失くしたもの
夢主の名前
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アバル村からタイタニアへと戻る途中、ベルベットが倒れてしまった。
無理もない、殺した筈の親友が、村人が、愛する弟も誰も死んでいなかった。
その幸せな夢を振り切るのに、どれだけ迷い、苦しんだか、幻でもまた友人を手にかけたことが、どれだけ心の負担になったか。
キキョウは、まだ目を覚まさないベルベットの体を拭きながら、
苦悶の表情で眠るその顔を見る。
せめて、夢を見ることすらなく、ただ深く眠ってくれていればいいのだが、きっとそうではないだろう。
推し量りきれない心痛を思い、思わず手を握ってしまう。
「キキョウ、もういい?」
「はい。もう大丈夫ですよ」
衣服を整えきった頃にライフィセットの声が聞こえて、入室を促す。
足早にベルベットの側に寄るが、まだ目を覚ましていないと知って、曇らせたその顔は、やや顔色が悪い。
「本当にご飯、食べなくていいんですか?」
「うん……ベルベットの苦しみを少しでも感じたいから……」
それはかえって、ベルベットの神経を逆撫でることになるのでは、とも思ったが、誰が説得しようともライフィセットの意思は固かった。
聖隷は食事を摂らずとも命の危険はない。なら、好きにさせてやれ、というのが周囲の意見だった。
それでも、こんな小さな子供が空腹を我慢するのは、相当な根気と決意がいる行動だろうに。
「ライフィセットはベルベットが大好きなんですね」
「うん。大好きだから、僕はベルベットを守りたい」
「……」
『俺が守ってやるよ』
いつかの日に、ロクロウが言ってくれた言葉が蘇る。
ロクロウは、嘘を吐くつもりではなかった。
少なくともあの時は、本気でそう思って、そう言ってくれたのはわかっている。
でも、あれは“人間のロクロウ”が言ってくれた言葉だ。
ロクロウが変わってしまったように、キキョウだって人間だった頃とは、大きく変わってしまった。
ライフィセットの、幼いからこそ、真っ直ぐで純粋な好意。
もう、自分には持ち得ないその優しくて温かい想いを、どうかこの先も持ち続けていて欲しいと思った。
「食べたくなったら、無理せず言ってくださいね」
「うん。ありがとう」