鬼の家
夢主の名前
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ある日、同じ主家に使える者同志の結束を固める為、というソウマ本家当主の意向でキキョウはロクロウに宛てがわれた。
ランゲツ家には他にも兄弟がいたが、自分が選ばれたのは歳が一番近かったからだ、とロクロウは思っている。
それも理由の一つだろう。
けれど、顔合わせの少し前、家の者の目を盗んでキキョウはこっそりとランゲツの当主に、シグレに会いに行った。
ソウマの、それも分家の小娘が一人で自分に会いに来て、不躾に聞いてほしいことがあるのだと言えば、訝しげな顔と少し威圧を込めた声で、何だ、と問いただされる。
無理もない、ただでさえランゲツとソウマは同じ主に仕えているのに、その関係は良いものではない。
でも、良くも悪くも、キキョウは自分より体の大きい男に威圧され、見下ろされることに慣れていた。
「あの、もしまだ、ご兄弟のどなたかを私に会わせるかお決まりでないなら、その・・・私、ロクロウ様がいいです」
勇気を振り絞って、会いたい人の名前を告げた。
「ロクロウのこと知ってんのか」
「前にキャスパリーグ様のお屋敷で、一族で新年の挨拶に伺った時転んでしまって・・・。
稽古で脚を痛めてて、立てなくて蹲ってたら、通りがかったロクロウ様が手を取ってくれたから・・・」
『おい、大丈夫か?』
きっと、気まぐれで、彼に取っては取るに足らないことだっただろう。
でも、キキョウにそんなことをしてくれたのは、その男の子が、ロクロウが初めてだった。
縁談は失敗してもいい。
その後、当主や父から叱責を受けることになっても、またもう一度だけでいいからロクロウに会いたかった。
早鐘のように鳴る胸を押さえて、じっとシグレの言葉を待った。
「応。必ず引きずってでも連れてくわ」
「ありがとうございますっ!」
それはキキョウにとってこの上ない幸運であり、おそらくこれで自分の運はほぼ使い果たしてしまったのだろうな、とキキョウは自分の半生を振り返る度に思う。
ロクロウはキキョウのことを覚えていなかったけれど、仲良くなることができた。
「キキョウ。ランゲツ家のロクロウ様はどんな方?」
「えっと・・・」
顔合わせが終わったすぐあと、母に聞かれた。
ランゲツ家の男児らしくいつも稽古に励んでいて、当主で兄のシグレに何度負けても諦めず、挑み続ける一生懸命な人。
それから、クワガタが好きで森に一緒に探しに行って迷子になってしまったけど、けして手をはなさないでいてくれたこと。
傷の手当てをすると、必ずありがとう、を言ってくれること。
そんな取り止めのないことを、キキョウは母に語り聞かせた。
それから、ランゲツ家当主のシグレは自分や母と同じものを見る眼を持っているから、そのことを話せるのも楽しい、とも。
「そう・・・」
弱々しい溜息をついた母の顔がひどく印象的だった。
「ロクロウ様と仲の良い夫婦になれると良いわね」
「はい」
揶揄う様に笑う母の言葉に照れながらも、キキョウはそうなりたい、と返した。