彷徨の果てに
夢主の名前
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パチパチと爆ぜる火の音と、微かな温もり。
キキョウが弾かれたように目を開けると、そこは無数の剣や金床が並ぶ、工房のような空間だった。
そして視線の先には、異形の影。
偉丈の鎧の業魔がキキョウを見下ろしていた。
「っ……! 業魔!」
身を起こすより早く、キキョウは雲薙を抜き、その黒い鎧に向かって渾身の斬撃を放った。
ガァンッ! と、火花が散る。
だが、手応えは絶望的なほど硬かった。
雲薙の一撃を受けてなお、その業魔の鎧には、傷一つ付いていなかったのだ。
驚愕に目を見開くキキョウに、その業魔は、呆れたように深くため息をついた。
「お前も業魔だろうがよ」
「え……」
その呆れ返ったような声に、キキョウは改めて周囲を見渡した。
並べられた武具と、温かい炎。
粗末ながらも、敷かれた布の上に横たわっていた自分。
この業魔が、倒れていた自分をここまで運び、休ませてくれていたのだと気づく。
キキョウは即座に雲薙を鞘に収めると、その場に深く正座し、地に額をつけて謝罪する。
「っ……早とちりをいたしました、申し訳ありません」
「威勢がいいんだか律儀なんだか……お前どっからきた? この辺じゃ見かけねぇなりだ」
「キャスパリーグ領から出奔してきました……理由は、私の姿を見ていただければわかるかと……」
目を伏せたキキョウの言葉に、クロガネは少しだけ声のトーンを変えた。
「キャスパリーグ領? よくこんなとこまできたもんだな……まて、もしやお前、ランゲツの関係者か?」
「あ、いえ。私はソウマ家のものです」
「ソウマ? ……なら、お前がさっき振るったそいつは……」
クロガネの視線が、キキョウの傍らにある鞘に釘付けになった。
「雲薙です……訳あって、本家から持ち出してきてしまいました……」
言い淀むキキョウに対し、クロガネはそれ以上深く踏み込むことはしなかった。ただ、武骨な声で短く言い放つ。
「業魔になんぞなってるぐらいだ。何があったかは聞かねぇよ」
「ありがとうございます……」
キキョウの緊張がふっと解け、その瞳に、微かな安堵の色が滲んだ。
「行く当てはあるのか」
クロガネの問いに、キキョウは静かに首を横に振る。
「俺も『刀斬り』なんぞ呼ばれてる札付きだ。巻き込まれねぇようにしろ」
それは暗に、ここにいることを許してくれる言葉だった。
「……はい」
「それと、その雲薙、たま俺に手入れさせろ。それがここに出入りする条件だ」
「わかりました。
申し遅れました、私はキキョウ・ソウマです」
「クロガネだ」
「クロガネ……?まさか征嵐の……!?」
號嵐を超える為、刀を打ち続ける怨霊、と伝え聞く伝説の鍛治師が業魔として今まで生きていたことに、キキョウは驚愕する。
だが、すぐにそれは些細なこととなる。
暗く冷たい坑道の奥深く。
炎の爆ぜる音と、鉄を打つ音だけが響くその場所は、業魔になってしまったキキョウにとって、初めての「安心できる居場所」となった瞬間だった。
キキョウが弾かれたように目を開けると、そこは無数の剣や金床が並ぶ、工房のような空間だった。
そして視線の先には、異形の影。
偉丈の鎧の業魔がキキョウを見下ろしていた。
「っ……! 業魔!」
身を起こすより早く、キキョウは雲薙を抜き、その黒い鎧に向かって渾身の斬撃を放った。
ガァンッ! と、火花が散る。
だが、手応えは絶望的なほど硬かった。
雲薙の一撃を受けてなお、その業魔の鎧には、傷一つ付いていなかったのだ。
驚愕に目を見開くキキョウに、その業魔は、呆れたように深くため息をついた。
「お前も業魔だろうがよ」
「え……」
その呆れ返ったような声に、キキョウは改めて周囲を見渡した。
並べられた武具と、温かい炎。
粗末ながらも、敷かれた布の上に横たわっていた自分。
この業魔が、倒れていた自分をここまで運び、休ませてくれていたのだと気づく。
キキョウは即座に雲薙を鞘に収めると、その場に深く正座し、地に額をつけて謝罪する。
「っ……早とちりをいたしました、申し訳ありません」
「威勢がいいんだか律儀なんだか……お前どっからきた? この辺じゃ見かけねぇなりだ」
「キャスパリーグ領から出奔してきました……理由は、私の姿を見ていただければわかるかと……」
目を伏せたキキョウの言葉に、クロガネは少しだけ声のトーンを変えた。
「キャスパリーグ領? よくこんなとこまできたもんだな……まて、もしやお前、ランゲツの関係者か?」
「あ、いえ。私はソウマ家のものです」
「ソウマ? ……なら、お前がさっき振るったそいつは……」
クロガネの視線が、キキョウの傍らにある鞘に釘付けになった。
「雲薙です……訳あって、本家から持ち出してきてしまいました……」
言い淀むキキョウに対し、クロガネはそれ以上深く踏み込むことはしなかった。ただ、武骨な声で短く言い放つ。
「業魔になんぞなってるぐらいだ。何があったかは聞かねぇよ」
「ありがとうございます……」
キキョウの緊張がふっと解け、その瞳に、微かな安堵の色が滲んだ。
「行く当てはあるのか」
クロガネの問いに、キキョウは静かに首を横に振る。
「俺も『刀斬り』なんぞ呼ばれてる札付きだ。巻き込まれねぇようにしろ」
それは暗に、ここにいることを許してくれる言葉だった。
「……はい」
「それと、その雲薙、たま俺に手入れさせろ。それがここに出入りする条件だ」
「わかりました。
申し遅れました、私はキキョウ・ソウマです」
「クロガネだ」
「クロガネ……?まさか征嵐の……!?」
號嵐を超える為、刀を打ち続ける怨霊、と伝え聞く伝説の鍛治師が業魔として今まで生きていたことに、キキョウは驚愕する。
だが、すぐにそれは些細なこととなる。
暗く冷たい坑道の奥深く。
炎の爆ぜる音と、鉄を打つ音だけが響くその場所は、業魔になってしまったキキョウにとって、初めての「安心できる居場所」となった瞬間だった。