背比べ
夢主の名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「シグレ義兄様」
「応。どうした」
弟達では絶対に言わない、仮に口にしたならこちらから気色悪い、と罵倒してしまいそうな可愛げのある呼称でシグレを呼ぶのはこの娘だけだ。
うちに来るときはロクロウのそばをついて離れない娘が、一人だけでシグレの所へ来たのもこれまた珍しかった。
「あの……どうしてシグレ義兄様はロクロウ様に意地悪するの……?」
「つい弟をイジメちまうのがクセなんだよ。
まぁ、確かにこないだはお前が気まずかったか。悪かったな」
「そ、そうじゃなくて……」
「あ?」
「もっと頑張ったな、とか、頑張ってるな、とかそういう風に言ってあげてほしくて……」
「俺に褒められる為にやってどうすんだよ。
そんなくだらねぇことの為に鍛錬したってなまくらにしかならねぇぞ」
「それは……そうかも、ですけど……。
でも、私は稽古が辛くても母が頑張ったね、えらいね、って言ってくれると嬉しいし、もっと頑張ろう、って頑張れます。
人を傷つけるのは怖いし、哀しいけど、そう言ってくれる人を守りたいから」
「……」
「え、あ、あの?」
思わず、シグレはキキョウの頭をくしゃりと撫でていた。
柄にもなく、不憫な娘だとシグレは思った。
ランゲツもソウマも裏稼業を担う一族だ。
互いに気に食わないと思い、因縁はあれどそこは変わらない。
だが、かつては誇り高き武人であったであろう、あの一族は今となってはすっかり膿んで腐り切り、ランゲツ家よりも暗く、汚いこともやってのけていると聞く。
だと言うのに、この娘はあまりにも心根が穏やかで優しい。
そしてその心根に見合わない剣の才を持っている。
疎まれているのは一族の出ではなく、その辺の孤児を拾ってきたから、と、言われた方がまだ納得できる。
いや、この娘こそ、真の意味でソウマを継ぐべき人間だったはずなのだ。
「お前みたいな良い手本が目の前にいるってのによ。
出来は悪くねぇのに、だから駄目なんだあいつは。
そう考えるとあいつにお前は勿体ねぇな。
ロクロウじゃなくて俺の嫁になるか?」
勿論、冗談だった。
十も歳が離れている幼子をそういう目で見れるはずもない。
「い……いやっ!!」
「!」
そんな大声が出せたのか、と驚いて、思わずシグレはぽかん、として見下ろしてしまった。
対してキキョウは、ロクロウの兄に、ランゲツ家の当主に無礼を働いてしまった、と顔を青くしてすぐに頭を下げた。
「あ……ごめんなさい……。
シグレ義兄様は好きです、好きですけど結婚したいのは義兄様じゃなくて……!」
「……あっはっはっはっはっはっ!」
「!?」
「何してんだよ……」
腹から声をあげて笑うシグレと、今にも泣きそうな目で困惑し、助けを求める視線をよこしてくるキキョウ、という状況に出会したロクロウは二人を胡乱な目で見ていた。
「お前ほんとよくべそかくよな」
「ごめんなさい……」
「いや、悪いってわけじゃ……」
少し乱暴ではあるが、ロクロウがキキョウの顔を自分の袖で拭いてやると、キキョウの目元がわずかに赤くなってしまっている。
けれど、キキョウは嬉しそうにはにかんで、そろそろ門限だと頭を下げて、生家へ帰って行った。
本当に仲良くなったもんだ、とある種の微笑ましさ、そしてこれは揶揄ってやらねば、とシグレが悪癖を出しそうになった時、先にロクロウがシグレを睨め上げた。
「身長のこといじってくんのやめろ」
「あ?タッパどころか器も小せぇ……」
「俺じゃなくて!キキョウが気にするだろ!」
「……ふはっ!」
「何がおかしいんだよ!」
「いや、お前に言い負かされるとは思わなくてよ。
わかった、わかった。
タッパのことは何も言わないでやる」