鉄の音に隠した
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『本当は、私、業魔になった日に自分から殺して、ってシグレ義兄様に願ったんです。
あの人がいなくなってから、ずっと苦しくて、辛くて、死ぬはずだった、死にたかった。』
ヘラヴィーサを発った時から、キキョウの様子が少しおかしかったのにはロクロウも気付いてた。
そして、タイタニアに戻ってきてから、いつの間にかいなくなっている。
きっとクロガネのところだろう、とよく作業している場所に行けば案の定だったが、そこでキキョウが吐露した言葉は予想外なものだった。
すっかり出ていくタイミングを無くし、どうしたものか、と暫し鉄を打つ音に聞き入っていた時だった。
「おい」
「!」
「今度こそ連れてってやれ。途中で起きようが、床で寝るぐらいならちゃんとしたところで寝るよう聞かせて、寝床に放り込め」
「なんでいるってわかったんだよ」
「なんだ。本当にいやがったのか」
「……」
こんなカマかけに引っ掛かるとは……と、自分の迂闊さに呆れた。
なるだけ足音を最小限にして歩み寄り、キキョウのそばに膝をつく。
キキョウの背中と膝の裏に腕を差し込むと、少し身じろいだが、起きる気配はなく、抱えて立ち上がっても、目が開く様子はない。
少しほっとして、そのまま抱え上げて部屋へ向かう。
途中、すれ違った船員が目を丸くしていたが、目線で静かにしてやってくれ、と頼んでそのまま歩き去って部屋へと運んだ。
また、起こさないように細心の注意を払って、ゆっくりとベッドにキキョウを寝かせる。
寝返りの拍子に、襟巻が首を絞めてしまわないように、それも慎重に解いて枕元に置いてやりながら、その寝顔を眺めた。
子供の頃は、キキョウの方が成長が早くて、歳下なのにずっと大人びて見えていたが、今のキキョウはまるで子供のような顔で眠っている。
「死にたかった、とか言うなよ……」
勿論、そうさせたのは、思わせてしまったのは自分自身であるとは、ロクロウも痛いほど思っている。
もう、人間だった頃のような優しい想いは、消えてしまった。
キキョウが刀を持ってなかったことに落胆して、キキョウがもう刀を振おうとしないのが惜しくてたまらなくて。
けれど、キキョウに生きていて欲しかったのは、嘘ではないのだ。
またすぐにでも出航しようとしていたベルベット達に、もうしばらく待ってくれ、と言いにいこうと立ち上がった時だった。
くん、と弱く袖が引っ張られる。
キキョウがロクロウの袖を掴んでいた。
目は閉じていて、寝息も深いから、無意識の行動だろう。
キキョウがこうする時は、悩みに悩んで、でもどうしても抑えきれない懇願をロクロウに伝えようとするときの、今はもうすっかりやらなくなってしまった仕草。
“いかないで”
そう言われたような気がした。
「ごめんな」
そっと、その手をできるだけ優しく外して、ロクロウは部屋を出た。
翌朝、最後に出てきたキキョウの顔色は幾らか良くなっていて、俯くことなくタラップを踏んだその姿に、ロクロウはほっとしたのだった。