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クッキーワゴンの女将から頼まれた人探しも、無事終わり。レン達は広場から騎士団の居城「アステル城」に向けて歩いていた。
その残り道中も、周りの視線がこそばゆい。可憐な騎士団員のシェリユに、綺麗系な竜人族のセレン、希少価値の高い幸運のウサギが揃ったとなれば、仕方がないのかとレンは思う。
「シェリ姉さん、相変わらずの人気だな」
「もう、言わないでよ。これでもまだ慣れてないのだから…」
「騎士団っていうと、やっぱり男の人が多くて女の子は少ないの?」
「そうね、下手をすれば身体に一生モノの傷もできるし、普通の女の子で騎士団員になりたいって子は、そういないわ」
「シェリユは普通、違うのか。変なのか?」
「こ、こら!うーちゃん!」
道行けば、老若男女問わずシェリユに声を掛けたり、手を振ったり。
そこで出た話題から、うーちゃんがきょとんとして言う。レンが慌ててうーちゃんの口を塞ぐと、シェリユは困ったように微笑んで。
「そうね、否定はしないわ。変な方かも」
「シェリユちゃん、ここは怒って良いとこだよ?!」
「そうか、シェリユ、変なのか!」
「うーちゃんは少し黙ろうね?!」
めっ!と言うレンに、うーちゃんは「なんでだ?」と首を傾げて。そんな様子を笑ってみていたセレンが口を開いた。
「レンとうーちゃんは面白いな。そうだ、レンは騎士団の客人って聞いたが・・・どうだ?騎士団の試験受けてみないか?」
「え?!無茶だよセレン!オレ、武器なんて持った事ないし・・・そりゃあ、憧れるけど…」
「ラックラビィと契約して主従関係結べるくらいなんだ、見込あると思うぞ?」
「そうね、過去の入団試験時、剣もまともに持てない、加護を受けた風魔法はからっきし・・・なのに、今では両方とも彼以上はいないと言われるまでに成長した人もいるのよ」
「騎士団にいる従兄に聞いたところじゃ、入団試験は落とす為ではなくその者のスタートラインを決める試験…だそうだ」
「へぇ…そうなんだ!つまりは、やる気次第ってことなんだね!」
そんなことを話していると、アステル城の正門までついていた。
しかし、門番はおらず、門は開いている。
シェリユは門の前で呪文を唱えた。すると、門の前の空間が歪み、白い翼を生やした白馬が現れる。所謂、ペガサスという幻獣だ。
普通のペガサスと違うのは、翼に丸い宝石が埋め込ませているのと、蹄が綺麗な宝石の原石でできている事くらいか。突然現れた宝石のペガサスに、レンとセレンは思わず身構える。
「お帰り、シェリユ…任務、お疲れ様」
「ただいま、ネフィ。そうそう、後ろの2人とラックラビィも入るから」
「そうか。ならば、攻撃はしないよ」
シェリユと話し終えると、宝石のペガサスはまた、歪んだ空間に消えた。呆気にとられる2人に、シェリユは説明する。
あの宝石のペガサスは「ジュエルペガサス」といって、このアステル城の門番。歴代の騎士団長が契約を結ぶ幻獣で、今の名前は「ネフィ」というそうだ。
「ネフィは良い子よ。口数は少ないけど、慣れれば可愛い子」
「びっくりした~けど、うん!確かに、可愛いかも!」
「宝石ってのが、また星屑の騎士団に似合っているしな」
「ボクも頑張れば、宝石生えるか?ネフィ、きれいだ!」
突然の出会いだったが、レン達はネフィに好印象。シェリユは嬉しげに、微笑んだ。
門を潜り、敷地内に入ると、そこは別世界。馬術の練習場や、湖など、門の外からは想像がつかない広さだ。
「すごい…!お城の学校みたいだ!」
「ふふ、そうね、確かに学ぶことは多いから、学校でも間違いはないわ」
レンは城に続く道を歩きながら、大好きな海外児童書のお城の学校を思いながら、目を輝かす。
そして、城内に入ると、また別世界。宮殿とまではいかないが、石畳の風情ある内装が待っていた。すると、城内を歩いていた騎士団員が、一礼してから近づいてくる。
「お帰りなさいませ、シェリユ副団長!調査任務、お疲れ様であります!」
「ただいま。あなたも巡回、お疲れ様…そうそう、団長とロラン副団長を見かけなかった?」
「はい。騎士団長でしたら、執務室かと。ロラン副団長でしたら、数時間前に訓練場に向かうのをお見掛けしました」
「そう、ありがとう。わたしは報告の前に客人を応接室にお通しするから、そのことを料理長に伝えてくれる?」
「はい。畏まりました!」
もう一度、シェリユとレン達に一礼して、騎士団員は歩いていく。どうやら、彼は城内の巡回係りらしい。
それは兎も角、問題なのは。
「シェリユちゃん、副団長なの?!確か、結構わがままが通るって言ってたけど・・・そりゃ通るっていうか、決定権を持ってるみたいなもんだよ、それ!」
「姉さんたち、また昇格したのか・・・確か前は小隊長じゃなかった?」
「…そこは気にしなくて良いのよ、2人とも。まずは、応接室に行きましょうか」
驚愕するレン達を連れて、シェリユは歩き出す。途中、会う騎士団員からも挨拶を何回か受けて、だいぶ雰囲気に慣れてきたところ。レンは、ふと先ほどのセレンの言葉を思い出した。
「セレン、さっき姉さんたち、って言ったけど…もしかして、他にもお偉いさんの知り合いがいたりするの?」
「ん?ああ、まあ…知り合いっていうか…」
レンの問いに、セレンは恥ずかしげに頭を掻きながら、説明しようとした。
しかし、そこに穏やかなのほほんとした、声音が入る。
「おや、セレンじゃないですか」
「…ロラン兄、訓練場じゃなかったのかよ」
声の主は、後方から聞こえて。
ゆっくりと近づいてくる。
振り向くと、竜人の青年が柔らかな笑顔で立っていた。その髪の色と目の色はセレンと同じで、違うのは髪型と醸し出す雰囲気だろうか。
「勿論、訓練場にいましたよ?ただ、訓練を終えただけです。あとは、巡回係りの団員からシェリユ副団長がお客さんを2人連れてきたと聞きまして」
「あっそう。…そうだレン、この人がさっき話してた知り合いっていうか、従兄のロランさん」
「従兄さんなんだ!確かに、綺麗な髪とか目がそっくりだね!…はじめまして、オレはレンっていいます!えーっと、」
「レンは俺の友達なんだ」
「セレンのお友達でしたか。はじめまして、セレンがお世話になってます…これからも、仲良くしてあげてくださいね」
「ロラン兄!!子供扱いすんなって!」
丁寧にお辞儀をするロランに、レンもお辞儀で返す。のほほんとした空気の中、セレンは子供扱いに不満げだ。
うーちゃんも真似してお辞儀をすれば、ロランは嫌な顔せずに相手をする。騎士と言うより、教会の神職や教師が似合いそうな人と言える。
「ロラン副団長、丁度良かった。この2人を応接室に案内してから、今回の任務の報告があるの」
「では、報告は団長の執務室で良いですか?」
「ええ、それで良いわ」
シェリユと短い会話を交わして、ロランはシェリユの隣を歩く。
その後ろをレンと歩きながら、セレンはふと思ったことを口に出す。
「成り行きで来たが・・・入団試験までまだ1ヶ月以上はあるだろ?此処に、居ていいのか…?」
「その点は大丈夫ですよ、セレン。過去にも良く似たケースがありましたから」
「そうよ、あの時は3人だった。試験の1ヶ月前にステラに着いて、途方に暮れていたところ…それを知った当時の騎士団長が3人を城に招いたの」
「じゃあ、シェリユちゃんはそれに倣ったんだね」
「そうなるわ。…だから、問題ないのよ」
シェリユとロランの言葉に、セレンは安堵の笑み。
そこで、応接室に着く。室内は綺麗な絨毯が敷かれ、テーブルやソファはデザインもお洒落。そして、二足歩行の猫がお茶の準備をしていた。
「あらあら!ちょうど良かったわぁ~お茶菓子で悩んでいたのよ」
「コロネ料理長、お疲れ様」
「ええ、ありがと~でねぇ、お客さんが2人と1匹でしょ?シェリユちゃんがお連れしたお客さんだから、気合い入れて良いお茶にしたのよ」
「ありがとう、料理長」
「でねぇ?お茶菓子、フルーツケーキとガトーショコラ、どっちがいいかしら~」
お茶を出し終えたコロネは頬に手を当てて、おろおろとする。のんびりした優しい声は癒し系で、体の大きさは100センチあるかないか。頭に被った頭巾とシンプルなエプロンドレスも可愛い。
昔、施設で女の子と遊んだ動物のドールハウスを思い出す。
「セレンは甘いモノはあまり得意じゃないですよね?ビターなガトーショコラが良いかと」
「おい!ロラン兄!!・・・あ、その、お構いなく」
「あらあら、そうなの~?じゃあ、ガトーショコラにしましょうかしら~そちらのニンゲンの坊ちゃんも、ガトーショコラでいいかしら~?」
「うん!チョコ大好きだから、ガトーショコラが良いです!」
レン達から聞くと、コロネはガトーショコラをお皿に盛る。「きっと、食べ盛りよね~」と、大きくカットしてくれた。
そして、コロネはお辞儀をして、応接室を出て行く。
「じゃあ、二人とも。わたし達は団長に一度、状況をお話ししてくるから」
「ああ、分かった。…色々とありがとな、シェリ姉さん」
「良いのよ、これくらい。…じゃあ、レンくんとうーちゃんには、報告の際に少しお願いするわね」
「うん!うまく説明できるか分かんないけど、頑張るよ!」
「任せろ!ボク、だいたい覚えてる!」
レン達と軽く言葉を交わして、シェリユとロランは応接室を出た。
そして、騎士団長のいる執務室に向かう途中。ふと、シェリユが口を開く。
「懐かしいわね、入団試験のフライング」
「そうですねぇ…まさか、同じことを弟分がやらかすとは、思いませんでしたよ。団長が聞いたら喜びますね、きっと」
「ふふ、そうね。…あ、そうそう、ただいま…ロランさん」
「おかえりなさい、シェリユさん」
懐かしむのは、ほんの少し昔。
まったく違う種族の3人が、同じ騎士を志してフライングしたあの日。あの日から始まった、3人の絆。
そして、執務室の前に着いた。シェリユのノックの後、ドアの向こうの団長が口を開く。
「入りたまえ!副団長シェリユ、並びに副団長ロラン」
―二人の副団長―
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