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「スチールラックの組み方は」

お気に入りの音楽をヘッドホンで聞きながら、ネットサーフィンをする。前にスマホやパソコンは一日三時間まで、なんて決めていたことも今では破ったところで黙認されておしまい。
誰も私には、何も言えなくなっていた。自分のことで精一杯だから、きっと私にかまけている暇がないのだろう。どうしたってこの溝は埋まりそうになかったから、母さんに何か言われる前にさっさと仮想現実に逃げてしまおうと考えていたわけでもある。

「あー……、今日もこういうのばっかりかぁ……。」

つまらないサイトばかりを巡っている気がする。どうでもいいような、くだらないことばかりをまとめているブログだとか、ゲームの攻略情報が載っているサイトだとか、そういう決まったものばかり見ていて、たまにひどく残酷な画像とか情報とかが流れてきて、毎日変わらないものばかり見ている。
ウェブで遊べるゲームも、オンラインゲームも、アプリだとかも、そろそろやることがなくなって飽きてきた。つまらない、本当にくだらない毎日。きっと誰もがこう言うことだろう、『これこそが日常なんだよ、』と。
お兄ちゃんが死ぬ前には、世界はもっとましなように見えていたはずだ。何もかもが楽しくって、くだらないことで大げさに笑えて、父さんは単身赴任で居なかったけれど、それでも堂々と幸せだって言ってもいいくらいには幸せだった。
そう、どうしようもないことばかり言っているのは分かる。それでも、ああ、悲しいわけではないけれど、もうどうにもできないことなのだということも、分かっている。
分かっていても、どうにもできないもやもやとした感情は、収まってはくれない。

「……やめようよ、もう泣かないで。」

なんて、母さんにとってこれ以上なく残酷なことが言えたらよかったのだろうか。私には何も情報が来ない。
裁判とか、あったのだろうか。何があって、お兄ちゃんが死んだのだろうか。何もわからないままで、何も教えられてないままで、何を悲しめと言うのだろう。誰もいないからこそ呟ける言葉だ。母さんにも父さんにも聞かせられない、私だけの、考えだ。
ゲームを起動して、毎日している日課を終わらせながら考える。今の私に、何かできることはあるだろうか。いくら考えても答えが出ないのなら、この問いに対する答えはノーなのだろう。
今の私では、何もできないのだ。この家を明るくすることも、元の日常に戻すことも。ただ空気を読んで、ひっそりと息を殺すことだけをしていればいいと思った。
そうしておけば、少なくとも、母さんのヒンシュク、というものを買うこともないだろうから。

本当に、それでいいのだろうか。家族の関係って、そういうものだったのかな。そう思ったところで、どうにかできるフェイズをとっくに過ぎてしまった、こんな家庭事情は、放っておく以外に特に手立てもないのだけれど。
そうしてどうにかできるようなことなら、とっくにどうにかなっているのかもしれない。それは私が、何となくそう思うと言うだけなのだけれど。

ネットは、私に娯楽を与えてくれる。いろいろな世界を教えてくれるし、私が逃げ出したかった現実から目を逸らさせてくれる。掲示板ではマナーさえ守れば居場所があって、ゲームでは目的さえ作ればそれに向かって一緒に努力して励める仲間もいる。現実世界より充実した場所。それが、私にとってのネットだった。もちろん、この状況の中でこんな生温い世界に浸かっていたら、何もできなくなることは分かってはいたのだけれど。

『今日はこういうことがあったんだよ。』
『へぇ、そうなんだ。』

そうやって会話ができればよかった。家族に与えられない温もりを、その代替品を探すのは悪いことではないのだと、そう思って。けれど、このままではいけない。でもどうすることもできない。
”もう諦めてしまえばいいよ。”そうやって心のどこかで甘い誘惑がかかる。優しい声だった。堕落させるような、砂糖のように甘い声。
それが自分の心の声だとは思えないほど、甘かった。学校にも行かなくていい、友達とも話さなくていい、家族が停滞しているんだから自分だって停滞してしまえばいい、そうやって自堕落に堕ちていってしまったのだろう。今更、正しい道を選ぶこともなかったのだから。
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