このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。


ハピアの街を一望できるこの部屋に居ると…自分の立場の重さを実感できる。執務の合間に席を立ち、窓辺に立つソーマはそう思いながら…窓の外の「守るべき景色」を見つめた。

実力、多少の人望はあったとしても、どこかダルそうな印象を与える自分の口調は、誤解される事が多々あった。それ故、ソーマは自分が騎士団の団長に任命された時、柄にもなく辞退すら考えた程だ。だが、それは自分にこの「駒鳥の騎士団」を任せようとしてくれた前団長の期待を裏切る行為であると考えた。


「けど、やっぱ俺には重てぇよ…せめて、」


ソーマは思う、「せめて、お前が居てくれたら…」と。前団長が退任する際に、付き従ってこの駒鳥を去った二人の騎士。そのうちの一人は、ソーマの好敵手であり相棒だった。
共に、副団長として前団長を支え…共に実力を競い合った仲。種族も性別も違ったが、この駒鳥を思い…あの人を敬う思いは同じだった。

今、目の前に広がるハピアの夜空を思わせるアイアンブルーの髪を持つその人、彼女の青紫色の瞳は、優しくも強い意志を秘めていた。ソーマはその瞳を思い出すように目を閉じる。


「っははは…こんな弱音吐いちまったら…やっぱり、怒るよなぁ……」


ソーマの脳裏に浮かんだのは、彼女が腕を組んでこちらを見上げてくる様子。しかも、懐かしいお小言付きだ。唯一、自分が背中を預けて戦えた存在の記憶が小言を言う姿に…目を閉じたまま、ソーマは「やれやれ」と肩を竦めた。
少しだけ…本当に少しだけだが、淡い想いを抱いた相手でもある。こんな時ぐらい、優しく微笑んで自分を励まして欲しいと、我が侭を言いたくもなるが、それは難しいだろう。

なんせ記憶の中でも、彼女はただ一人の…自分以外の男にはにかみ、頬を赤らめていたのだから。あくまで自分は、彼女…シャルツの「相棒」でしかなかった。


「次に会う時まで、もうちっと…成長してやんよ」


駒鳥に帰って来てくれ、また俺の隣で戦ってくれ、なんて泣き言は口にしない。代わりに言いたいと願うのは、ただ一つ。そう、いつもの様に緩く…自他共に認めるダルそうな口調で。


「…今日も、ハピアの街、駒鳥の管轄都市は平和だ」


あの人や、お前達と守っていた5つの都市は…今、俺の率いる駒鳥がしっかり引き継いでいるぞ、と意味を込めて。ソーマは、再び目を開ける。窓の外のハピアの街は、今日も穏やかだった。


―想い出の中の―
1/1ページ
    スキ