はこの小十郎が御護りする。そう誓っておりましたが、今手負いの貴方様を出陣させる事だけは、この命に変えても!」
「仕方ねぇな、遠慮はしねえぜ。小十郎」
刀を構えた小十郎に政宗も六爪の一振りを抜き、構えた。
ガキンッ!
刀を交える政宗と小十郎。
だが小十郎は政宗の右側だけを狙い続けていた。
「片倉殿、伊達殿の右側ばかりを」
「一々正しいねあの旦那、気に入ったよ」
小十郎の攻撃を受け、政宗は後方に下がるが、疼いた傷口に動きが止まった。
「はあああっ!!」
その隙を見逃さず、小十郎は刀の柄の先で政宗の傷口を叩き、動きを鈍らせた。
「小十郎…てめぇ…っ」
ドスッ
政宗が動く前に小十郎は刀を振り上げ、首元に峰打ちし、気絶させた。
倒れた政宗を見て、小十郎は背を向けた。
「ひ…ひ…筆頭!」
倒れた政宗に、文七郎が駆け寄り、体を揺すった。
「筆頭、筆頭!片倉様、卑怯です!怪我なさっている筆頭を、何で!?なん…」
振り返った小十郎に、文七郎は言葉を止めた。
月明かりを背に、政宗を見る小十郎。その強い瞳には政宗が映っていた。
刀を鞘に戻し、小十郎は両膝を付いた。
「承知致しました、政宗様。あの者達は、この小十郎が必ず取り戻しまする」
「片倉殿…」
「暫し、拝借致します」
政宗の六爪を持って頭を下げ、政宗の横を通り、紫苑の側で止まった。
「後は頼む」
「良いのですか?」
「言った筈だ。今竜の牙はいねぇ」
先程言った言葉を伝えた小十郎に、顔を上げた。
「お前は、ただの紫苑だ」
そう言い、幸村と佐助の間を通り、行ってしまった。
「結局、自分で行っちゃうわけねぇ」
「…ッ」
去り行く小十郎の背中を幸村はただ見ていた。
その様子を信玄が屋根の上から見ているとも知らずに。
「待ってろ、松永久秀…!」
馬を走らせる小十郎の瞳には、怒りが見えた。
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政宗を部屋に寝かし、治療を終えた紫苑は、松永からの文を読み直していた。
「もし宝が揃っても、松永は人質を返すと思いますか?政宗様…」
眠る政宗に呟き、紫苑は溜め息を付き、文を燃やした。
「失礼致す。紫苑殿、宜しいでござるか?」
「真田様…?どうぞ」
入って来た幸村は頭を下げ、早々に楯無鎧を持っていた巨大な箱に入れ出した。
「さ、真田様!その鎧は大切な…」
「親方様の御許しは得た。某はこれから片倉殿を追い、共に人質を救出するのでござる」
「…何故、我等の為に家宝を。もしその鎧が奪われたら」
「それでも、某は行きまする」
鎧が入った箱を背負い、紫苑に振り返った。
「某はずっと紫苑殿に頂いた恩をお返ししたいと思っておりもうした。その恩を御返す為にも、某は行きまする」
紫苑に頭を下げ、幸村は部屋を出て行った。
去る幸村を見ながら紫苑は拳を握り、意を決した瞳で政宗を見た。
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