背比べ
夢主の名前
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「……」
「……」
二人が許嫁となって一年程経った頃。
出会った頃はさほど変わらない、なんならロクロウよりやや小さかったキキョウの背は、ロクロウの頭一つ分程も高くなっていた。
子供のうちは女児の方が成長が早いと言うが、明らかに育ち過ぎている。
キキョウは、恥ずかしそうに俯いてロクロウから離れたところを歩くようになったし、稽古では稽古場の隅の方で静かに正座し、見取稽古ばかりしていた。
「そんなに離れてなくてもいいだろ」
「ここで大丈夫……」
別に自分より背が高いからと、ロクロウがキキョウを疎ましく思うことはない。
悔しいは悔しいが、その内、自分の方が背が高くなる。
問題はそこではない。
「ほら構えろ」
「え?え?あ、あの……」
「俺はこっちだ!」
「おお、わりぃ、わりぃ!ちょっと前はお前のがデカかったからなぁ」
ロクロウの横を通り、隅に正座していたキキョウに木刀を差し出したシグレ。
明らかにわざとだ。
キキョウの背が自分より高くなったことは仕方ないにしても、兄達、特にシグレがそれをネタにして、揶揄ってくるのが癪に障る。
初手から腹立たしい思いをさせられ、冷静さを欠かされる。
深呼吸で気持ちを切り替え、シグレに打ち込みにいくが、ニヤニヤと相変わらず不遜な態度玉軽々とロクロウの剣はいなされていく。
どうして届かない。
どうして。
「がっ……!?」
「あ、やべ」
「!」
いつもより速く、そして強い一撃をくらってしまい、受身が間に合わなかった。
勢いは衰えることなく、壁に激突しそうになった時、ロクロウの背中に誰かの手のひらが優しく添えられる。
次にもう片方の手が腕を優しく、それでいてしっかりと掴んで柔らかい体がぴたり、と寄り添い、くるり、と視界と体が回転した。
ロクロウは体を打ち付けることなく、キキョウに肩を貸してもらうような体勢で壁の際に立っていた。
「よかった……!」
「お、応、ありがと……!」
ほっ、と静かな安堵の溜息を溢すキキョウ。
ロクロウとシグレは稽古場の中央で打ち合い、キキョウはそこから離れた隅で正座をしており、弾き飛ばされたとはいえど、かなり距離があった。
それなのに、キキョウはロクロウが壁に激突するよりも速く間に滑り込んだどころか、見事な体捌きで勢いを殺し、ロクロウを受け止めてみせたのだ。
「キキョウ」
「っ!?は、はい……!」
いつもよりずっと低く、重い声でシグレに名を呼ばれたキキョウはびくり、と細い肩を震わせる。
その声色に負けない威圧感を滲ませたシグレの厳しい視線が、よりキキョウを萎縮させた。
「余計な手ぇ出すんじゃねぇ。
次もお前に助けてもらえると勘違いするだろうが」
「ごめんなさい……」
「キキョウは悪くないだろ!」
「バーカ。お前が一番悪いのは当然だろ。
背だけじゃなくて速さもこいつに抜かされてんぞ。精進しろよ」
そう言って、シグレは稽古場から出て行った。
「くそっ!!」
悔し紛れに悪態を吐けば、ロクロウを支えていたキキョウがびくり、と身を震わせる。
ハッとして顔を上げてキキョウを見れば、今にも涙をこぼしそうになりながら、罰の悪そうな顔をしていた。
「お前に言ったんじゃないからな」
「はい……」
「キキョウ」
不甲斐なさと悔しさ、それに照れ臭さもある。
それでも勝ちたい。
シグレを超えたい。
「さっきの縮地、教えてくれ」
「え。あ、はい。
私のやり方で良いなら」
悔しいけれど、今のキキョウの方が速いのは覆しようがない事実だ。
なら、そのキキョウから教わるのが一番だと、ロクロウはキキョウに縮地を教わることにした。
始めは、ここ最近のキキョウのように見取り稽古として、キキョウが走る時の体勢、足捌きなどを一挙一動を見逃さないように注視する。
シグレが見習えと言うだけのものであることを理解すると、キキョウの方が歳下で、しかも“女”なのに、とそんな風に思ってしまった思考を、頭を振って追い出した。
「二人三脚で、お前の足捌き覚えたい」
「えっと、それは、その……」
「俺の方がいつか絶対デカくなるから気にすんな。
というか……そんなことで嫌いになったりしねぇよ」
「! ふふっ。わかりました」
恥ずかしがってまごついていたキキョウだったが、ロクロウの嫌いにならない、という言葉にくすぐったそうに笑った。
「最初はゆっくり脚を出していきます」
「応」
手拭いでお互いの足首を結えて、肩を組み、何度も何度も、時折脚をもつれさせて二人で転んだりしながら、二人で稽古場の端から端を走り続けた。
「……」
二人が許嫁となって一年程経った頃。
出会った頃はさほど変わらない、なんならロクロウよりやや小さかったキキョウの背は、ロクロウの頭一つ分程も高くなっていた。
子供のうちは女児の方が成長が早いと言うが、明らかに育ち過ぎている。
キキョウは、恥ずかしそうに俯いてロクロウから離れたところを歩くようになったし、稽古では稽古場の隅の方で静かに正座し、見取稽古ばかりしていた。
「そんなに離れてなくてもいいだろ」
「ここで大丈夫……」
別に自分より背が高いからと、ロクロウがキキョウを疎ましく思うことはない。
悔しいは悔しいが、その内、自分の方が背が高くなる。
問題はそこではない。
「ほら構えろ」
「え?え?あ、あの……」
「俺はこっちだ!」
「おお、わりぃ、わりぃ!ちょっと前はお前のがデカかったからなぁ」
ロクロウの横を通り、隅に正座していたキキョウに木刀を差し出したシグレ。
明らかにわざとだ。
キキョウの背が自分より高くなったことは仕方ないにしても、兄達、特にシグレがそれをネタにして、揶揄ってくるのが癪に障る。
初手から腹立たしい思いをさせられ、冷静さを欠かされる。
深呼吸で気持ちを切り替え、シグレに打ち込みにいくが、ニヤニヤと相変わらず不遜な態度玉軽々とロクロウの剣はいなされていく。
どうして届かない。
どうして。
「がっ……!?」
「あ、やべ」
「!」
いつもより速く、そして強い一撃をくらってしまい、受身が間に合わなかった。
勢いは衰えることなく、壁に激突しそうになった時、ロクロウの背中に誰かの手のひらが優しく添えられる。
次にもう片方の手が腕を優しく、それでいてしっかりと掴んで柔らかい体がぴたり、と寄り添い、くるり、と視界と体が回転した。
ロクロウは体を打ち付けることなく、キキョウに肩を貸してもらうような体勢で壁の際に立っていた。
「よかった……!」
「お、応、ありがと……!」
ほっ、と静かな安堵の溜息を溢すキキョウ。
ロクロウとシグレは稽古場の中央で打ち合い、キキョウはそこから離れた隅で正座をしており、弾き飛ばされたとはいえど、かなり距離があった。
それなのに、キキョウはロクロウが壁に激突するよりも速く間に滑り込んだどころか、見事な体捌きで勢いを殺し、ロクロウを受け止めてみせたのだ。
「キキョウ」
「っ!?は、はい……!」
いつもよりずっと低く、重い声でシグレに名を呼ばれたキキョウはびくり、と細い肩を震わせる。
その声色に負けない威圧感を滲ませたシグレの厳しい視線が、よりキキョウを萎縮させた。
「余計な手ぇ出すんじゃねぇ。
次もお前に助けてもらえると勘違いするだろうが」
「ごめんなさい……」
「キキョウは悪くないだろ!」
「バーカ。お前が一番悪いのは当然だろ。
背だけじゃなくて速さもこいつに抜かされてんぞ。精進しろよ」
そう言って、シグレは稽古場から出て行った。
「くそっ!!」
悔し紛れに悪態を吐けば、ロクロウを支えていたキキョウがびくり、と身を震わせる。
ハッとして顔を上げてキキョウを見れば、今にも涙をこぼしそうになりながら、罰の悪そうな顔をしていた。
「お前に言ったんじゃないからな」
「はい……」
「キキョウ」
不甲斐なさと悔しさ、それに照れ臭さもある。
それでも勝ちたい。
シグレを超えたい。
「さっきの縮地、教えてくれ」
「え。あ、はい。
私のやり方で良いなら」
悔しいけれど、今のキキョウの方が速いのは覆しようがない事実だ。
なら、そのキキョウから教わるのが一番だと、ロクロウはキキョウに縮地を教わることにした。
始めは、ここ最近のキキョウのように見取り稽古として、キキョウが走る時の体勢、足捌きなどを一挙一動を見逃さないように注視する。
シグレが見習えと言うだけのものであることを理解すると、キキョウの方が歳下で、しかも“女”なのに、とそんな風に思ってしまった思考を、頭を振って追い出した。
「二人三脚で、お前の足捌き覚えたい」
「えっと、それは、その……」
「俺の方がいつか絶対デカくなるから気にすんな。
というか……そんなことで嫌いになったりしねぇよ」
「! ふふっ。わかりました」
恥ずかしがってまごついていたキキョウだったが、ロクロウの嫌いにならない、という言葉にくすぐったそうに笑った。
「最初はゆっくり脚を出していきます」
「応」
手拭いでお互いの足首を結えて、肩を組み、何度も何度も、時折脚をもつれさせて二人で転んだりしながら、二人で稽古場の端から端を走り続けた。