朝寝は叶わず
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バンエルティア号の甲板には、朝の静寂を切り裂くような鋭い風切り音が響き渡っていた。
「ふっ!はっ!」
上半身裸のまま、凄まじい気迫で大太刀を振るうロクロウ。
その顔には、いつもの飄々とした余裕はなく、何か見えない敵と必死に戦っているような必死さがあった。
素振りを千回ほど超え、ようやく頭の中の金木犀の香りが薄れてきた頃。
「またかお前」
背後から、呆れ果てたような低い声が降ってきた。
振り返ると、腕を組んだアイゼンが、ジト目でこちらを見ている。
「おう、アイゼン。朝から精が出るだろ?」
「精の出し方を間違えていると言っているんだ。その妙な殺気と熱気を撒き散らして剣を振るうのは、これで何度目だ」
「うっ……」
「お前のその“今朝の”鍛錬の理由など、言われなくても嫌というほど察しがつくんだがな」
アイゼンの冷ややかな指摘に、流石のロクロウも少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「悪ぃな。けど、朝から盛って理性を飛ばさないよう努力してるだけ、俺も理性的で偉いと思わないか?」
「どの口が言う。その努力をさせられている時点で、お前はすでに負けていることになぜ気づかん」
「ははっ。痛いとこ突いてくるな」
男同士の気まずい沈黙が、波の音に掻き消されていく。
アイゼンは深くため息をつき、踵を返す。
「……まあいい。せいぜい、その努力がベルベットたちにバレないよう、風下で振るうことだな」
「わかってるよ」
アイゼンの小言を背に受けながら水を頭から被り、汗と一緒に残り香を流す。
食堂へ行けば、厨房の方でベルベットとキキョウの声が聞こえた。
結局、当番がなくても手伝いに入ったらしく、共に朝食の準備をしている。
何気なしに中を伺えば、あの甘い香りでロクロウを惑わした凄艶さはなりを潜めて、穏やかで爽やかな朝の日常の中にキキョウはいる。
まるで昨夜の情事などなかったかのように、朝に相応しい清潔感をまとうキキョウの姿に、ロクロウは言葉として形に出せない何かを喉元に留めていた。
「ふっ!はっ!」
上半身裸のまま、凄まじい気迫で大太刀を振るうロクロウ。
その顔には、いつもの飄々とした余裕はなく、何か見えない敵と必死に戦っているような必死さがあった。
素振りを千回ほど超え、ようやく頭の中の金木犀の香りが薄れてきた頃。
「またかお前」
背後から、呆れ果てたような低い声が降ってきた。
振り返ると、腕を組んだアイゼンが、ジト目でこちらを見ている。
「おう、アイゼン。朝から精が出るだろ?」
「精の出し方を間違えていると言っているんだ。その妙な殺気と熱気を撒き散らして剣を振るうのは、これで何度目だ」
「うっ……」
「お前のその“今朝の”鍛錬の理由など、言われなくても嫌というほど察しがつくんだがな」
アイゼンの冷ややかな指摘に、流石のロクロウも少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「悪ぃな。けど、朝から盛って理性を飛ばさないよう努力してるだけ、俺も理性的で偉いと思わないか?」
「どの口が言う。その努力をさせられている時点で、お前はすでに負けていることになぜ気づかん」
「ははっ。痛いとこ突いてくるな」
男同士の気まずい沈黙が、波の音に掻き消されていく。
アイゼンは深くため息をつき、踵を返す。
「……まあいい。せいぜい、その努力がベルベットたちにバレないよう、風下で振るうことだな」
「わかってるよ」
アイゼンの小言を背に受けながら水を頭から被り、汗と一緒に残り香を流す。
食堂へ行けば、厨房の方でベルベットとキキョウの声が聞こえた。
結局、当番がなくても手伝いに入ったらしく、共に朝食の準備をしている。
何気なしに中を伺えば、あの甘い香りでロクロウを惑わした凄艶さはなりを潜めて、穏やかで爽やかな朝の日常の中にキキョウはいる。
まるで昨夜の情事などなかったかのように、朝に相応しい清潔感をまとうキキョウの姿に、ロクロウは言葉として形に出せない何かを喉元に留めていた。