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死兵に襲われた1人と1羽、幸運のウサギことラックラビィのうーちゃんは手負い、蓮は丸腰という絶体絶命の状況を助けたのは、エルフの少女だった。お礼を言う蓮に、彼女は「星屑の騎士団員」だと名乗る。


「星屑の騎士団?」


首を傾げる蓮に、エルフの少女はふわりと微笑んで「そうよ」とケープマントを脱いだ。マントの下は、緑を基調とした団服の燕尾ジャケットにスカートを穿いて、白のサイハイをガーターで留めている。
靴はお洒落なレースアップブーツだ。胸元には騎士団のエンブレムだろうか…描かれているのは三ツ星と宝石だ。


「申し遅れました、わたしはシャニアス三騎士団の一つ、星屑の騎士団所属のシェリユと申します。差支えなければ、お名前をお伺いしても?」
「あ、はい!オレは、成海 蓮…えーっと、レンって言うんだ」
「ボク、ラックラビィのうーちゃん!」

エルフの少女シェリユの自己紹介に、レンとうーちゃんも返す。
うーちゃんは元のちまっこい姿に戻ったようで、宙に浮いている。


「レンくんと、うーちゃんね。…見たところ、あなた達は悪意があってこの幻想の森に入ったわけじゃなさそうだけど…」
「ボクは、この森出身だぞ!悪意ない!元々いた!」
「オレは、学校の帰りに本屋さんで不思議な本を開いたら、この森にいたんだ」
「なるほど…うーちゃんはこの森出身で、レンくんは…恐らく、移動魔法の魔道媒介を触ったのね」
「まどう、ばいかい?」


きょとんとするレンに、シェリユは嫌な顔せずに説明を始めた。
魔道媒介とは、何かに宿った魔力を使う為の道具で、それは制御だったり解放だったり、膨張だったりと様々な用いられ方をする。「糸電話の糸」みたいなもの、と付け加えて説明が終わると、レンは「なるほど!」と理解。
最後の「糸電話の糸」で、なんとなく分かったらしい。


「レンくんの触った魔道媒介、移動魔法の媒介に本が使われることは多々あるの。元の場所に戻るには、対になる本や同じ本を使うんだけど…持っていないかしら?」
「オレが触ったのは一冊だけで、側に対になるような本は無かったよ。…そういえば、この森に来たときに触った本、消えちゃったんだ!キラキラって、光の粒になって…」
「消えたってことは…媒介の寿命がきていたのかしら。それとも、余程負担の掛かる移動だったのかしら…レンくん、あなたはどの町の本屋から此処に?」


レンはシェリユの言葉に、「えーっと、」と言葉を濁す。なんせ、「魔法の無い異世界から移動しました」なんて、信じてもらえないのがよくあるパターンなのだから。しかし、いつまでもダンマリというのは怪しまれる。


「シェリユちゃん、これからオレがいう事、きっと信じられないと思う…もし、怪しい不審者って認識したら、遠慮なく牢屋に入れて良いから」
「そんなに、突拍子もないことなの?」
「うん…多分オレは、別の世界から来ました…!」


言い切ったレンは、ギュッと目を瞑る。なんとなくだが、実感したのだ。
自分が、遥か遠くの世界で、ひとりぼっちなんだ…と。そして、自分の言ったことを異端と見られることが、怖かった。ふるり、とレンは震える。
そんなレンを細い腕が優しく包んで、抱きしめた。恐る恐る目を開けると、レンのふわふわの頭を華奢な手が優しくぽんぽん、と撫でて。


「別の世界…魔道媒介も知らないみたいだし、きっと魔法の無い、遠いところなのね」
「うん…魔法とか、空想の世界のもので…っ死兵なんて化け物、初めて見て…っこわ、か…っ…!」
「よく、頑張ったね、レンくん…見知らぬ土地に一人で、怖かったね…」
「あ、ありがと、シェリユちゃ…!?」


優しい声と手は、レンを安心させた。そして、落ち着いて我に返る。それはもう可愛い女の子が、自分を抱きしめているではないか。そして、余談だが好みのタイプの子である。
恥ずかしいこと、この上ない。


「シェリユちゃん!その、あの!お、オレはもう、大丈夫だから!」
「そう?よかった…あ、ご、ごめんなさい!つい…よく年の離れた弟にやっているものだから…!」


シェリユはパッとレンから離れて、顔を赤く染める。自然に異性を抱きしめたと思ったら、なるほど納得な理由だ。そして、余程恥ずかしかったのか、両手で顔を覆ってしまう。そんな仕草がまた可愛らしく感じ、レンは見事にハートを撃ち抜かれた。


「ところで、ニンゲン、じゃなかった…レン!オマエ、この後どうする気だ?」
「へ?うん、そうだなー…って!そうだ、どうしよ?!」


なんともまあ、今更過ぎる考えだ。もう、日が傾きつつある。
とりあえず、宿を探さねば。しかし、この世界に諭吉様が通じる筈がない。


「レンくん、良かったら…騎士団に客人として来てほしいの」
「え?!良いの?!それは、願ったり叶ったりだよ!けど、勝手に決めちゃって、大丈夫なの?」
「ええ、結構わがままが通るから大丈夫よ。騎士団にいれば身の安全は確実だし、あなたが幻想の森で死兵に襲われたこと、詳しく報告しないと行けなくて…」
「わかった!じゃあ、うーちゃんも一緒の方がいいかな?」


やっと恥ずかしさから解放されたのか、シェリユはレンに提案する。レンはと言うと、宿ができたことに歓喜。
更に言えば、シェリユとまだ一緒にいられることに感激だ。
シェリユが「報告」のことをレンに伝えると、レンはうーちゃんを見た。


「当たり前だ!ボクはレンに名前もらった、ついて行くぞ!」
「名前って…うーちゃんって、名前の事?」


きょとん、として話しについていけないレンに、シェリユが「幻獣との契約よ」と軽く説明をする。
何でも、一部の知能の高い幻獣は契約者に「名前」を付けてもらうことで、主従関係を結ぶのだ。シェリユ曰くラックラビィは「幸運のウサギ」というだけあって、希少価値も高い上に知能も高いため、中々契約を結べない珍しい幻獣だとか。
「幸運」とは、ラックラビィに主として認められることも意味するらしい。


「へぇ…うーちゃん、すごい幻獣なんだね」
「えへん!ボク、すごいか?もっと褒めていいぞ!」
「ラックラビィは幻獣では珍しく、光魔法を使う事も有名なの。もしかすると、レンくんはこの世界にきて…光かそれに近い魔力の加護を受けたのかもね」
「それって、オレも魔法が使えるかも…ってこと?!」
「ええ。訓練あるのみ、だけれどね?さて、そろそろ行きましょうか!」


2人と1匹での話がひと段落すると、シェリユは手帳サイズの本を取り出す。そして、レン達に近づき、自分に触れるように言うと、本を開いた。
そして「ステラの街」と、唱える。
次の瞬間、周りは眩い光りに覆われて。そう、これはレンがつい数時間前に体験した移動魔法だ。
光りが収まると、辺りは森ではなく夕焼けに照らさせる街の端、入り口だった。
街の建物はみな白い壁に緑の屋根、建物の窓からは徐々に明かりが漏れて。植え込みの草花が優しく香る。


「わあ…綺麗な街だね!あ、遠くの方にお城が見える!」
「あの城が星屑の騎士団の居城、アステル城よ」
「シェリユ、お城に住んでるのか!すごいな!」
「あら、あなた達もこれから住むでしょう?」


はしゃぐ二人に、シェリユは穏やかに微笑む。
そして、2人と1匹は街に入った。


―星屑の騎士団―
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