未練の貌
夢主の名前
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「たっく……ろくな剣と剣士にあいやしねぇ」
クロガネが己が手で鍛えた剣の切れ味を試す為、坑道の外へ出て、山賊を相手にして帰ってくると、棲家に見知らぬ人間の女が膝を抱えて座り込んでいた。
「ここで何してる!?」
「あ、待ってお爺様!私です!」
「!?」
慌てふためきながら立ち上がる女の声は、ここで共に住むようになって久しい、業魔の娘と同じ音をしていた。
「キキョウ!?お前人間に戻ったのか!?」
「いえ、“擬態”です」
そう言うや否や、その姿は黒い靄に覆われて、それが晴れて現れたのは見慣れた業魔の姿だった。
「まだ長時間あの姿ではいれません。でも少しずつ擬態できる時間が伸びてきたんです」
人に近い姿をした業魔もいなくはない。
だが、どうしても業魔として何かしらの特徴は表れるものであり、ましてや、一目で業魔とわかる姿の者が、あんな完璧な擬態を成せるなど聞いたことがない。
そんな業魔がいると知れたら、世間、特に対魔士なんぞはたまったものではないだろう。
並大抵のことではない。
その並大抵のことではないことを成すために、自分が見ていないところで、一体どれだけの鍛錬を重ねていたのかと、クロガネは未だに自分の見たものを信じられずにいる。
「そこまでして人間の中で暮らしてぇか……」
「え?いえ、人に擬態出来れば町で働いて、足りない物資なんかを手に入れられるかと思いまして……」
「は?」
これまた、思わぬ答えが返ってきたものだ。
これから先、より完璧な擬態をなせるだろうくせに、この娘はまだここに住み続けるつもりだというのだ。
「そのまま町で暮らしゃいいだろうが。
こんな穴倉で鉄ばっか打ってる年寄りと暮らして、何が面白ぇってんだ」
「今の私にここ以上に安心出来る場所はないです……」
「……好きにしろ」
呆れ混じりにそう言えば、ほっとした顔でキキョウは笑う。
いつものように手入れしてやるから出せ、と言えば、キキョウが両手を上に向け、その手の中に深緋拵の太刀が一振り顕れた。
クロガネがそれを受け取り、手入れを始めると、背後でくすくすとキキョウが微笑ましげに忍び笑いを漏らす。
「なんだ」
「あ、ごめんなさい……でも、前から思ってたんですけど、手入れは建前で、ただお爺様が雲薙を見たいだけですよね?」
バレていた。
その気恥ずかしさにクロガネは、喉の奥で唸るような声をあげる。
だが、時間の問題であったのも確かだ。
キキョウの体内に納められているうちは、錆も曇りもしないのだから。
「悪ぃかよ……號嵐はどうしても超えてぇ刀だが、こいつは純粋に美しい、と見惚れちまう刀だ」
ほんのりと赤みを帯びた刀身。
凛とした覇気を放ちながらも、目にした者の視線を逸らせぬ冷たい魔性を帯びた刃。
自ずと畏敬を感じさせる、號嵐に並ぶだろう大業物がすぐそばにあって、見たくない鍛治師がいるものか。
「どうぞ気の済むまで。約束ですから」
普段はこの刀を厭うて、身の内に隠しているキキョウだが、クロガネが夢中になってそれを眺める姿を見るのは好きらしい。
「最近、襟巻と体術で戦えるように鍛錬しているんです。
これなら、町で身に付けていても怪しまれないでしょう?」
「またまだるっこしい戦い方しやがって」
剣を持つことをやめてしまった娘。
クロガネはいつも思うのだ。
この娘が、全身全霊でこの太刀を振るったならば、きっと自分が見てきた何よりも美しいのだろうと。
そして、それを見られないことが、つくづく惜しくてたまらないと。
クロガネが己が手で鍛えた剣の切れ味を試す為、坑道の外へ出て、山賊を相手にして帰ってくると、棲家に見知らぬ人間の女が膝を抱えて座り込んでいた。
「ここで何してる!?」
「あ、待ってお爺様!私です!」
「!?」
慌てふためきながら立ち上がる女の声は、ここで共に住むようになって久しい、業魔の娘と同じ音をしていた。
「キキョウ!?お前人間に戻ったのか!?」
「いえ、“擬態”です」
そう言うや否や、その姿は黒い靄に覆われて、それが晴れて現れたのは見慣れた業魔の姿だった。
「まだ長時間あの姿ではいれません。でも少しずつ擬態できる時間が伸びてきたんです」
人に近い姿をした業魔もいなくはない。
だが、どうしても業魔として何かしらの特徴は表れるものであり、ましてや、一目で業魔とわかる姿の者が、あんな完璧な擬態を成せるなど聞いたことがない。
そんな業魔がいると知れたら、世間、特に対魔士なんぞはたまったものではないだろう。
並大抵のことではない。
その並大抵のことではないことを成すために、自分が見ていないところで、一体どれだけの鍛錬を重ねていたのかと、クロガネは未だに自分の見たものを信じられずにいる。
「そこまでして人間の中で暮らしてぇか……」
「え?いえ、人に擬態出来れば町で働いて、足りない物資なんかを手に入れられるかと思いまして……」
「は?」
これまた、思わぬ答えが返ってきたものだ。
これから先、より完璧な擬態をなせるだろうくせに、この娘はまだここに住み続けるつもりだというのだ。
「そのまま町で暮らしゃいいだろうが。
こんな穴倉で鉄ばっか打ってる年寄りと暮らして、何が面白ぇってんだ」
「今の私にここ以上に安心出来る場所はないです……」
「……好きにしろ」
呆れ混じりにそう言えば、ほっとした顔でキキョウは笑う。
いつものように手入れしてやるから出せ、と言えば、キキョウが両手を上に向け、その手の中に深緋拵の太刀が一振り顕れた。
クロガネがそれを受け取り、手入れを始めると、背後でくすくすとキキョウが微笑ましげに忍び笑いを漏らす。
「なんだ」
「あ、ごめんなさい……でも、前から思ってたんですけど、手入れは建前で、ただお爺様が雲薙を見たいだけですよね?」
バレていた。
その気恥ずかしさにクロガネは、喉の奥で唸るような声をあげる。
だが、時間の問題であったのも確かだ。
キキョウの体内に納められているうちは、錆も曇りもしないのだから。
「悪ぃかよ……號嵐はどうしても超えてぇ刀だが、こいつは純粋に美しい、と見惚れちまう刀だ」
ほんのりと赤みを帯びた刀身。
凛とした覇気を放ちながらも、目にした者の視線を逸らせぬ冷たい魔性を帯びた刃。
自ずと畏敬を感じさせる、號嵐に並ぶだろう大業物がすぐそばにあって、見たくない鍛治師がいるものか。
「どうぞ気の済むまで。約束ですから」
普段はこの刀を厭うて、身の内に隠しているキキョウだが、クロガネが夢中になってそれを眺める姿を見るのは好きらしい。
「最近、襟巻と体術で戦えるように鍛錬しているんです。
これなら、町で身に付けていても怪しまれないでしょう?」
「またまだるっこしい戦い方しやがって」
剣を持つことをやめてしまった娘。
クロガネはいつも思うのだ。
この娘が、全身全霊でこの太刀を振るったならば、きっと自分が見てきた何よりも美しいのだろうと。
そして、それを見られないことが、つくづく惜しくてたまらないと。