胸の内に熾るもの
夢主の名前
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カノヌシの力が、周囲のすべてを飲み込もうと吹き荒れる。
吸い込まれまいと、ロクロウは、両腕でエレノアとキキョウを上から押さえ込んでいた。
ここで自分が手を離せば、あっけなくカノヌシの力の渦に呑まれてしまう。
「『うるさい!』」
「!?」
ロクロウ自身も飛ばされないよう踏ん張るだけで精一杯の中、不意に聞こえた、その声の持ち主からぬ言葉に驚いた隙に、腕の中から一人分の質量が抜け出していった。
「あっ!?おい、待て!」
「キキョウ!戻って!」
エレノアの悲鳴と重なるようにロクロウも叫んだが、遅かった。
キキョウはベルベットの元へと走っていった。
一体、何を考えている。
アイゼンが、拘束術でベルベットの手を辛うじて掴んでいるライフィセットを繋いでいるが、そこに加わったところで状況が好転するとは思えない。
それどころか、まとめてカノヌシに喰われてしまう。
どうにかして連れ戻さなければ、と思うが下手に動けないでいるロクロウの視界に、飛び込んできた光景はあまりにも予想外すぎるものだった。
キキョウは自らの襟巻きを解いてベルベットの腕に巻きつけると、躊躇いもなく、握りしめていた暗器を己の足へと突き立てたのだ。
肉を裂き、岩床を穿つ鈍い音が、暴風の中でもはっきりとロクロウの耳に届いた。
その脚を中心にして、血溜まりが広がっていく。
自らを楔にして、ベルベットを繋ぎ止めるために。
剣を捨てた代わりの、自衛手段、あるいは自身の本性を偽り隠す為の道具を使って。
「だめ!!許さない!!」
初めて聞いた、キキョウの腹の底からの絶叫。
それは綺麗な慰めでも、聖人君子のような励ましでもない。
ロクロウは息を呑んだまま、ただその背中を見つめていた。
ソウマの家で育ったにも関わらず、あまりにもお人好しで、ロクロウと同じように血と業に縛られ、同じように業魔へと堕ちてしまった女。
シグレに負けた悔しさと恨みが募って、愛していた女を顧みなかったばかりに、ついにはその想いすら失くしてしまった自分。
そんな想いを失くした薄情な男への未練が手放せず、体だけの虚しい関係を願った、憐れな女。
同じ業魔になり、同じように人から外れてしまったはずなのに。
そんなキキョウが今、本気で怒り、理屈など投げ捨てて、許せない、と自分のエゴを叫びながらも、自分の身を削って誰かの絶望を引き留めようとしている。
キキョウの中には、ロクロウが失くしてしまった“人間らしさ”が、まだ熱く、色濃く残っている。
その姿に目を逸らすことが出来なかった。
吸い込まれまいと、ロクロウは、両腕でエレノアとキキョウを上から押さえ込んでいた。
ここで自分が手を離せば、あっけなくカノヌシの力の渦に呑まれてしまう。
「『うるさい!』」
「!?」
ロクロウ自身も飛ばされないよう踏ん張るだけで精一杯の中、不意に聞こえた、その声の持ち主からぬ言葉に驚いた隙に、腕の中から一人分の質量が抜け出していった。
「あっ!?おい、待て!」
「キキョウ!戻って!」
エレノアの悲鳴と重なるようにロクロウも叫んだが、遅かった。
キキョウはベルベットの元へと走っていった。
一体、何を考えている。
アイゼンが、拘束術でベルベットの手を辛うじて掴んでいるライフィセットを繋いでいるが、そこに加わったところで状況が好転するとは思えない。
それどころか、まとめてカノヌシに喰われてしまう。
どうにかして連れ戻さなければ、と思うが下手に動けないでいるロクロウの視界に、飛び込んできた光景はあまりにも予想外すぎるものだった。
キキョウは自らの襟巻きを解いてベルベットの腕に巻きつけると、躊躇いもなく、握りしめていた暗器を己の足へと突き立てたのだ。
肉を裂き、岩床を穿つ鈍い音が、暴風の中でもはっきりとロクロウの耳に届いた。
その脚を中心にして、血溜まりが広がっていく。
自らを楔にして、ベルベットを繋ぎ止めるために。
剣を捨てた代わりの、自衛手段、あるいは自身の本性を偽り隠す為の道具を使って。
「だめ!!許さない!!」
初めて聞いた、キキョウの腹の底からの絶叫。
それは綺麗な慰めでも、聖人君子のような励ましでもない。
ロクロウは息を呑んだまま、ただその背中を見つめていた。
ソウマの家で育ったにも関わらず、あまりにもお人好しで、ロクロウと同じように血と業に縛られ、同じように業魔へと堕ちてしまった女。
シグレに負けた悔しさと恨みが募って、愛していた女を顧みなかったばかりに、ついにはその想いすら失くしてしまった自分。
そんな想いを失くした薄情な男への未練が手放せず、体だけの虚しい関係を願った、憐れな女。
同じ業魔になり、同じように人から外れてしまったはずなのに。
そんなキキョウが今、本気で怒り、理屈など投げ捨てて、許せない、と自分のエゴを叫びながらも、自分の身を削って誰かの絶望を引き留めようとしている。
キキョウの中には、ロクロウが失くしてしまった“人間らしさ”が、まだ熱く、色濃く残っている。
その姿に目を逸らすことが出来なかった。