胸の内に熾るもの
夢主の名前
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アバル村では、後悔を取り込まれた優しい夢を振り切って、かつての殺戮をまたベルベットは再現した。
リオネル島では、オスカーとテレサ、仲の良い姉弟。
かつてアルトリウスが、ベルベットにそうしてしまったように、ベルベットはテレサの前でオスカーを殺してしまい、喰魔となったテレサも喰らってしまった。
あまりにも執拗に過ぎた、ベルベットへの揺さぶり。
鋭く研がれた氷の刃のようになっていくベルベットに、少し休むように声をかけようとしたが、ロクロウに止められた。
下手な慰めで癒されるようなものではないし、何より、八つ当たりで自分がいらぬ傷を負わされかねない、と。
息つく間もなく、襲撃されたタイタニアに戻れば、殺されたはずのベルベットの弟のライフィセットがカノヌシとして現れて、ベルベットの復讐は無意味だと、醜い怪物だと告げてしまう。
そこまで?と思った。
自分やロクロウのように、裏稼業の家に生まれたわけでもない、ただの村娘だった女の子。
家族が大好きで、寄り添って静かに生きていられたら、それで良かった普通の女の子だった。
そんな子を、大袈裟に、大掛かりに、こんな残酷な方法でここまで追い込まなければ、救われない世界なのか。
いつか二人で食後の後片付けをしていたとき、ベルベットに聞こうと思ったことがある。
“復讐を成し遂げたらどうするの?”
ずっと、気になっていた。
世界の秩序を壊して、多くの人を踏み躙って、その果てにベルベットには何が残るのだろうと。
ただ、考えても無駄なことで、何よりそれは、彼女自身の問題だったから。
きっと、尋ねたところでそんなの成し遂げてから考える、とベルベットは返したろう。
その果てに命を落としたって構わなかったのだろうし、何より復讐したところで得るものなんてないことは、ベルベットが一番わかっていたはずだから。
でも、その復讐は、無意味ものだった。
大好きな弟の仇を討つ為に多くを踏み躙って、犠牲にして、その弟から復讐など望んでないと否定されて、絶望してしまうのは無理もない。
「生きてちゃいけないのよ……」
「いやだぁっ!!」
そうかもしれない。
ここまでのことをした、
ここまでのことに自分も手を貸した。
でも、いつかの夢に魘されて、布団を頭から被って背を向けた彼女を思い出す。
そして、あれ以来見ることがなくて、忘れていた夢も思い出す。
見知らぬ男二人に責められて、それに対して怒り狂っていた人の言葉。
「『うるさい!』」
「あっ!?おい、待て!」
「キキョウ!戻って!」
吸い込まれないよう、自分とエレノアの上に覆い被さって押さえ込んでいてくれていたロクロウの下から這い出て、キキョウはベルベットの元へ走る。
襟巻きを解き、ベルベットの腕に巻き付けて、自分の方へ引き寄せようとする。
それでもカノヌシの力は強大で、ずるずるとキキョウ自身も引き寄せられていく。
だから、迷わず暗器を自分の足に突き刺して、楔として固定した。
「キキョウ!?」
「あんた……何を……?」
「…… め……」
「え……」
「だめ!!許さない!!」
「……!」
まるで夢の人の怒りが自分に乗り移ったかのように、腹立たしくてたまらず、キキョウは腹の底から叫んだ。
ベルベットからすれば、そんなこと言われる筋合いなどないだろう。
ついてきたのは、別に断る理由がなかっただけ。
行く当てもなく、一緒に暮らしていたクロガネが船に乗ったから。
何かやりたいこともあったわけでもなくて、未練たらしくせめてロクロウの側にいたいと思った。
でも、クロガネを人質に取ろうとまでして付き合わせる気だったくせに、ここで何もかも諦めてしまう気でいるベルベットが、なぜかキキョウは許せないと思った。
何より、とキキョウは、必死にベルベットの腕を掴む“仲間であるライフィセット”を見る。
自分はその頃を知らないけれど、対魔士の道具として、意志を奪われ、人形同然だったらしいライフィセット。
それをベルベットが連れ出したのが切っ掛けだったという。
お節介かもしれない。
所詮、他人の自分が言えた義理ではないし、ライフィセットからしても余計なお世話で、迷惑かもしれない。
でも。
「こんな小さな子を自分の都合でここまで付き合わせて振り回したくせに!
この子に大切な人を失う痛みを味合わせて死ぬなんて許さない!」
ベルベットがライフィセットに心を教えた。
何も知らなければ、何かを感じる心がなければ、喪失の痛みや、絶望するを知らなくて良かった。
ベルベット自身が復讐を決意したほど、大切な人を奪われる耐え難い怒りや、苦しみを味わったくせに。
そんなこともわからない、いや、その事実から目を逸らすベルベットが許せなかった。
彼女は世界の敵だ。
それはもう覆しようがない。
けれど、利用されて奪われたことを、利用して奪った相手に怒るぐらいのことは、彼女にも許されて欲しいと思ったのだ。
「ライフィセット、この自惚れ屋に言ってやれ!」
アイゼンが叫ぶ。
彼らしい、手厳しい物言いだけれど、その言葉に背を押されてベルベットのもう片方の手を掴めたライフィセットが、心から悔しいと叫ぶベルベットが。
人でなくなった自分には、痛いぐらい眩しいと思った。