託される怒り
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「そういえばキキョウは?泣いたでしょあの子……」
扉の奥にいるであろう、キキョウへと、気遣わしげな顔で問いかけるベルベット。
その隣で、ライフィセットも心配そうに鍛冶場の固く閉ざされた扉に視線をやる。
「キキョウは、クロガネのことお爺様って呼ぶぐらい大好きだったもんね……」
「ああ。さっきまで中から泣き声が聞こえてた……俺はあいつを泣かしてばかりだよ」
ロクロウの呟きは、雪に吸い込まれるように消え入りそうだった。己の業を貫くために、彼女の温かい拠り所を一つ奪ってしまった。
その自覚があるからこそ、ロクロウの顔には、いつもの笑みはない。
「誰よりも強くなろうとする、それがあんたなのはわかってるけど……あんた、キキョウのことどうしたいの?」
ベルベットの問いかけに、ロクロウはすぐには答えられなかった。
「……俺は」
言葉を紡ごうとしたその時、ずっと響いていた鉄を打つ音が、ふつりと途絶えた。
静寂が辺りを包み込む。
それは、数百年の悲願を込めた一振りの刀がこの世に生まれ、同時にクロガネという一人の業魔が消滅した瞬間でもあった。
暫くして、重い音を立てて扉がゆっくりと開かれる。
暗い鍛冶場の奥から姿を現したのは、一振りの刀を大切に両腕で胸に抱えるキキョウだった。
ロクロウが静かに歩み寄り、無言で刀を受け取ろうと手を伸ばす。しかし、キキョウはうつむいたまま僅かに身をよじり、その手を拒むように、さらに刀を強く胸に抱き込んだ。
「キキョウ……」
「……い……」
「え?」
消え入りそうな声にロクロウが聞き返すと、うつむいていた顔が、ゆっくりと上がる。
泣き腫らして赤くなった目。涙で濡れた頬。悲しみに打ちひしがれた痛々しい顔。
溢れた涙が、ぽたぽたと、鞘の上に伝い落ちる。
それでも、確とロクロウの顔を真っ直ぐに見据え、キキョウは静かに、けれどよく通る凛とした声で言い放つ。
「負けたら許さない」
いつも穏やかで、優しい話し方をするキキョウらしからぬ、強い語気の突き放すような言葉。
それを受けたロクロウだけでなく、背後で見守っていたベルベットとライフィセットも、信じられないというように目を見開いて、彼女を無言で見つめてしまった。
その瞳に宿っているのは、自分を顧みず修羅の道を行く男達への強烈な怒り。
そして同時に、恩人であるクロガネの数百年に及ぶ悲願と決意を絶対に無駄にしないでという痛烈な激励であり、ロクロウの勝利を心から祈る、不器用で強欲な願いだった。
「……ああ。必ずシグレを斬る」
ロクロウは、その重すぎる想いを真っ向から受け止めるように深く頷き、力強く答えた。
その声を聞き届けて、ようやくキキョウの強張っていた腕の力が抜け、ロクロウの手にクロガネの魂が託された。