怒りの残影
夢主の名前
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「……」
何だったのだろう、あの夢は。
視点こそ自分だけれど、自分のものではなかった。
誰かの体の中に入ってしまって、その誰かが見ているものを、自分も見ていたような不思議な感じだった。
胸に手を当てる。
理屈はわからないが、直感的に原因はこれだろう、という心当たりが思い浮かぶ。
今日の当番を終えて、クロガネの手伝いもひと段落して、ぼんやりと座り込んで海を眺めていた時、横を通りすがった男に声を掛けてしまった。
「あの」
「なんだ」
振り向いた男の目付きは鋭いが、鬱陶しいと思われているわけではないのは知っている。
この船に世話になっている以上、キキョウ自身も彼に対して、それなりに敬意を払っているし、お互いに悪い感情はない。
でも、あまり積極的に声を掛け合うような仲ではないから、こちらが声を掛けたことを不思議に思っているだけだろう。
人より長い時間を生きる聖隷に、アイゼンに聞きたいことがあった。
「あなたが器にしている金貨は、古い時代のものですよね?」
「それがどうした」
「“物に宿った記憶”を見れたりするんですか」
「また唐突な話だな」
「自分でもそう思います」
「結論としては物に宿った記憶や思いを読み取る力は、俺にはない。
大地の下に流れる地脈には、大地の上で起きたことが全てが記憶されている、とは聞いたことはあるが、それも実際に見たことはないな。
かつての古代文明には、大地の記憶のように、物事をその時の光景と音と共に記録しておくものがあったとも聞くが、それも現物がない以上は定かではない」
「そうですか……」
「何か見たのか?」
「いえ……ふと疑問に思っただけです。時間を取らせてすみません」
『うるさい!』
何に怒っていたのだろう。
あそこまで強烈な怒りを抱いて、それを糧に、夢の中の人は何をしたかったのだろう。
また胸に手を置き、目を閉じて奥底にある雲薙に意識を集中させるが、相変わらず目の前は暗いままで何も映ることはなかった。